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LIFESTYLE 子育ての悩み

2022.11.03

子を寝かしつけながら「漫画を爆読み」私の育児道| 「出産したら自分の時間がなくなる」は本当か

 

出産したら自由に飲みに行ったり、好きなバンドのライブに行ったり、旅行に行ったりできなくなり、すべてを子どもに捧げなければならない――。そんな不安を抱えながら出産した会社員兼ライターのしりひとみさんですが、実際に子育てをしてみると、意外な「お楽しみタイム」ができたといいます。本稿ではしりひとみさんの近著『ママヌマ~ママになったら沼でした』より、子どもを産んで「得た時間」について紹介します。

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母になることは自分の人生を捨てること?

出産したら、人生をすべて子どもに捧げなくてはならない。そんな話をよく耳にしてきた。SNSを見れば、「産後は自分の時間が持てない」「土日も体は休まらない」「自由がない」「まるで牢獄に入れられた囚人のよう……」などと恐ろしい言葉が並んでいて、子どもを産むと人権がなくなるシステムなのかとゾッとしてしまう。そんな世論に長く浸かっていたせいか、いずれは子どもがほしいと思う一方で、母になることは自分の人生を捨てることのように思えて、私は怖くて仕方がなかった。

だから妊娠がわかったとき、まず私がやったことといえば「出産までにやりたいことリスト」を書くことだった。「今のうちにやりたいこといっぺーやるぞ!」と悟空みたいなテンションで、ものの2分で書き上げた。リストに並んだ箇条書きの文章を眺める。

映画を見に行く。好きなバンドのライブに行く。高級コース料理を食べる。カラオケに行く。美容院に行く。旅行に行く。スタバの新作を飲む。キッチンの油汚れを掃除する。漫画をいっぱい読む。来年の紅白出場者を予想する。ガサガサのかかとをなめらかにするパックをやる。美文字になる。英語の歌を歌えるようになる。竹野内 豊さんのことだけを考える時間を設ける。性格を明るくする。面白いダジャレを言えるようになる(「元気モリモリ! モーリーロバートソン」など)。

最後のほうに意味わかんないやつが入っているが、ぜんぶ、子どもが生まれれば気軽にできなくなりそうなことばかりである。しかし産休に入った途端に「緊急事態宣言」で外出自粛を余儀なくされ、結局家でだらだらしながらTwitterを開いたり閉じたりするという駄日(だび)を過ごしていたらあっという間に子どもが生まれてしまった。

実際に産んでみたら「自分の時間」はどうなった

家庭と仕事を両立する忙しいワーキングマザー

そんな私が子どもを産み、生活はどうなったかというと。やはり24時間のうちほとんどは、育児に割かれるようになった。起床時間も子ども次第で、目覚まし時計で目を覚ましたのは片手で数える程度しかない。先に起きた子どもに、結構な力でビンタされてその衝撃で起きることもしばしばある。

子どもの昼寝の間は自分の時間だが、毎日何時間は必ず寝ます、みたいにスケジュールがきっちり決まっているわけではない。心配になるほど長く寝る日もあれば、サッと目覚める日もあって、昼寝の隙に用事を片付けようと思っても、すべては終わり切らず息子の泣き声によって中断してしまうことばかりだ。

飲みに行くのも「プロジェクト」並みの段取りが必要に

また、どこへ行くにもベビーカーや抱っこ紐に入った息子と行動をともにしなければならないので、長時間の外出はできない。これまで当たり前に乗っていた電車も、泣き出さないかとビクビクして、ビビリの私にはせいぜい2〜3駅の移動が限界だ。

産前は友達から「今から新橋で飲むけどどう?」などと言われればすっ飛んで行っていたが、子どもが生まれてからは、予定を入れる場合は数週間前から入念に夫と打ち合わせをして日取りを決め、夜泣き対応に関して引き継ぎをし、当日の息子のコンディションも万全なことを確認して、ようやく飲みに行けるという、ちょっとしたプロジェクト並に綿密な段取りが必要である。

そんな風に、出産するまで一切なかった新たな「育児」というジャンルがいきなり生活のど真ん中に鎮座し始めるのだから、自分の時間を大幅に犠牲にせねばならない。当然、ストレス値が大暴騰すると思っていたのだが……。

育児ストレスについて思案する女性

ある日。職場の後輩から「自分の時間なくなってストレス溜まりませんか?」と声をかけられ「そうそう、大変なのよ」と答えようとして、言葉を止めた。

ストレス、思ったより、ない気がするな……?

「ひげじいさん」はどんなじいさんでもOK

これは完全に個人差がある話だと思うが、私にとってはむしろ、子育てを始めてからのほうが「娯楽」を楽しむ時間が増えていて、それがほどよくストレス発散になっていると気づいた。たとえば、子どもの寝かしつけ中は格好の漫画タイムである。なんなら最近では「寝かしつけ」じゃなくて「漫画お楽しみタイム」と心の中で呼んでいる。

うちの息子は寝かしつけに時間がかかるほうで、だいたい1時間は抱っこをして体を揺らし続けなければならない。しかもその間、延々と子守唄を歌い続けないと泣くという、喉に負荷のかかるハードモードな赤ちゃんである。

しかしその1時間、ずっと子どもに集中しているのかといえば、まったくそんなことはない。自分の体にもたれかからせ、片腕でしっかりと息子を抱く。もう片方の腕で背中を支えつつ、使っていない手先でスマホをがっつり見ている。

この片手スマホで、私は『ゴールデンカムイ』30巻、『宇宙兄弟』40巻、『ブラックジャックによろしく』128話、『ブルーピリオド』11巻、『凪のお暇』9巻など、話題になっている最新作から過去に読んで面白かったものまで、とにかく漫画読みまくりライフを送っている。

漫画に集中すると子守唄の歌詞はおろそかになって、たとえば童謡の『ひげじいさん』にはたくさんのじいさんが出てくるはずなのに最後まで一貫して「ひげじいさん」1人しか登場しなかったりするが、子どもからすれば抱っこされて何かしら歌われていればどんなじいさんでもOKなので、多少の歌詞間違いはよしとしている。

片手スマホで貪欲に楽しむ

スマホを片手で持つイラスト

同じ要領で、YouTubeで好きなバンドのライブ配信を見たり、TV番組の配信サービスを使ってドラマを1話も欠かすことなく見たり、SNSを眺めたりしながら、日々の寝かしつけを気楽にこなしている。こなしている、という感覚もまた違う。普通に、夜の時間を過ごしている。

子どもが生まれてから、気軽に飲みに行けなくなったのは事実としてある。しかし当時は、新型コロナウイルスの影響で国民全員が気軽に飲みに行けない状況だった。子育て中の自分だけでなく、全員が我慢しているという状況も、私の心を軽くしている気がする。

母でも「自分の夢」をあきらめない

というかそもそも、私はあまり友達が多くないのもあるかもしれない。友達がいっぱいいる人はもっと辛いんじゃないだろうか。悲しい事実に気づいてしまったが、むしろ友達が少なくてよかったかもしれない。いやごめんそれは嘘。友達は普通にたくさんほしい。バーベキューとかちょっとしたパーティに呼んでほしい。

漫画や飲み会など、ある意味やらなくても死なない娯楽については先ほどの通りだが、では自分の人生で「真」に譲れないもの。仕事だったり夢。そういうのを追いかけることについては、どうだろうか。

たとえば私は、幼い頃から文章でどうにかなりたくて、ライフワークのように文章を書き続けている。この原稿はまさに、自分のやりたいことそのものである。

子どもを生むまでは、気分が乗らなければパソコンを開かず、1文字も書くことなく過ごす日も多かった。しかし産後。思うように時間が取れない中で、急にボーナス的に降ってくる「自由に使える時間」。そのありがたみを痛烈に感じ、たとえ5分、10分のわずかな時間でも、余すことなくマックスパワーで使ったる! という気概で臨むようになった。時間を大切に使うことができるようになったという、嬉しい変化である。

母になっても、なんとか「自分の人生」を生きている

隙間時間に仕事に取り組む女性

しかし一方で私は「子どものためなら自分の時間なんていくらでも犠牲にできる!」なんて広い心を持っているわけじゃない。 唐突に「うわ〜、何もかも忘れて昼から日高屋でバクダン炒めをつまみに泥酔してえ〜!」という激しい衝動に駆られることもある。いつ連絡しても飲み散らかしている友人を見て、うらやましさを感じないとは言い切れない。

でも子どもとの時間は、子どもがいないときに楽しんでいたさまざまな娯楽とはまったく違う種類の高揚感を得られる。それはそれで、日高屋で豪遊するのとはまた別の楽しさがある。だからどちらか一方を選べと言われても、選べないなぁと感じる。どちらもそれぞれ楽しく、横並びに語ることができないのだ。

出産したら、子どもに人生を捧げなければならないのか。まだ1年しか育児をしていない私は、この問いに明確な答えは出せない。でも今のところ、子どもとの新鮮な毎日の中に楽しみを見つけながら、なんとか「自分の人生」を生きている。

『ママヌマ~ママになったら沼でした』(大和書房)『ママヌマ~ママになったら沼でした』(大和書房)

会社員ライター

しり ひとみ

才気煥発な企画力と、笑いを巻き起こす文章力で人気を集める。2019年にnote記事「住んでるマンションを退去したら被告になった話」がオモコロ杯で佳作を受賞し、SNSで話題となる。その後、「エキサイトニュース」、「デイリーポータルZ」、「マイナビウーマン」、「LINE MUSIC」など数々のメディアで執筆。ペンネームは「ひとみしり」を並び替えたものだが最近克服しつつあり、「本当に人見知りなんですか?」と聞かれるたびに「すみません」と思っている。本書が初の著書。

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