Q.「ちゃんと人の話が聞けません」
A.「おや! 何かな?」と子どもの注意をひくことができれば自然と聞くようになります
おうちの方から、「小学校に入るまでに何をしておけばよいですか?」という質問をいただくことがよくあります。そんなときは、「人の話を、耳を澄まして聞く練習をしてほしい」とお伝えしています。
子どもは、成長・発達するにつれ、触れる情報がどんどんふえていきます。特に小学校に入ると情報量は膨大に。いろいろなことに注意を向けながら、短い時間で多くの情報を処理しなければなりません。先生の「次は〇〇しましょうね」という指示に耳を傾け、正しく理解し、行動することが求められます。もちろん小学校に限らず、相手の話を聞いて理解することはコミュニケーションをとるうえで重要です。
話を聞いていない理由は?
おうちの方が、「子どもが話をよく聞いていない(話したことを理解していない)」と感じるのであれば、次のような理由が考えられます。
ひとつは、認知能力の発達において、聞いたことを正しく理解するのが、まだ難しい段階にあること。もうひとつは、子ども自身の「話を聞こう」という意識が弱いことです。
聞く力の発達は、経験や記憶の容量による
子どもの聞く力の発達は、あくまでも目安ですが、次のように進んでいきます。
1歳半ごろ
相手の話を大まかに理解できる。たとえば「おもちゃを持ってきて」という指示通りに動くことはできる。ただし、経験による知識は少ないので、聞いた内容を正しく想像することはまだうまくできない。
2歳ごろ
自分から動き回っていろいろなものにふれたり、人とおしゃべりをしたりする経験を重ねる時期。目新しいものには注目するが飽きやすく、興味がなくなると、その場から去ろうとする。
3歳ごろ
脳の記憶の容量がふえて、たくさんの言葉を聞き取って覚え、経験して得た知識が蓄積されてくる。物語を言葉だけで聞いたときにも、知識をもとにして、自分の頭の中で具体的なイメージを描くことができる。人の話を最後まで聞こうとする。
4歳ごろ
論理的に考える機会がふえ、話を聞いて因果関係を読み取る力もつく。文法に注意して、聞き取ったり話したりするようになる。一方で、記憶される情報量がふえているのに整理することがまだうまくできず、似通った言葉の意味を混同するなどの、言葉の誤解や混乱もみられる。
5歳ごろ
短期記憶の容量がふえて、複雑な物語でも聞いて理解できるようになる。話を注意深く聞いて、論理的に筋の通った話かどうかを判断し始める。5人ほどの人を相手にした会話を、相手の理解を考えながらすることができる。
6歳ごろ
2つのことを同時に言われると、両方を理解して対応し、長い話でも整理して理解できる。聞いた話の要点を、自分の言葉で伝えることができる。言葉の意味が複数あることを知り、冗談を聞いて笑い、話のユーモアを理解するようになる。
おうちの方が「子どもが話をよく聞いてない」と感じたとしても、本当は聞いているけれど「正しく理解するには経験や知識が足りない段階」だったり、「頭の中で情報が整理されていない状態」だったりする場合もあるのです。これは、言語や論理の領域の発達とともに解消されていきます。
話を聞いてほしいときは?
子どもはいろいろなことに好奇心をもつため、話に興味がなくなると、他のものごとに関心が移ってしまいます。特に2歳ごろはとても正直で、話を聞くのがイヤなときにはサッといなくなります。では、話を聞いてほしいときはどうすればよいのでしょうか。
注意をひくしかけをつくる
わたしはこれまでいろいろな子ども向けの映像を監修してきました。その中で、「ここはしっかり見てほしい、聞いてほしい」という大事なポイントの映像や音声があるときは、その直前に「ビヨーン」とか「ピンポン」といった音が流れるようにしています。
そういうしかけがあれば、子どもが映像に集中していないときでも、音をきっかけに、ハッとして画面に注目してくれます。大事な内容を見せたり聞かせたりすることができるわけです。ご家庭でも、子どもに話を聞いてほしいときには、まずは「おや、何かな?」と子どもが気になるような言葉を口にしてみるなど、耳を傾けるきっかけるを工夫できるとよいでしょう。
「話を聞いてよかった」と思える体験を重ねる
そのうえで、「話をよく聞いたらいいことがあった」という経験ができると、子どもは次も話をよく聞こうという気持ちになるはずです。
たとえば、おうちの方が「〇〇ちゃん、今日のごはハンバーグとオムライス、どっちがいいかな?」と質問したとします。その言葉をよく聞いて、内容を正確に理解して、自分が食べたいと思うほうを答えることができれば、食べたいものを食べられて「よかった!」と感じることができます。
また、「うさぎの絵のTシャツと、象の絵のTシャツ、どっちを買ってきてほしい?」などと確認したり、「今日のおやつは、チョコのドーナツ1個と、チョコのドーナツ2個、どっちがいいかな?」など、数を変えて尋ねたりするのもいいでしょう。耳を澄ます甲斐がある質問です。うれしい、楽しいと感じる会話の経験が積み重なれば、「話をよく聞こう」「正しく理解しよう」という「話を聞く構え」がつくられます。
聞く力は、このような日常のやりとりの中で鍛えることができるもの。「よく聞いといてよかった!」と子どもが喜ぶような質問やおしゃべりを、1日1回はしてみませんか。
わが子だとムキになって忘れがち!? 『小さな子には難しい』の観点
発達心理学と視聴覚コンテンツの専門家・沢井佳子氏の編著書『6歳までの子育て大全』(アチーブメント出版株式会社 刊)よりお届けする企画第2弾! (第1弾はこちら)今回ご紹介したのは「ちゃんと人の話が聞けません」という保護者からのお悩みです。
愛するわが子だからこそ、育児に悩み苦しむもの。人の話が聞けないことに対して、どうして? と怒りや悲しみばかり抱いてしまうこともあるでしょう。しかしそんなときこそ、たぎる気持ちをグッとこらえて、沢井さんによる解説【1~6歳までの「聞く力の発達の目安」】を思い出してみてください。 そこに答えが見つかるかもしれません。
「子どもの発達には、生まれつきのプログラムに導かれた順序がある」のだと、沢井さんは言っています。親を困らせる子どもの振る舞いも、考える力の発達によって順々に引き出される行動の一つであり、いわゆる“成長へのステップ”なんですね。親も人間ですから、ときには怒ってしまうこともあると思いますが、子どもと向き合うことを忘れなければ「話を聞く構え」が少しずつ育まれていくはずです。今日できなくても、3か月後には、半年後には…と、長い目で見守っていきましょう。
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○親なのに赤ちゃんの気持ちがよくわかりません
○自信がある子に育てるにはどうしたらいいですか?
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編著者
沢井佳子
チャイルド・ラボ所長(一社)日本こども成育協会理事。認知発達支援と視聴覚教育メディアの設計および学習コンテンツ開発を専門とする。学習院大学文学部心理学科卒業。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了、人間文化研究科博士課程単位取得退学、発達心理学専攻。幼児教育番組 『ひらけ!ポンキッキ』(フジテレビ)の心理学スタッフ、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科研究員(総務省e! school研究)、静岡大学情報学部客員教授等を歴任。2000年に個人事務所のチャイルド・ラボを設立して以来、所長として幼児向けのテレビ番組、デジタルアプリケーションの設計、絵本やワークブック等の教育コンテンツの開発と監修に携わる。マルチメディアの幼児教育シリーズ『こどもちやれんじ』(ベネッセ)の「考えるカ」プログラム監修。『3さいの本』全8冊(講談社)ほか、幼児向けに監修した本やデジタルコンテンツは多数。幼児教育番組『しまじろうのわお!』監修。