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2018.09.03

女性政治家が増え、社会はどう変わるのか【三浦瑠麗の「優しさで読み解く国際政治」】

国際政治学者・三浦瑠麗さんに教えていただく世界の「今」。今回は、女性の政治家が増えたあとはどのような社会になっていくと予想されるのか、伺いました。

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世界で続々と女性リーダーが登場。女性政治家が増えるとどう変わる?

21世紀は女性の世紀であると言われます。政界に、産業界に、リーダーとして女性が進出し、人々が性別や着ている服ではなくて、純粋に能力で評価される時代へ――そんな未来像は、子供を育てている世代に十分に夢を与えてくれるものです。 世界各国を見渡せば、女性のリーダーは確実に増えています。G7の古株であり大御所感のあるメルケル独首相。イギリスで史上2番目の女性首相であるテリーザ・メイ首相。首相になってから妊娠を発表し産休をとった、まだ30代のニュージーランドのアーダーン首相。ノルウェーの女性首相、ソルベルグ内閣では、重要なポストの多くを女性が占めています。

今年に入ってルーマニアでも初の女性首相が誕生したほか、セルビア、エストニアでは40代の女性指導者がトップについています。 多くの先進国では、議会や会社役員で一定数の女性を割り当てる「クォータ制」を導入。女性リーダーの人数が飛躍的に増えたことで、国のトップの人材も見出されたわけです。 そんな中、日本でも、超党派が推進した「政治分野における男女共同参画推進法」が成立しました。女性の議員を増やそうとする法律ができたのは画期的なことです。全会一致で可決された背景を見れば、女性活躍の大義が、政治のイデオロギーの左右を横断して支持を得たということができます。では、女性の政治家が増えたあとはどのような社会になっていくと予想されるのでしょうか。

イラスト/本田佳世

女性の指導者を増やすことの意義

女性の指導者はよく、生活のことを気にかけ、汚職に対して厳しい態度をとり、女性や子供の待遇を向上させると言われます。社民主義的な政党に女性候補が多いのも、やはりこうした使命感を持つ人が集まる傾向にあるからでしょうか。こうした社民主義の政党は、欧州ではきちんと政権を担った結果として、明らかに統治の側に回ることができる人材を輩出してきました。「大きな政府」を実現して弱者を救おうと思えば、必然的に「国家権力と戦う」のではなく「国家権力」にならなければいけないからです。各国の例が示す通り、女性が統治する側に回れないというのは、幻想でしかありません。

しかし、男女平等の流れが加速したことにより、女性の候補者も多様化しました。とりわけフェミニズムが進んだ国では、ガチガチの保守でさえフェミニストになりました。例えば、上述のノルウェーは、NATOの同盟を非常に重要視している中道右派連立政権です。連立の一角をなす右翼の進歩党は、男女平等主義を貫く一方で、移民の独自文化に対しては非寛容です。女性を政治家の候補にすることは、日本でも、真剣に検討されるようになりました。それは社会が徐々に変化し、国際的に取り残されていることを自覚しており、かつ保守層にとっても女性活躍を掲げることが、選挙上プラスに働くことを示していると言えるでしょう。 問題は、女性の候補が大量にリクルートされたときの効果です。強固な地盤や組織票がなければ、個人としてのキャラクターに頼って選挙をするしかありません。

しかし、そのような弱い選挙基盤しか持たない人は、支持母体から強く影響を受けてしまいます。その母体が保守派の場合、女性は「優しい主張」を繰り返すとか、社民主義者が多いといったような声は、当てはまらなくなっていくのです。 日本が女性の候補者を欧州並みに増やしていこうとすれば、波乱や一時的な右傾化や左傾化が懸念されます。しかし、それを乗りこえた暁には、政策の判断を行うコミュニティに多様性が与えられ、合理的な政策判断が増えることでしょう。現に、欧州で国防大臣になった女性政治家は、次々に軍の現代化と軍事費の合理化に舵を切っています。 今後、女性の世紀にはどのような変化が起きるのか。女性指導者が増えたからといって皆が合意できる見通しは特段立ちません。しかし、フェミニズムだけは当たり前の原則となって、他の課題を話し合うことができるようになる。女性の活躍を万能の処方箋と思ってはいけないけれど、まずは女性の指導者を増やすことに歴史的な意義があると考えたほうがいい。すべてはそこから、です。

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国際政治学者

三浦瑠麗

1980年生まれ。国際政治学者。東京大学農学部卒業。東大公共政策大学院修了。東大大学院法学政治学研究科修了。法学博士。現在は、東京大学政策ビジョン研究センター講師、青山学院大学兼任講師を務める傍ら、メディア出演多数。気鋭の論客として注目される。

Domani8月号 新Domaniジャーナル「優しさで読み解く国際政治」 より
本誌取材時スタッフ:イラスト/本田佳世  構成/佐藤久美子

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