みなさんは、1997年に発表されたマンガ『エルメスの道』をご存知でしょうか? 1837年に馬具工房として創業したエルメスの160年もの歴史を詳細に渡り描いた作品で、著者は『風と木の詩』などで知られる竹宮惠子。それまで社史すら刊行していなかったエルメスが、日本の「MANGA」という文化に注目し、生まれた本作は、実質的に世界初のエルメス史として、当時大きな話題となったんです。
©️Keiko TAKEMIYA
そしてときは流れ2021年3月10日。新たなストーリーが加わった新版『エルメスの道』が出版されるという情報を聞き、興味が湧かずにはいられませんでした。それも、旧作を発表してから24年、満を持して63ページを描き下ろし! 20年あまり教えていた京都精華大学での最終講義後に依頼を受けたというのも運命的ですが、奇しくもコロナ禍という状況下。アシスタント不在の中、初めてマンガ制作ソフトやツールを使用し、ひとりで完成させたというエピソードも感動的です(このあたり、本書のあとがきをぜひ読んでください! 働く女性の大先輩としての言葉が沁みます)。
〝エルメス〟の歴史と日本愛を感じる新作
今回、増補されたストーリーは3編。直近約20年の“エルメス”の新しい歴史で、2001年にオープンした「銀座メゾン」、2010年にパリの中心地・グランパレで開催された、馬の障害飛越競技大会「ソー・エルメス」、また同時期に発表された「petit h(プティ アッシュ)」の誕生秘話になります。
どれも長いメゾンの歴史の原点に立ち返る内容で、普段ファッションアイテムやホームコレクション、ビューティアイテムなどに触れることの多い私たちですが、その根底にはエルメスの揺るぎない精神が宿っていることが発見できるストーリーです。
特にエピソード1の「銀座メゾン」は、いかにエルメスが日本を愛し、お互いの信頼関係を築いてきたのかがわかる1作。馬具工房としてのスタートを切ったエルメスは、職人の手仕事に対するリスペクトをもつ日本人に、とても信頼感を置いていたのです。ガラスのファサードが印象的な建物ですが、これも昼は障子越しに入ってくる優しい光を思わせ、夜は街を照らす行灯を彷彿させるデザイン。
また、建物を構成する一辺45㎝のガラスブロックは、エルメスのカレ(スカーフ)の4分の1サイズだとか! 細部までの妥協なきこだわりに、日本に対するリスペクトが感じられて、次に「メゾンエルメス」を訪れる際には、もっとじっくりと空間を楽しみたくなるはず。そのほかにも驚きのエピソードが本作にはふんだんに詰まっていて、ブランドの背景について学べるだけでなく、エンターテインメントとしても、十分面白く読める内容になっています。
©️2021 Keiko TAKEMIYA
〝エルメス〟の精神を(僭越ながら)自分の生き方に置き換えて
エピソード2の「ソー・エルメス」は、メゾンの原点を振り返るべく、馬とエルメス、そして人間との深い関わりにまで踏み込んだ障害飛越競技大会の物語。競技だけでなく、馬具づくりの職人技を披露するブースや、VRゴーグルを使った〝バーチャル乗馬〟など、幅広い人々が楽しめる、多岐にわたるイベントが描かれています。こちらも機会があれば行ってみたくなること間違いなし。
©️2021 Keiko TAKEMIYA
エピソード3の「petit h」は、使われることのなかった素材から新しいオブジェを生み出す、革新的なコレクションについて語られています。今でいうサステナブル的な要素を含んでおり、エルメスの先見の明や、ルールにとらわれないものづくりに触れられる1作。
©️2021 Keiko TAKEMIYA
どちらも読んで感じたのは、この物語をブランドの歴史として捉えるのはもちろんですが、自分の仕事や生き方のヒントにもなり得るのでは、ということでした(ちょっと図々しいのですが)。商品を提供するだけではなく、視野を広くもち、どんなメッセージを込めるかを、いかにエルメスが大事しているか。そうすることで、そこに社会的な意味が生まれ、人々を感動させる力が備わる。私たちがエルメスに惹かれる理由は、本当はそこにあるのではないでしょうか。
もっとていねいに、もっと本質を見ながら物事を進める。そして築き上げてきたものを大切にしながらも、新しいことにも果敢に挑戦する。この新版『エルメスの道』には、そんな生き方の指針が描かれていると思えて仕方ありません。おしゃれが好きな人はもちろん、ひとりの社会人として感じることがいろいろある本ですので、ぜひ手に取ってみてください。
2021年3月10日 全国書店で発売 ¥1,600(税抜)※オンラインでも配信予定。
文/湯口かおり
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