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【目次】
「まず隗(かい)より始めよ」とは手近な場所から始めるという意味
「まず隗より始めよ」とは、壮大な事業であっても、まずは手近なところから始めるべきだということを意味する言葉です。例えば世界平和を目指す場合でも、まず日本の平和、その前に学校や会社などの組織の平和を実現する必要があるでしょう。さらに身近なところでは、夫婦や兄弟、親子などの家庭から平和にしていくことができますね。そのように身の周りが平和になって初めて、より大きな単位の平和が実現するはずです。
【隗より始めよ】かいよりはじめよ
大事業をするには、まず身近なことから始めよ。また、物事は言い出した者から始めよということ。
(引用:小学館『デジタル大辞泉』より)
「言い出した人から仕事を始める」の意味でも用いる
「まず隗より始めよ」という言葉は、言い出した人から仕事をするという意味でも使用します。
例えば、「しっかりと挨拶することが大切だ」と先生がどんなに言っても、先生自身が挨拶をしないのであれば生徒は積極的に挨拶しようとしないでしょう。先生自身が元気に挨拶する手本を見せ、生徒が自然と真似できる環境を作る必要があります。
「隗より始めよ」と表現することもある
「まず」という言葉をつけず、単に「隗より始めよ」と表現することもあります。辞書でも「隗より始めよ」で載っていることが多いです。
意味は「まず隗より始めよ」と同じで、大事業をするときは手近なところから始めること、あるいは、何でも言い出した者から始めるべきだということを指します。使い分ける必要はありませんが、語調が滑らかになるように注意することはできるでしょう。
類語は「死馬の骨を買う」「千里の道も一歩から」
似た意味の言葉に「死馬の骨を買う」があります。死んだ馬の骨は何の役にも立ちません。しかし、役に立たないものにお金を出して価値をつけることで、本当に価値のある大切なものも集まりやすくなるという意味。中国の歴史書に記された故事が由来で、隗(郭隗:かくかい)という人の言葉です。実は「まず隗より始めよ」も、同じく隗の言葉。「私のような凡庸な人間を優遇すれば、その評判が広がり、本当に有能な人が集まってきますよ」と燕の国の王(昭王)に進言した言葉を由来としています。
本当に有能な人を集めるために、あえて凡人を優遇したり、死馬の骨にお金を出したりすることが必要と隗は考えたのです。
死馬の骨を買う
「死馬の骨を買う」を、いくつかの例文を通して使い方を見ていきましょう。
・うちの会社は死馬の骨を買う方式で優秀な人材を集めている。私のような凡人にでも平均以上に給料が支払われているから、優秀な人はさらに高額な報酬を求めてやってくるようだ。
・セザンヌの絵が好きな彼は、セザンヌのものであれば例えデッサンでも高額な価格で買い取っている。死馬の骨を買うではないけれど、そうこうしているうちにセザンヌの作品の中でも世界トップクラスの良作に出会えたようだ。
千里の道も一歩から
「千里の道も一歩から」とは、どんなに大きな事業でも手近なところから始まるという意味です。「隗より始めよ」とほぼ同義で使えます。
【千里(せんり)の道(みち)も一歩(いっぽ)から】
遠い旅路も第一歩から始まる。どんな大事業も手近なところから始まることのたとえ。千里の道も一歩より起こる。
(引用:小学館『デジタル大辞泉』より)
気の遠くなるような大きな目標であっても、一歩ずつ着実に進んでいくことの大切さを説くことわざとして、座右の銘にしている方も多いです。この言葉は、老子が説いた教えに由来します。
「まず隗より始めよ」の英語表現
「まず隗より始めよ」の英語表現を4つご紹介します。「まず隗より始めよ」の持つ意味合いの中で伝えたいことによって使うフレーズもかわるため、使い分けられるようそれぞれ詳しく見ていきましょう。
Start from small things
「Start from small things」は「小さなことから始める」という意味の英語表現です。「まず隗より始めよ」は大事業をするには、まず身近なことから始めよという意味ですから、同じニュアンスで使うことができます。
thingの意味
1 (有形の)物
2 生物
3 (無形の)こと
3a 起こること
3b すること
3c もろもろのこと
4 何一つ(…ない)
〈引用(小学館 プログレッシブ英和中辞典)より〉
Let’s start with what’s close at hand
小さなことのかわりに「まずは手近なことから始めましょう」と言いたい場合は「すぐ手の届くところ」という意味のclose at handを使って「Let’s start with what’s close at hand」と伝えると良いでしょう。
close at handの意味
すぐ手の届くところに
〈引用(小学館 プログレッシブ英和中辞典)より〉
practice what you preach
「まず隗より始めよ」の「物事は言い出した者から始めよ」という意味を伝えたいなら、「人に説くことは自分でも実行せよ」という意味をもつ英語のことわざ「practice what you preach」を使うと良いでしょう。
practiceの意味
他自(手順・方法などを)習慣的に行う(解説的語義)
常に実践[実行]する,いつも(…を)する
〈引用(小学館 プログレッシブ英和中辞典)より〉
Let the person who suggested it do it first
「物事は言い出した者から始めよ」という意味をもっとストレートに伝えたい場合は、提案を意味する「suggest」を使って「Let the person who suggested it do it first(提案した人に先にやってもらいましょう)」と表現するのがおすすめです。
suggestの意味
〈考え・計画などを〉(人に)(それとなく)持ちかける(解説的語義)
持ち出す≪to≫,〈…することを/…ということを/…かどうかを〉提案する≪doing/that節/wh節≫;〈人・物などを〉(…役などに)推薦する≪for,as≫(◆propose より控えめ)
〈引用(小学館 プログレッシブ英和中辞典)より〉
「まず隗より始めよ」は十八史略のエピソードに由来する
「まず隗より始めよ」という言葉は、中国の歴史を記した読み物『十八史略(じゅうはっしりゃく)』で紹介されているエピソードに由来します。昔、燕の国の昭王が郭隗にどうしたら優れた人材が集まるのかと尋ねました。
そのとき、郭隗は、「自分のような凡庸な人間を重用すれば、より才能がある人材が『ここなら自分を高く評価してくれるに違いない』とやってくるでしょう」と答え、王にまずは自分(隗)を重要な地位に取り立てることを勧めたと言われています。
漢文では「先従隗始」
「まず隗より始めよ」は、漢文では「先従隗始」と表記します。従と隗の間にレ点を入れて、先は「先ず(まず)」、従は「~より」と読み下すことができ、「先(ず)隗(より)始(めよ)」となります。
「死馬の骨を買う」も同じ十八史略のエピソード
「死馬の骨を買う」も、同じく燕の国の昭王と郭隗のエピソードに基づきます。郭隗が「まず隗より始めよ」という前に、あるたとえ話をしました。
たとえ話の中で、ある王様が家来に「千里を走るような名馬を買ってこい」と命じ、多額のお金を渡します。しかし、家来は名馬を買わず、死んだ馬の骨を500金という高額なお金を支払って戻って来ました。
王様は家来をひどい剣幕で叱りますが、家来は「死んだ馬の骨でさえ500金という高額なお金を払ったのですから、生きている名馬を持っている人はさらに高額なお金をもらえると思ってすぐにやってきますよ」と言います。実際にすぐに名馬を持っている人がやってきて、王様は遠くまで尋ね歩かなくても名馬を3頭も手にすることができました。
隗はこの話を例に挙げ、手近にいる自分を優遇することで、わざわざ遠くまで賢者を探しに行かずとも、自分からやってくると昭王に伝えます。そして、実際に賢者は続々と燕の国に集まったのです。
「まず隗より始めよ」の原文・現代語訳
「まず隗より始めよ」の由来となった『十八史略』のエピソード『先従隗始』を原文と現代語訳でご紹介します。
原文
燕人立太子平為君。是為昭王。弔死問生、卑辞厚幣、以招賢者。問郭隗曰、「斉因孤之国乱、而襲破燕。孤極知燕小不足以報。誠得賢士与共国以雪先王之恥、孤之願也。先生視可者。得身事之。」
隗曰、「古之君有以千金使涓人求千里馬者。買死馬骨五百金而返。君怒。涓人曰、『死馬且買之。況生者乎馬今至矣。』不期年、千里馬至者三。今王必欲致士、先従隗始。況賢於隗者、豈遠千里哉。」
於是昭王為隗改築宮、師事之。於是士争趨燕。
現代語訳
燕の国は太子の平を立てて王とした。これが昭王である。戦死者を弔い、生存者を見舞い、へりくだった言葉遣いをし、多くの俸禄を与え、賢者を(国に)招こうとしていた。昭王は郭隗に次のように尋ねた。「斉はわが国の混乱につけこんで、燕を攻め破った。私はこの燕が小国で、報復できないことをよく承知している。(そこで)ぜひとも賢者を得て、(その賢者と)共に国を納め、先代の王の恥をすすぐことが、私の願いである。先生、それにふさわしい人物を推薦していただきたい。私自身がその者に師事したい。」と言った。
郭隗は、「昔の王で、千金もの大金を使って、従者に一日に千里走る名馬を買いに行かせた者がおりました。(ところが、その従者は)死んだ馬の骨を五百金で買って帰って来ました。王は怒りました。すると従者は言いました『(名馬であれば)死んだ馬の骨でさえ(五百金もの大金で)買ったのです。まして生きている馬だったらなおさら(我々が高く買うに違いないと世間の人は思うはず)です。千里の馬はすぐにやってくるでしょう』と。一年もたたないうちに、千里の馬が三頭もやって来ました。今、王がぜひとも賢者を招きたいとお考えならば、まずこの隗(を優遇すること)からお始めください。(そうしたら)私より賢い人は、どうして千里の道を遠いと思いましょうか。(遠いと思わずにやって来るでしょう。)」と答えた。
そこで昭王は、郭隗のために新たに家を築き、郭隗に師事した。こうして、賢者たちが先を争って燕にやってきた。
「まず隗より始めよ」の書き下し文
「漢文「先従隗始」を日本語として意味がわかるように書き改めた書き下し文に直して紹介します。読みが難しい部分にはひらがなもいれていますので、原文や現代語訳と見比べてみましょう。
書き下し文
燕人(えんひと)、太子平を立てて君と為す。是を昭王と為す。死を弔ひ生を問ひ、辞を卑(ひく)くし幣を厚くし、以つて賢者を招く。郭隗(かくかい)に問ひて曰はく、「斉、孤の国の乱るるに因りて、襲ひて燕を破る。孤極めて燕の小にして以つ報ずるに足らざるを知る。 誠に賢士を得て国を与に共にし、以つて先王の恥を雪(すす)がんこと、孤の願ひなり。 先生、可なる者を視(しめ)せ。 身之に事(つか)ふるを得ん。」と。
隗曰はく、「古の君に、千金を以つて涓人(けんじん)をして千里の馬を求めしむる者有り。『 死馬の骨を五百金に買ひて返る。 君怒る。 涓人曰はく、 死馬すら且つ之を買ふ。 況(いは)んや生ける者をや。 馬今に至らん』と。 期年ならずして、千里の馬至る者三。 今、王必ず士を致さんと欲せば、先(ま)づ隗より始めよ。 況んや隗より賢なる者、豈(あ)に千里を遠しとせんや。」と。
是に於いて昭王隗の為に改めて宮を築き、之に師事す。 是に於いて士、争ひて燕に趨(おもむ)く。
「隗より始めよ」の使い方と例文
「隗より始めよ」は、類似表現の「千里の道も一歩から」に比べると使用頻度が低い傾向があります。しかし、何か目標を達成しようとする際に、まずは目の前の課題に取り組むことをすすめるシーンは、意外に日常生活のなかでも多いです。
「隗より始めよ」を使ってアドバイスができれば、周りの人からも一目置かれる存在になれるかもしれません。使い方のポイントと例文をご紹介します。
格言やアドバイスとして使う
「隗より始めよ」は、ビジネスシーンで大きなプロジェクトに取り掛かるタイミングで、同僚を勇気づける一言としても使えます。プライベートであれば、重要な試験に挑む友人の背中を押す際にも役立つでしょう。
また、他人だけではなく自分を奮い立たせる座右の銘としての用法もあります。大きな挑戦を控えている人にとって、「隗より始めよ」は心に刻んでおきたい言葉です。
「隗より始めよ」を使った例文
「隗より始めよ」の例文を確認し、自然に使いこなせるようにしましょう。
【例文】
・隗より始めよの精神で、彼は膨大な数の過去問題に取り組みはじめた。
・やる前から諦めずに、挑戦してみてください!何事も隗から始めよですよ。
・提案した私が最初に試してみます。隗より始めよといいますからね。
「まず隗より始めよ」の意味と由来を正確に理解しておこう
「まず隗より始めよ」とは、大きなことをいきなり始めるのではなく、手近なところから始めようという意味で使われます。また、言い出した人がするべきだの意味でも使われるので、覚えておきましょう。
「隗より始めよ」という言葉だけでなく、その由来も知っていると理解が広がります。昭王と郭隗のやり取りを覚え、「隗より始めよ」と「死馬の骨を買う」「千里の道も一歩から」をぜひセットで覚えてください。
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