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2018.02.23

知ってるつもり?今さら聞けないイラク情勢|国際政治学者・三浦瑠麗さんに聞く

 

国際政治学者・三浦瑠麗さんに教えていただく世界の「今」。今回はイラク情勢とその背景について伺いました。

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重要な局面を迎えているイラク

中東についての報道は最近めっきり少なくなりましたが、今回取り上げたいのはイラク情勢。北朝鮮が核実験を繰り返す中で、中東にまで関心を持つ余裕がないということかもしれないですが、国際社会にとっては依然として重要な地域です。特に、イラクは今、重要な局面を迎えています。

今起きていることの重大性を理解するには、過去15年の歴史を振り返らないといけません。冷戦の重荷から解放され、国力を回復させていた米国の雰囲気を一変させたのが、2001年の米国同時多発テロです。テロの首謀者であったビン=ラディン氏が潜伏していたアフガニスタンでの戦闘に加えて、2003年春にはイラク戦争が始まります。この開戦判断には当時から相当の疑義がありました。結局、イラクで大量破壊兵器は発見されず、間違った判断であったという結論になるのですが。

とはいえ、戦争というものは一度開戦してしまった後には、別の現実を生むもの。そしてその別の現実が、21世紀初頭の世界を動かしてきたのです。米国の圧倒的な軍事力によって組織的戦闘は短期で決しますが、その後、イラク各地でゲリラ戦が始まります。米軍属の虐殺を受け、イラク戦争の失敗を象徴するような残酷な市街戦がファルージャで展開されたのは04年の秋。そこからは、まさに泥沼の状態が継続するのです。

イラク戦争の最大の影響は、米国が超大国の地位から下りるのを早めたこと

09年には、イラク戦争に反対していたオバマ氏が大統領に就任し、米軍は撤退に向けてイラク政府への権限移譲を進めていきました。ところが、米軍からイラク政府へと権力が移譲されつつあった間隙を縫って「イスラム国」(=IS)が勃興し、イラク北部の主要都市が軒並みその支配下に置かれてしまったのです。その背景には、シーア派が主導するイラク政府に対して、スンニ派の住民が強い不信感を持っていたことがありました。

内戦状態に突入したイラクでは、主要な交戦主体だけでも、スンニ派系のIS、クルド系民兵組織、イラク国軍、シーア派系民兵組織が存在しました。米国やイランなどの外国勢力も関わっています。

イラク内戦の最激戦地であったイラク第二の都市モスルは、市街戦によって廃墟となっており、人道的な危機は深刻で、住民達の不満は頂点に達しています。そんな中、肝心のイラク政府の取り組みにお粗末さが目立つと言います。そもそも、シーア派中心のイラク政府はISに限らずスンニ派の〝反抗〞をこころよく思っておらず、モスルの破壊を異端への「戒め」として位置づけ再建を放置していると。しかし、このままスンニ派の不満を放っておけば、せっかく追い詰めたはずのISが倒れても、似たような勢力が新たに生まれるのは時間の問題だというのです。日本から見ると、細かい登場人物が多すぎて訳が分からないという印象を持つのではないでしょうか。

実は、そこがミソ。本稿でも、シーア派やスンニ派という言葉を便宜的に使っていますが、実態はもっともっと複雑な部族・軍閥どうしが対立しているのです。そこには、共産主義との戦いとか、自由と民主主義を広げるとか、イスラム過激派との戦いとか、そういったストーリーでは語れない世界が広がっています。

国際社会にとってイラク戦争の最大の影響は、米国が超大国の地位から下りるのを早めたこと。米国が退いた後の世界には、米国流の大きな物語は存在しません。その世界が混乱と破壊に満ちているとすれば、国際社会は実に困難な時代を迎えつつあるということです。

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国際政治学者

三浦瑠麗

1980年生まれ。国際政治学者。東京大学農学部卒業。東大公共政策大学院修了。東大大学院法学政治学研究科修了。法学博士。現在は、東京大学政策ビジョン研究センター講師、青山学院大学兼任講師を務める傍ら、メディア出演多数。気鋭の論客として注目される。

Domani1月号 新Domaniジャーナル「優しさで読み解く国際政治」 より
本誌取材時スタッフ:構成/佐藤久美子

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