周防正行監督の最新作は“活動弁士”をテーマにしてコメディドラマ!
コメディから社会派まで幅広いジャンルの名作を世に送り出してきた、映画監督の周防正行。監督が、約5年ぶりにメガホンを取ったのが、12月13日公開の映画『カツベン!』。現代人には聞き慣れない“カツベン”とは、映画に音がなかった時代に、上映中のスクリーンの横で自らの声で映画を説明し、活動写真(=無声映画)を彩る“活動弁士”のこと。映画『カツベン!』は、その活動弁士を夢見る青年を主人公(主演:成田 凌)にした、コメディドラマです。
今回、映画大好きのカバーガール兼ビジュアルエディターの望月芹奈が、周防監督にインタビュー! Vol.2では、貴重なプライベートのお話を伺ってきました。
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▶︎監督、最新映画『カツベン!』の魅力を語る【周防正行監督×Domaniモデル望月芹名 スペシャル対談 vol.1】
“映画”を基本にした生活を送らないことが、僕の中の約束事です!
望月芹名(以下、芹名): 監督は、普段からご自身の作品へのアイデアをどのように生み出していらっしゃるのですか?
”周防正行監督(以下、監督): 自分の信条として“映画のネタは自ら探すな”としているんです。でもね、映画監督だから、どうしても「これは映画になるな」とかそういう見方をしちゃうんですよ。それをさせないように、映画のネタは探さずに、普通の生活をしようと。そこで自分が驚いたことや面白いと思ったことがあったら、その世界を取材するのが、まず第一歩。自分がこういう映画を撮りたいと思いながら過ごしていると、見つけたネタやテーマを自分の世界に引き寄せようして、どうしても自分の都合の良いふうにしか描けないと思うんです。自分が興味を持ったことに対して、僕のほうから近づくことが大事。感じたことを、どのように映画で表現するかを考えるんです。そうすると、僕の映画のスタイルは常に変わらざる得ないんです。自分の価値観を広げたいし、まったく知らなかったことを知りたいので、なるべく“映画”を基本に世の中を見ないようすることが、僕の中の約束事かな。
例えば、映画『それでもボクはやってない』(2007年公開)は、ある日新聞を読んでいたとき、“痴漢事件、東京高裁で逆転無罪”という記事を見つけて、「え?これ何?」と思ったのが最初。現実の裁判は、僕が今まで小説や映画で見て想像していたものと違うのではないか?と思って、取材を始めたんです。そうしたら、驚くべきことがたくさんあった。その驚くべき世界をどうやって映画で世の中に伝えるか考えて作ったのが、あの作品なんです。振り返ると、いつも“驚き”をスタートして映画を作っているんだなって思いますね。
芹名: どんなことに対しても興味を持たれているというか、好奇心が旺盛でいらっしゃるんですね。
監督:自分ではそんな意識はないんだけどね。例えば、みなさんだって、なんか面白いことがあると、友達に「ねぇ聞いて聞いて!」って、ちょっと話に尾ひれつけて大げさに話したりして、それで笑ってもらえると、ちょっと嬉しかったりするじゃない? 僕は、そんなことがしょっちゅうある(笑)。家に帰って、奥さんに話して、そこで共感を得て満足するようなら、映画にはならない。周りの人に話しても解消できず、世界中の人に知ってもらいたいと思ったときに映画になるんです。
お互いの価値観の違いを楽しむことが、結婚生活がうまくいく秘訣
芹名: 奥様とはとても仲の良いご夫婦のイメージがありますが、 円満な結婚生活の秘訣はなんでしょうか。
監督:僕ね、結婚するカップルによく言うんだけど、「結婚は修行」って(笑)。異文化交流なんです。同じ日本で、同じ時代を生きていても、それぞれの家庭で身につけていたことは違うんです。僕は、結婚してすぐに、開けっ放しのドアと付けっ放しの電気を見て、「たみちゃん(奥様の草刈民代さん)って、“ぱなし”なんだ!」って思わず言いました(笑)。僕の常識で言うとあり得ない状況を、ちょっとしたことで発見しちゃうんですよね。でも、それは当たり前のこと。世の中にはいろんな人がいるんです。
僕が結婚していちばん変わったことは、人間が大きくなったことかもしれない。奥さんとささいなことで衝突して、それを通して、世の中にはいろんな人がいることが当たり前と思えるようになって、自然に受け入れられるようになったと思います。人とわかり合うには、まずお互いを知らないとね。言ってみれば異文化交流です!そして 、価値観の違いを楽しく思えるようになったから、長く続いているのかもしれないですね。それが秘訣かな。最初は喧嘩をすることもあったけれど、今は、結婚によってとても寛容になれた気がして、奥さんに感謝しています。
芹名: すごく素敵ですね。でも、お仕事では監督と女優という関係になりますよね。その時は、プライベートの関係性とはまた違うんでしょうか?
監督: 全然違います! 面倒くさいですよ(笑)。だって、現場にいて家に帰ってもいるわけだから、そりゃ面倒くさいでしょ? 意識して分けないといけないから。でも、それは良いとか悪いとかではなくてね。映画『終の信託』(2012年公開)の撮影時は、役者自身もすごく追い詰められる作品だったから、さすがに取り調べのシーンの前後は別々に暮らしていました。あの時期は、ある意味、夫婦でいるのはすごく大変でしたね。
あとは、僕らは職場結婚みたいなものだったし、結婚してからも彼女はバレリーナとして活躍していたんですよね。僕はそれまでバレエに興味なかったけど、やっぱりバレエも好きになれたんですよ。相手がやっていることを好きになること、相手の仕事を理解することは、すごく大事なこと。お互い尊敬し合わないと、うまくいかないと思います。
芹名: 私は、結婚して感じることは、人って自分の時間に余裕があると感謝したりできるんですけど、自分が忙しいと相手の大変だということを分かりつつも忘れてしまって、相手にぶつかってしまったり、イライライしたりしてしまうんですよね。
監督: 僕も、そういう経験はあるからすごく分かります。でもね、大丈夫だよ。それは、月日が経つにつれて、相手を思いやれるようになってくるから。こういうときには余計なことを言っちゃいけないとか、学んでいくから大丈夫。「言い過ぎちゃったな」「余計なこと言っちゃったな」って反省したりするでしょ? それを積み重ねていくと、だんだん相手のことを考えてあげられるようになる。だから、人間が大きくなっていくんですよね。人は、経験して、学習して、変われるんです。違う価値観と出会うことで、自分の人間としての幅が広がっていくんだよね。だから、結婚は修行(笑)!
芹名: ありがとうございました。
世界的な映画監督でありながら、結婚生活の先輩として気さくにお話をしてくださった周防監督。周防正行監督の最新作『カツベン !』は、12月13日から公開です!
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▶︎監督、最新映画『カツベン!』の魅力を語る【周防正行監督×Domaniモデル望月芹名 スペシャル対談 vol.1】
撮影/田中麻以(小学館) ヘア&メーク/陶山恵美(ROI) 取材/望月芹名 構成・文/小山恵子
映画『カツベン!』(公開中)
【あらすじ】
約100年前、“映画(活動写真)”がまだサイレントでモノクロだった時代、音楽とともに独自の“しゃべり”で物語をつくりあげ、観客たちを映画の世界に誘い、そして、熱狂させる“活動弁士”、通称“活弁(カツベン)”が大活躍していた。そんな時代を舞台に、活動弁士を夢見る青年が、とある小さな町の映画館に流れついたことからすべてが始まる アクション×恋×笑いを織り交ぜたノンストップエンターテインメント。
【監督】
周防正行
【出演】
成田凌 /黒島結菜/永瀬正敏/高良健吾/井上真央/音尾琢真
竹中直人/渡辺えり/井上真央/小日向文世/竹野内豊
【配給】
東映
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監督
周防正行
1956年生まれ。東京都出身。立教大学文学部仏文科卒。1989年、本木雅弘主演『ファンシイダンス』で一般映画監督デビュー。修行僧の青春を独特のユーモアで鮮やかに描き出し注目を集める。再び本木雅弘と組んだ1992年の『シコふんじゃった。』では学生相撲の世界を描き、第16回日本アカデミー賞最優秀作品賞をはじめ、数々の映画賞を受賞。1993年、映画製作プロダクション、アルタミラピクチャーズの設立に参加。1996年の『Shall we ダンス?』では、第20回日本アカデミー賞13部門独占受賞。同作は全世界で公開され、2005年にはハリウッドでリメイク版も製作された。2007年の『それでもボクはやってない』では、刑事裁判の内実を描いてセンセーションを巻き起こし、キネマ旬報日本映画ベストワンなど各映画賞を総なめにした。2011年には巨匠ローラン・プティのバレエ作品を映画化した『ダンシング・チャップリン』を発表。2012年『終の信託』では、終末医療という題材に挑み、毎日映画コンクール日本映画大賞など映画賞を多数受賞。2014年の『舞妓はレディ』では、あふれるような歌と踊りとともに、京都の花街を色鮮やかに描き出した。2016年には、紫綬褒章を受章。
ビジュアル・エディター
望月芹名
都内大学を卒業後、モデルとして東京コレクションなどのショーやテレビCM、広告などに多数出演。雑誌「Domani」にモデルとして登場していたが、ファッションに対する感度の高さから、Domani にてモデル業とエディター業を兼業する「ビジュアル・エディター」に就任。昨年12月に第一子となる娘を出産。2/3月号より表紙キャラクターをつとめている。 望月芹名公式インスタグラム