「千里の道も一歩から」とは
「千里の道も一歩から」とは、読んで字のごとく、千里の遠い行程もまず踏み出した第一歩から始まるという意味です。そこから、どんな大事業でも、はじめはまず手近なところから始まるというたとえとして使われます。「千里の道も一歩より」「千里の行(こう)も足下(そっか)より始まる」「千里の行(こう)も一歩より」ともいいます。
「千里の道も一歩から」の由来
元々は中国古典の名著『老子』に由来。『老子』とは老子という人物が書いたものとされていますが、実在した人物なのか疑われるほど、その経歴は多くの謎に包まれています。複数の思想家の言葉を集めたものともいわれています。その『老子』第64章に次のようにあります。
合抱之木、生於毫末、九層之臺、起於累土、千里之行、始於足下。
(書き下し文)
合抱(ごうほう)の木も毫末(ごうまつ)より生じ、九層の台も累土(るいど)より起こり、千里の行(こう)も足下(そっか)より始まる。
(現代語訳)
一抱えもある大木も毛先ほどの芽から生まれ、大きな建物も土台を盛ることから始め、千里の道のりも足下の一歩から始まる。
千里の「里」は距離の単位でこの時代の一里は約400メートル。ということは、千里なので約400キロメートルもの長い道のりになります。それほど気の遠くなるような距離も一歩から始めなければ到達できない、一歩を踏み出すことが大切という意味の故事成語です。
「千里の道も一歩から」の使い方
千里の道も一歩からは目標達成のために気持ちを引き締めるための言葉として使われます。
1:千里の道も一歩からだ。とにかく販売計画を実行に移そう
2:千里の道も一歩からというから、まず基礎研究から始めてみよう
3:いっぺんには市場拡大は無理だよ。千里の道も一歩からだよ
4:資格取得にむけての勉強はコツコツやることだよ。千里の道も一歩からだよ
「千里の道も一歩から」の類義語
「千里の道も一歩から」の類義語にはどんなものがあるのか見ていきましょう。
1:遠きに行くには必ず邇(ちか)きよりす
2:高きに登るには低きよりす
これらふたつは前漢時代の経書『礼記(らいき)』の中にある「中庸」が語源となっています。『礼記』は、儒教の教典の『儀礼(ぎらい)』『周礼(しゅうらい)』とともに「三礼」と呼ばれ、政治・学術・習俗など礼制に関する説をまとめたもの。「中庸」は孔子の孫にあたる子思が書いたものといわれ、『礼記』の中で儒教の教理をまとめた書籍のことです。
君子之道、辟如行遠必自邇、辟如登高必自卑。
(書き下し文)
君子の道は辟(たと)えば遠きに行くに必ず邇(ちか)きよりするがごとく、辟(たと)えば高きに登るに必ず卑(ひく)きよりするがごとし。
(現代語訳)
君子の行うべき道はたとえて言うなら、遠くへ行くには必ず近くから始め、更にたとえて言うなら高いところに登るには必ず低いところから始めるようなものである。
物事を行う場合には、それなりの段階や順序を踏んで、着実に運ばなければならないという意味。遠い場所に行くのにも、必ず近い場所、足下から一歩を踏み出すということ、また、高い場所に登るには低い位置から踏み出し、順序を追って、確実にやるべきだ、ということです。
3:ローマは一日にして成らず
英語の「Rome was not built in a day.」の訳語です。「すべての道はローマに通ず」(All roads lead to Rome.)と言われたほど繁栄を誇ったローマ帝国も、一日でできたわけではありません。大ローマ帝国を築くまでには一小都市国家から始まり、延々700年にも及ぶ長い年月と、多くの人の努力によって建設されたという、苦難の歴史があったとして生まれた言葉です。
4:雨だれ石を穿(うが)つ
雨だれが、長い間には石にも穴をあけてしまうように、小さなことでも長く続ければ必ず実を結ぶ、という意味です。「千里の道も一歩から」は初めの一歩を踏み出すことの大切さを表していますが、「雨だれ石を穿つ」はさらに、その一歩を積み重ねることが成功につながる、ということを表しています。「点滴穿石(てんてきせんせき)」という四字熟語でも知られています。
この言葉は中国の歴史書『漢書』の「枚乗伝(ばいじょうでん)」にある「泰山(たいざん)の霤(あまだれ)は石を穿つ」に由来します。これは小国の王が中央政府に反乱を起こそうとしたときに、それを阻止するために家臣が言った言葉です。
この故事では、「どんな小さなことでもそれが積み重なるといずれは大きな災いをもたらしてしまう」というマイナスの意味になっていますが、現在は、プラスの意味で使われています。
千里の道も一歩からの英語表現
千里の道も一歩からの英語表現はどのようになるのか、見ていきましょう。似たような意味の表現は次のようになります。
1:Little by little one goes far.
(少しずつ歩いて人は遠くへ行く)
2:Step after step the ladder is ascended.
(一段ずつ人ははしごを登る)
3:He who would climb the ladder must begin at the bottom.
(はしごを登ろうとするなら一段目から始めよ)
直訳するなら
4:A journey of a thousand miles must start with the first step.
(千マイルの道のりも一歩から始まる)
まとめ
「千里の道も一歩から」は比較的わかりやすい意味の故事成語といえます。何千年も前に生きていたであろう、中国の思想家「老子」の言葉が由来ですが、いつの時代にも通じる普遍的な言葉。千里もの長い道のりも踏み出した第一歩から始まるという意味です。新しいことにチャレンジするとき、思い出したい言葉の一つとして心にとめておきたいですね。
執筆
武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
あわせて読みたい