コントでも映画でも、演じる〝人〟に対して深い愛を持ちたい
――塚地さんがコントで演じる〝オタク〟は、とってもリアルで最高におもしろいですよね。
塚地:ありがとうございます。そのオタクの人たちにも、「俺たちをバカにしやがって」って思われないものを作りたかったんです。そもそも僕自身がオタクなので、オタクの気持ちがわかりすぎるんですよ(笑)。なので、コントでオタクをやっている人はたくさんいますが、本物のオタクの僕から見ると、「この人、演じてんな」って思うことがすごくあるんですよね(笑)。核となる部分を大切にしていないのがわかるんですよ。
和島:その大切にしているか、していないかはすごく大事ですよね。
塚地:そうですよね。なので、そこは絶対にちゃんとしたいなって思っていました。まぁ、自分がオタクだから自然とそうなっていたんですけどね(笑)。
――今回は、役者という面で、自閉症を演じるのはすごく難しかったと思います。認知度が広がっているからこそ、偏見を持たれないように演じるのは、すごく大変だったと思うのですが、いかがでしたか?
塚地:まず、オファーを頂いたときに、本当に僕で大丈夫なのかと思いました。それこそ、僕のことを認知してくれている方だったら、忠さんをやっている僕を見た時点で「塚地」だと思うだろうし、塚地がどんな役をやるんだろうと思いますよね。もしかしたら〝お笑いの塚地〟が役の邪魔をしてしまうかもしれないと。正直、足を引っ張ってしまう気がしたんです。その気持ちを正直に監督に相談したところ、「塚地さんに演じてほしい」と今のようなお話をしてくださったんです。
和島:まず最初に塚地さんが浮かびましたから。
塚地:うれしいですよね。それに、脚本を読んだら、この作品を通して監督が撮りたいテーマ、世間に伝えたいこと、訴えたいことがすごく伝わってきました。自閉症の家族と近隣の人たちを、本当に対等に描いていて、どちらが正義でも悪でもなく、丁寧に描いているんです。これは、世の中的にも、大事な作品になるだろうなと思いました。
障碍のある人と、その周囲の人を対等に描きたかった
――実は、私の息子が知的障碍児なので、忠さんのように将来、グループホームで暮らすことになると思うんです。そういった親御さんがたくさんいる中で、この映画はすごく救いになると思います。
和島:そうですね。こういった地域の問題を社会問題と切り取られたときに、どうしてもグループホームや障碍者の家族に苦情を言ってくる人たちの言葉だけが切り取られてしまうことがあるんです。もちろん、それは許容できない言葉ももちろんありますが、彼らがどういった日常を過ごしていて、そこにどう譲れない事情があるのかという背景が見えてこないことに疑問を持っていたんです。ただ、悪い人たちとして切り取られるのは、違う気がしていたんですよね。
――たしかに、すべてに理由がありますからね。
和島:はい。お互い、ただ普通に安心して暮らしたいだけ。それはどちらにもある想いですよね。それがぶつかり合ってしまうという複雑な構造を、映画で一度提示することができれば、少しだけ、お互いを思うきっかけになるのかなと思ったんです。
塚地:知るだけで、見え方はだいぶ変わってきますからね。この映画をきっかけに、自閉症や障碍がある方たちのことを知ってもらえたら、うれしいですね。
後編では、障碍のある方との接し方で変わったことや、母親を演じた加賀まりこさんの今作への熱意などをうかがいます。
映画『梅切らぬバカ』(シネスイッチ銀座ほか全国公開中)
あらすじ
都会の古民家で寄り添って暮らす母と息子。ささやかな毎日を送っていたが、息子が50歳となり、自分が居なくなったあとを思い、グループホームに預けることに。自閉症を抱える息子と、母親が社会の中で生きていく様を温かく、そして誠実に、丁寧に描く物語。
▶︎HP
俳優/お笑い芸人
塚地武雅
1971年、大阪府出身。1996年にお笑いコンビドランクドラゴンを結成。2000年、2001年にNHK『爆笑オンエアバトル』のチャンピオン大会に進出しブレイク。その後は俳優としても活躍。これまでに『間宮兄弟』(06)、『の・ようなもの のようなもの』(16)、『高台家の人々』(16)『嘘八百 京町ロワイヤル』(20)、『樹海村』(21)などがある。
映画監督
和島香太郎
1983年、山形県出身。2006年、京都造形芸術大学卒業。2007年にドラマ『聴く先生』を監督。2008年に『第三の肌』を撮影。2010年にトロントジャパニーズ短編映画賞にて『第三の肌』が受賞。2014年に初めて長編映画として『禁忌』を手掛ける。
撮影/深山のりゆき 文/吉田可奈