後戻りできないから、やけくそになってバカやるしかないんです
自らのこじらせや失敗をネタとして語るだけでなく、後輩芸人を集めて活躍の場をつくったり、オンラインサロン「御馬鹿会議」で仲間を募ったり。これらはみな、「天下を取る」ための一策。こじらせてきたからこそ見えた、吉村さんならではの戦術を語ります。
語り/吉村 崇(平成ノブシコブシ)
結婚はできない、しない
100%浮気をするから
1980年生まれの43歳。俺ら世代はほぼ全員、男も女もこじらせ世代ですよ。景気の悪い時代に生き、就職氷河期まっただなかで、うまくいかないことを世の中のせいにしてみたり。下の世代のほうが、何かにつけてしっかりしているなあと、よく感心させられます。
その上、明治生まれの爺さんと大正生まれの婆さんに育てられたひとりっ子。いつしか、年寄りの輪にうまく入る行動や会話を選ぶようになっていました。気ぃ遣いで人見知りになるのも必然で、今だにそうです。
写真をもっと見るでも、待てよ。いまだ出会っていない女性が地球上で数十億人いることを考えると、人見知りなんてしてる場合じゃない。もっと知り合いたいし、仲良くしたい。そう気づいてからは、出会いの場を求めて出かけたり、おいしい店を調べたり、サプリを飲んだり、脱毛したり…モテるための努力もしてます。ちなみに好みのタイプはないし、全ての女性を受け入れます。はい、クズです。
でも、ナンパだけはできません。断られたとき、凹むのが怖いから。ナンパさえできていたら、もっと人生変わっていただろうに。
その上、100%浮気するから結婚には向いてない。これは、爺さんから親父・母親と代々受け継いだ習性で、吉村家の証なんです。そんなこと今の社会で、今の立場で、許されるはずもありません。多夫多妻の世の中になったらいいなと思うけれど、とうてい無理。それでももし結婚するなら、表舞台から退いて、たくさんの女性とたくさんの子どもをつくって、みんなで仲良く育てる。そんな村をつくって暮らすしかなさそうです。
写真をもっと見る天下をとった後の景色は、自分でもわからない
恋愛以上にこじらせてきたのが、お金の面かもしれません。芸人の世界は究極の格差社会です。若いころはお金がなくて、底辺のような生活をしてきました。ごはんを食べるお金もないから、先輩におごってもらってばかり。そして俺の悪いところが、少しお金が入ればギャンブルをする、負ける、人から借りる…という。その繰り返しでした。
で、ようやく底辺生活を抜け出て、いざ収入が増えても、失敗ばかり。お金への知識がなければ、執着もないんです。すぐに大きな買い物をするし、後輩におごったり旅行に連れて行ったり、それだけでもものすごい出費です。でも、このやり方しかできません。お金を使ってやっているのは、世に出てない若手を周りに集めて、自分の軍団をつくること。今さらトークでいくら頑張っても、勢いのある若手芸人にはかなわないから、こっちは軍団の大きさで威嚇するんです。それに、ふだんから後輩におごっておけば、いざ俺がスベりそうになったとき、笑ってくれますから。
かといって、軍団の奴らに好かれたいと思ったことはありません。ようやく手に入れたこの席を下の世代に譲るつもりも、ありません。欲しいなら奪い取りに来い。こっちは徹底的に戦って、叩いてやる。その代わり、俺が負けたら席を取られるっていう覚悟もあります。
写真をもっと見る不安なときこそアクセルを強く踏んで突き進む
そうやって、周囲を固めつつ「天下を取る」。ずっと以前から宣言していることではあるけれど、それがどんな状態なのか、天下を取った先にどんな景色が見られるのか、正直わかりません。きっと、天下を取ってみないと答えは出ないものなのでしょう。
わかっているのは、その舞台はやっぱりテレビだということ。かつてダウンタウンさんがテレビ界を席巻し、俺らが熱に浮かされたときのように。テレビの勢いが衰退したといわれるけれど、そこに集まる熱量はやっぱりすごいし、みんなが人生をかけている。
でも、ほかの職業に比べたら、芸人なんて世の中になくても困らない存在です。いざというとき食料を生み出すことも、人を救うことも、できないんですから。それに気づいていながら、人生をかけてしまった芸人たちの愚かさ、儚さがたまらなく好き。みんな、こじらせてるんです。
写真をもっと見るお金のトラブルも、高い車を買ってローンを抱えることも、家賃の高いマンションに住むことも、全部自分が選んだことなので、後悔はありません。失敗しただけ周りは優しくしてくれるし、借金が多ければ愛されるとわかりました。そして、失敗体験があるからテレビ番組にも呼んでもらえます。
先の不安は常にあるけれど、だからこそアクセルを強く踏んで突き進む。先が見えなくても、後戻りできないから、やけくそになってバカやるしかないんです。天下を取るまでは。(おわり)
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吉村 崇
よしむら たかし/1980年生まれ、北海道札幌市出身。NSC東京校5期生。
2000年に徳井健太とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」を結成。
2010年頃から破天荒キャラで注目を集める。
現在のレギュラー出演は、『くりぃむクイズ ミラクル9』(テレビ朝日系)、『ノンストップ!』(フジテレビ系/隔週木曜)、『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日・ABEMA)、『1億3000万人のSHOWチャンネル』(日本テレビ系)、『タクシー運転手さん一番うまい店に連れてって!』(テレビ東京)、『ヒルナンデス!』(日本テレビ系/木曜)、『クラウドダンディ』(TOKYO MX)、『ノブコブ吉村のラブヶ原~世紀の合コン大合戦』(BSよしもと)。
ツイッター: https://twitter.com/hnkyoshimura
インスタグラム:https://www.instagram.com/hnkyoshimura/
オンラインサロン「御馬鹿会議」
毎週日曜、サロンメンバーとの会議を中心に、「御馬鹿」なことを計画・実践に移していくプロジェクト。今考えているのは、「アジアを中心とした海外でお笑いライブをやりたい。実力はあってもまだ食えていないたくさんの芸人を海外に輸出する計画です。そしていつかは無人島を買い取りたい。みなさんが僕を利用して、馬鹿なことを実現するきっかけになれば」(吉村さん)
月額1000円
撮影/高木亜麗
取材・文/南 ゆかり
連載:こじらせ男のひとりごと