精神の自由な空へと飛び立てるワイン
空飛ぶ、ピンクの豚。ワインショップでこんなキュートなラベルとひとたび出逢ってしまったら、迷うことなく、即買いしてしまいそう。きっと誰もが、そう感じるんじゃないでしょうか。
イタリアのサン・クリストフォーロがつくる、その名も「PINKピンク」という銘柄のロゼワインです。グラスに注ぐと、輝きのある、まさにピンク色。飲めばアセロラやピンクグレープフルーツ、柑橘系の香りが漂います。後味には果実味と同時にきれいな酸味があり、爽やかでバランスの取れた味わいです。
初夏の1日、このラベルを眺めつつワインを飲むと、精神の自由な空へと自分も飛び立てるかもしれない、そんな夢想にたっぷりと浸れてしまいます。
▲ グラスに注いだ時はやや微発砲している、空飛ぶ豚ラベルの「PINKピンク」
イタリア最大規模のワイナリーの子息が理想のワイン造りへ
サン・クリストフォーロの当主ロレンツォ・ゾニンも、じつは自らの理想や自由を追求しながら、ワインづくりに励む人。彼の生家であるゾニン家は、17世紀からワインづくりを始めた名門で、北はピエモンテ州から南はシチリア州まで、7州の地域で1,800ha以上ものぶどう畑を所有している、まさにイタリア最大規模のワイナリーなのです。
そんな名家の子息であれば、瀟洒なシャトーに住み、伊達なスーツに身を包んでいたとしても、誰もが納得することでしょう。でもロレンツォは基本、いつもTシャツにジーンズ。
実家の仕事をしながら自らの理想のワインづくりもしたいとイタリア各地を調査し、やっと見つけたのがトスカーナ州のマレンマ地方でした。その土地を、少しずつ貯めたお金で購入したのです。
▲ 工学部を卒業後、発酵に魅せられてワイン造りの道へ進んだロレンツォ
そのすぐ近くにあるのは「スーパートスカーナ」の異名を持つサッシカイアやオルネッライアといったスター生産者がひしめくワイン産地、ボルゲリ。そのボルゲリに匹敵する地として、彼が選んだのがマレンマでした。事実、この地域は近年、新たな高品質のワインを生む産地として、大変注目を集めています。
北には山がそびえ、西には地中海のティレニア海があるため雨の少ない地中海性気候。夏は高温になりますが、海からの潮風によりその暑さはやわらぎ、酸味を残しつつも香り豊かな成熟したぶどうを収穫できます。
そのうえロレンツォの畑は、山からの地下水が流れる地。土壌深くまで到達したぶどうの根は、雨の少ないこの地でその自然水を吸い上げ、成長することができるのです。
▲ イタリア土着のぶどう品種も多く植えられている畑
人に感動を与えるワインを造りたい
トスカーナ地方はモノカルチャー(単一栽培)ではなく、さまざまな作物を農園で栽培するという伝統があります。ロレンツォの畑にもぶどう15ha、さらにオリーブの木や穀物、ヒマワリなどが植えられています。
▲ 今後、多くの可能性を秘めているマレンマ地方のぶどう畑
そして彼にとってなにより大事なのはユーカリの木で、それによりぶどうの木に虫がつきづらく、農薬を使う必要もないのだといいます。その恩恵で有機栽培の一種であるビオディナミ農法を行い、ぶどうの収穫量を落とし、凝縮感ある上質なぶどうを栽培しているのです。
そんなロレンツォが目指すのは「賞を獲るのではなく、人に感動を与えられる個性的なワイン」。その考えのもと生まれた「PINKピンク」はサンジョヴェーゼ100%。ぶどうの茎を取り除いたあと、やさしくぶどうをプレスしてつくったロゼなのです。
じつはこの印象的なラベルは、イギリスのピンク・フロイドというロックバンドが1977年に発売したアルバム「アニマルズ」に触発されたもの。資本主義における人間を動物に喩えて社会批判をおこなったこのアルバムは当時、一大センセーションを巻き起こしました。一方で、大衆にとっては自由のシンボルにもなったアルバムなのです。
▲ 美男子かつ真摯、チャーミングな人柄で、多くの人を魅了する
そこにインスパイアされたロレンツォは自らの理想を真率に追い求める人物であり、そして同時にジョークが好きなチャーミングな人柄でもあります。そんな彼が生み出したワインだからこそ、こんなに魅力的なんですね。
SAN CRISTOFOROサン・クリストフォーロ「PINKピンク 2020」 ¥4,070 (税込・参考小売価格)
問 ノンナ・アンド・シディ 070・1276・8522
輸入元サイトから直販可能
その他、ワインが買える店
秋庭商店
東京都大田区南久が原2-8-4
03・3750・3177
営 13時~21時(土曜、日曜は12時~) 休月曜、木曜
ライター
鳥海 美奈子
共著にガン終末期の夫婦の形を描いた『去り逝くひとへの最期の手紙』(集英社)。2004年からフランス・ブルゴーニュ地方やパリに滞在、ワイン記事を執筆。著書にフランス料理とワインのマリアージュを題材にした『フランス郷土料理の発想と組み立て』(誠文堂新光社)がある。雑誌『サライ』(小学館)のWEBで「日本ワイン生産者の肖像」連載中。ワインホームパーティも大好き。