いよいよ政府が緊急事態宣言を出し、緊張が高まっている。外出を控える圧力は強まり、買いだめに走る人はさらに増えるだろう。スーパーには長蛇の列ができ、レジにたどり着くまでの道のりを思ってうんざりすることになる。
なぜこういう事態が繰り返されるのか。そのカギは、われわれの買い物行動にある。
小池百合子都知事が会見し、週末の外出自粛を要請した3月25日。当日、筆者が地元の駅に着いたのは夜23時半を回ったころで、モヤシを買おうといつものスーパーに向かったところ、異様な光景に遭遇した。もう深夜だというのに、レジが大混雑しているのだ。それも、皆カートに山盛りに商品を詰め込んで。
スーパーが大混雑しているとは聞いていたが、さすがに日付が変わろうという時間までとは思わなかった。棚という棚は空っぽで、さすがに背筋が寒くなった。翌26日の午前中、さすがにもう収まっただろうと同じスーパーに出かけたところ、店の入り口から奇妙な行列が伸びていた。レジ待ちの列が店内に収まりきらず、なんと店の外まで続いていたのだ。その日はこれと同じ光景が東京都内じゅうで見られたことだろう。
しかし、筆者はそのすさまじい列に並ぶことなく、無事にモヤシを買えた。少し離れたところにある別のスーパーで、だ。その店の状態は、品薄なものもあるにはあったが全体的にはそれほどでもないし、混雑具合もいつもの1.5倍程度だった。とんでもない行列の店と、そうでもない店。その違いは、消費者が普段の買い物習慣のまま行動している点にある。
食品=スーパーに買いに行く、は平時の常識
大行列を作っていたスーパーは、駅近ということもあり、地元の人が最もよく利用している店だ。買い物客はポイントカードも持っているし、そこで買うことが日常になっている。だから、多くの人は真っ先にそこに買いに走ったのだ。
かたやもう一方のスーパーはポイントカードの発行もしておらず、大量パックが主体で、普段の家庭の買い物にはそぐわない。非常時の買いだめ用なら大量パック主体の店に行くほうが本当は合理的なのだが、そういう発想に瞬時に切り替わらないものだ。そのため、こちらの店は空いていたのだろう。
さらに言えば、皆が「食品を買うならスーパー」と買いに走るときは、絶対に混雑するし買いたいものも買えなくなる。必要なものを手に入れるには、皆とは違う行動をすることがカギだ。例えば、「スーパー以外で食品が買える店はどこか」と考えてみればいい。
スーパーで買いだめされているのは主に、米、カップ麺、袋麺、パスタ、パスタソースなどだ。とくに米とパスタ、カップ麺・袋麺は、いまだに空の棚が目立つスーパーもある。小池知事の会見から3日後のことだが、筆者は仕事で渋谷にいたので、そのままデパ地下に向かった。渋谷の駅周辺には西武と東急百貨店がある。デパートの食品売り場では、はたして食品の在庫はあるのか、レジはやはり並んでいるのだろうか?
まず、渋谷西武の食品売り場に行ってみた。ここはセブン&アイグループのため、PBであるセブンプレミアムの食品も扱っている。ざっと見たが品薄の様子もないし、米も豆腐も納豆も、いつもの食材が普通にある。混雑もしていない(15時ごろの話)。
次に、東急百貨店東横店の地下に行った(東急東横店は3月31日で閉店し、現在は地下「東急フードショー」のみ営業)。こちらもブランドを選ばなければ食料品は豊富にあったし、レジ待ちも普通だ。スーパーでは欠品だった米もきちんとあった。
「デパ地下の食品は高いじゃないか」という声もある。しかし、今は非常時だ。優先すべきミッションは「必要なものを必ず買う」ことであり、人々が密接した行列に30分も並ぶのと、高くても空いているデパ地下でさっと買い物を済ませるのでは、どちらが感染リスクが低いだろうか。
食費と考えず、備蓄費ととらえよう
スーパーで延々レジを待ってしまうのは、まだ私たちが平時の意識でいるからだろう。「食」はあまりに日常すぎるために普段の感覚を引きずりがちだが、「買いたいものを買うのに行列をしなくてはならない」時点で、平時から非常時モードに切り替えなくては、いつまでも買い物難民の列から外れることはできない。
そう言われてもデパ地下では高くて……という常識をリセットするには、「これは食費ではなく備蓄費である」と思えばいい。歓送迎会や花見の集まりが中止され、遠出もなくなり、家計費にしめる交際費やレジャー費が浮いているはずだ。そのお金から「備蓄品を買うための予算」を作って、そこから出す。
安く買うことより必要量を確保するために購入するのだと頭を切り替え、普段の食費とは切り離したほうがすっきりするだろう。
リモートワークができず家に帰るころにはスーパーの棚が空っぽと嘆く人は、まず都心部にあるデパ地下や高級スーパーに立ち寄ってはいかがだろう。休業要請を受けデパートは営業を取りやめているが、食品売り場だけは営業する店舗もある。
また、とにかく保存できる食品を一通り買っておきたいというなら、コンビニの冷凍食品もある。パニック買いでスーパーの棚がガラガラだった夜もコンビニは空いており、冷凍パスタや麺類は平常どおり残っていた。さすがは庶民のインフラ、物流も滞りなく、棚の商品は日々淡々と補充されているのだから。
「連想ゲーム」の練習をしてみよう
「皆が買いに行く店以外に、売っているところはないか」という発想の切り替えは、ほかの物にも当てはまる。例えば、マスク。街から消えた最初の頃の話になってしまうが、筆者はかろうじて一定数を買うことができた。ドラッグストア以外の店で。
その頃ワイドショーではドラッグストアに開店前から行列する人の映像を繰り返し流しており、近所の店3軒を回ってみたが確かにない。そこで、向かったのは100円ショップだ。100円ショップは季節先取りの品ぞろえのため、花粉症対策用に箱入りマスクをかなり早い時期から販売していたからだ。今ならまだ買えるかも、とのぞいてみたら、かろうじて女性用マスクは在庫があったし、殺菌ジェルも入手できた。
ほかにもマスクが買えたところがある。業務用に紙皿や弁当用のパッケージを扱う専門店だ。食絡みの紙製品を扱うところなら、ひょっとして……と足を運んだところビンゴだった。価格も通常どおりで個数制限もなかった(今では100円ショップも業務用専門店も品切れになっている)。
「生活用品は何でも扱っている100円ショップ」「飲食用品を扱っている業務用専門店」ならマスクがあるかも、というのは連想ゲームのようなもの。
この先も、品薄になりそうなものはいくつかある。今のうちに、どこで買えるかの選択肢を考えておいたほうがいいだろう。
スーパーやドラッグストアの棚には何でもそろっていて、欲しいときにいつでも買える。そんな常識が見事に砕かれたのが今の日本だ。いつもの買い物行動にこだわらず、頭とお金を柔軟に使うことが不可欠となるだろう。
消費経済ジャーナリスト
松崎 のり子(まつざき のりこ)
20年以上にわたり『レタスクラブ』『レタスクラブお金の本』『マネープラス』などのマネー記事を取材・編集。家電は買ったことがなく(すべて誕生日にプレゼントしてもらう)、食卓はつねに白いものメイン(モヤシ、ちくわなど)。「貯めるのが好きなわけではない、使うのが嫌いなだけ」というモットーも手伝い、5年間で1000万円の貯蓄をラクラク達成。「節約愛好家 激★やす子」のペンネームで節約アイデアも研究・紹介している。著書に『お金の常識が変わる 貯まる技術』(総合法令出版)、『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない』(講談社)、『定年後でもちゃっかり増えるお金術』(講談社)。
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