タカラヅカ時代に演じていて楽しかった役と、苦労した役を教えてください。
音:卒業を決めてから演じた『TOP HAT』のマッジは楽しくてしかたがなかったです。存分にお芝居ができて、いろんなお役の方とのやりとりがたくさんありました。自分が大好きでお世話になった方、同期…そんな方たちとのお芝居のキャッチボールは安心感があり、考えていた以上のお芝居ができて。すごく楽しかったですね。舞台上でお仕事なんですけれど遊びの延長みたいな感覚で、そのくらい気楽にできたことはいいことなのか悪いことなのかわかりませんが、今まで経験したことのない、最初で最後の気持ちでした。
写真をもっと見る苦労した役は、『アウグストゥス−尊厳ある者−』のオクタヴィアですね。それまで感情を出す系の役をいただくことが多く、秘めている系の役のオクタヴィアの時に感情を出していないつもりでも出ちゃってると言われてすごくもがきました。同期のトップ娘役の華 優希(はな・ゆうき さん)の退団公演だったんですよね。主演であるトップスターの柚香 光(ゆずか・れい)さんのお姉さんの役で、瀬戸かずやさんが婚約者だったんですけど、その恋人には裏切られ、凪七瑠海(なぎな・るうみ)さん演じるクレオパトラとくっつかれて…という結構悲惨な状況の中、強く生きるという。少ないセリフや歌の中で自分の気持ちを表現することも難しかったですが、役者としてはそれができないとダメなんですよね。難しい役でした。これからもきっと、そういうことに悩んでいくんだろうなという予感があります。
ものすごく緊張するタイプということですが、それを解く方法はありますか?
音:本当に緊張するんですよ。歌稽古の時に、持っている楽譜が震えちゃうくらい。歌稽古はみんな列になって背を向けていることが多いのでバレないのですが、必死で隠しながら歌っていました。緊張して力も半分くらいしか出せないことはわかっているから、できるかぎり準備をして悔いのないようにしておくことしかできないですね。持っている力を少しでも多く出せるように努力をすることのみ、です。
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タカラジェンヌの現役時代で、もっとも楽しくてうれしかったこと、逆に大変だったことをそれぞれ教えください。
音:本当に楽しかったのは楽屋でバカ笑いしたことかな。もはやなにに笑っているのかわからなくなるくらいまで笑うことってあるじゃないですか。終演後、みなさんがぼちぼち帰られて少し緊張が解けた楽屋で、同期たちと他愛もないことで笑い合ったこと。今、ふと、そういうのがかけがえのない時間だったなと思い出すことがありますね。
同期がまだわりと劇団に残っていて、みんな仲よしなんです。先日観劇に行く前にテレビ電話をつなげて、みんながわーっと集まってきてくれて。終演後も「どうだった?」と電話をかけてきてくれたり。退団した今でもそうやって連絡を取り合い、観劇に行くとはしゃいでくれて、本当にうれしいです。
今はなにをするのもひとりですもんね。
音:そうなんですよ。さびしい(笑)。退団してまだ1年経っていないから、舞台上の方たちの顔を見る方がホーム感があるんですよね。
大変だったことのひとつとしては、娘役のアクセサリー作りです。舞台稽古の前日って、公演に向けてのアクセサリーを作る作業に追われて、たいだい寝れないんですよ。手先が不器用すぎて人より何倍も時間がかかるうえ、もっとよくしたいと思って「ここをこうした方がいいかな」とやっていると、太陽が昇っちゃうんですよね(笑)。
きっとお得意な方は楽しい時間なのでしょうね。
音:そう、そういう作業がストレス発散という方もいらして。私は手から血を流しながら作っていました(笑)。それが苦労といえば苦労かな。
退団後はミュージカル、オーディオドラマ、そして今回の梅棒公演と多岐に渡っていますが、お仕事を受ける決め手のようなものはありますか?
音:今までやったことがないこと、自分ができるかわからないけど…!、ということをやってみたいです。退団したばかりの今は、ほとんどそういうものなのですが(笑)。より自分の幅を広げたいのと、いろいろな人に出会って刺激を受け、自分自身に対して悩みたいですね。面白そうで、かつ、自分がなにか新しいものを得られるお仕事をしていきたいです。
梅棒公演『曇天ガエシ』のPR動画で「見どころは全部」とおっしゃっていましたけれども、中でもイチオシの場面はありますか?
音:プロのダンサーさんしかいないから素晴らしすぎるのは当たり前で、今回はさらにダンスと同じくらい殺陣もあってスケールが大きいんですよ。私は殺陣はないのですが、見ているとド迫力!
男性の方が多いから、力強さや勢いがすごそうですね。
音:「すごい」しか出てこないですよ。今回の出演者はダンサーでありながら振付師である方ばかりで、制作に携わっていて自分なりの世界観を確立されている方が、同じダンスを踊られているのがグッとくるというか。
ダンスを極めているけれど今回初めて芝居をするという方もいらっしゃって、とても新鮮です。セリフを使わない形式の作品で、本当に難しいんです。梅棒のメンバーの方は、喋らなくても言っていることが怖いくらいわかるんです。今の自分はなにもできず、頭をゴンゴン打って悩んでいる状態なんですけど。そんな唯一無二で自分というジャンルを極めている方が、現場で「よかったよ、素晴らしかった!」と称え合っている状況も素敵なんです。人間ってこんなにも多才なんだと思わせてくれる方が集まっている現場です。
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今後はどのような表現者になっていきたいですか?
音:自分というジャンルがあるのってすごくカッコよくて美しいなと今まさに感じているから、死ぬまでにそういうものを自分の中に見つけたいです。面白い、クセになる、もう1回観たいなと思っていただきたい。「この人が出るからこの作品を観に行こう」と思っていただくことは役者冥利に尽きますよね。「この人だから」と、ジャンルや枠にとらわれない表現者になっていきたいです。なので今は、自分になにがあって、なにがたりなくて、なにをしたいのかを見つけるためにいろいろやっている状態です。
あと今は、殺陣がものすごくカッコいいので、やってみたいですね。育てていただいた宝塚歌劇のイメージとはまた別のことにも挑戦して、ボーダレスな存在になれたらと思っています。
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宝塚歌劇団時代も「音 くり寿」の存在感を存分に発揮されてきましたが、今後はその枠を飛び出し、さまざまな世界で活躍されていくのが目に浮かびます。なぜなら、新しいこと、そしてそのクオリティを高めることに犠牲をいとわないという信念を音さんから感じたから。明日から始まる梅棒公演『曇天ガエシ』、ものすごく楽しみです!
次回は音さんのオフの姿や日常についてうかがいます。お楽しみに。
撮影/風香 構成・文/淡路裕子
梅棒 16th showdown『曇天ガエシ』
【Story】
“オウゴン”の採掘により発展した国「ジパングリ」で、王の妻によるクーデターが勃発。跡継ぎだったメツ王子は物心つかないうちに王宮を追われ、行方不明に。それから十数年…、女王の圧政に苦しむ人々の救いは、国からオウゴンを盗み出し民に分け与える義賊集団「マサゴ」だった。その中に、成長し街を飛び回るメツの姿が。一方、武力で圧政を覆そうとするテロ組織「クニクズシ」も怪しい動きを見せていた。ある日、メツは女王の息子であるヌューダ王子と偶然街で出会い、運命の歯車が回り出す。果たしてこの国の行く末はいかに…。
【Staff&Cast】
作・総合演出/伊藤今人[梅棒]
振付・監修/梅棒
出演/梅澤裕介、鶴野輝一、遠山晶司、塩野拓矢、櫻井竜彦、天野一輝、野田裕貴[以上、梅棒]
千葉涼平[w-inds.]、音 くり寿、鳥越裕貴、YOU、後藤健流、IG、上西隆史[AIRFOOTWORKS]、 泰智[KoRocK]、えりなっち、akane、MIKU、Sota[GANMI]
【公演詳細】
<東京公演>
日程:2023年3月10日(金)〜3月12日(日)/全4ステージ
会場:なかのZERO大ホール
日程:2023年3月16日(木)〜3月22日(水)/全10ステージ
会場:新国立劇場 中劇場
<大阪公演>
日程:2023年3月31日(金)〜4月2日(日)/全5ステージ
会場:森ノ宮ピロティホール
<愛知公演>
日程:2023年4月8日(土)〜4月9日(日)/全3ステージ
会場:日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
【チケット料金(税込・全席指定)】
S席:¥9,300
U-25サービスエリア:¥4,000(25歳以下限定/当日座席指定)
【チケットに関するお問い合わせ】
<東京>
チケットスペース:03-3234-9999
<愛知>
サンデーフォークプロモーション:052-320-9100
<大阪>
キョードーインフォメーション:0570-200-888
▶︎公式サイト
俳優
音 くり寿
おと・くりす/12月18日生まれ、埼玉県出身。2014年に100期生として宝塚歌劇団に入団。月組大劇場公演『宝塚をどり/明日への指針/TAKARAZUKA 花詩集100!!』で初舞台を踏んだのち、組まわりを経て花組に配属。2016年大劇場公演『ME AND MY GIRL』で新人公演初ヒロイン(Wキャスト)。2017年『MY HERO』で東上公演ダブルヒロイン、2018年『蘭陵王』にて東上公演単独初ヒロインを務める。2019年『CASANOVA』で初のエトワールに。2022年『巡礼の年〜リスト・フェレンツ、魂の彷徨〜/Fashionable Empire』にて宝塚歌劇団を退団。2023年よりミュージカル『ファースト・デート』、オーディオドラマ『マクロプロスの処方箋』、梅棒 16th showdown『曇天ガエシ』など、精力的に活動中。
▶︎Instagram:@otokurisu
▶︎Twitter:@oto_kurisu