本人にとってのメリット・デメリット
まず、大きなメリットは、心身の安定でしょう。さらに、私生活の充実という点でメリットを感じるという声も。
一方、デメリットは成長機会の喪失や、年収や評価が上がりにくいことなど。また、会社が倒産した際やリストラになってしまった際、新しい仕事を探しにくくなるなど、長期的なキャリア形成への影響も見逃せません。
静かな退職をどう受け止めるか｜評価が分かれる理由
静かな退職はメリットを感じる人もいるため、賛否両論あるというのが現状です。筆者の知人は、証券会社での営業成績と出世の競争に疲れ果て、全く異業種の契約社員にキャリアチェンジをしました。そこでは、最低限の仕事をこなして、定時退社するようにしているといいます。
「やる気を失ったというより、仕事が人生の全てではないなと思ったんだよね。決してネガティブな原因だけじゃないし、今の仕事にも生活にも満足しているよ。そもそも、雇用契約上の最低限の仕事をしているのだからいいのでは？」と語ってくれました。
このように、働き方に対する考えは人それぞれということは、おさえておきたいポイントですね。
管理職・リーダーが知っておくべき静かな退職の兆候と対応策
静かな退職の兆候がある部下に、根性論で「やる気を出せ」と叱咤するのは逆効果になることがあります。状況を冷静に把握し、適切な対応につなげるために、静かな退職の兆候や注意点を見ていきましょう。
静かな退職の兆候とは？ 放置リスクを見逃さない
発言が減る、追加業務を避ける、遅刻や欠勤が増えるといった変化は、注目したいサインです。特にハイパフォーマーの変化は見逃せません。例えば、「仕事の幅を広げようとしなくなる」場合は要注意です。
前述の通り、疲労やストレスが限界に近づいた人は、身を守ろうとして、新しい案件や挑戦を避けるようになるケースが多いのです。
また、介護や育児、家庭の問題などで疲れに追い打ちがかかっていることも挙げられます。背景を理解せずに「あなたらしくない。もっと頑張れ」と求めてしまうと、本人を追い詰める結果になってしまうという点は、注意したいポイントです。
実例でみる「静かな退職」の隠れた原因
実際にあった事例をみていきましょう。ある大手IT企業で、バリバリ働いていたディレクターＡさん（30代後半女性）が、ある時期を境に、急に新しい案件を拒否し始めました。
Ａさんの上司は「やる気がないの？」と強く問い詰め、「今が頑張り時だよ！ もっとエンゲージメントを高めていこう！」と𠮟咤激励の言葉を送ったと言います。Ａさんはその時は、「はい！ がんばります！」と答えました。
ところが、その数日後、Ａさんはベッドから立ち上がれなくなってしまったのです。結果的に抑うつ状態で休職することになったＡさん。
休職時に行われた面談では、数年間にわたる長時間労働や、部下の指導、大きすぎる案件のプレッシャーに加え、母親の病気の看病でプライベートも十分に休めていなかったことが判明しました。
最初は「静かな退職」として業務を最小限に抑えていましたが、そのサインに気づかれず、むしろ叱責されたことで事態は悪化してしまったのです。
特に部下や後輩がいる方は、静かな退職が「怠け」ではなく、限界に達したシグナルという可能性も考慮しておきたいですね。
最後に
POINT
- 静かな退職は最低限労働にとどめる働き方のこと。
- 背景には疲労・燃え尽き・価値観の変化が潜む。
- 背景理解と支援で健全な職場づくりにつながる。
「静かな退職」は働く人が自分を守る手段でもあるのでしょう。また、働き方やライフスタイルに対する価値観はさまざま。責め立てるのではなく、背景を理解し、健全なマネジメントへとつなげる姿勢が重要ですね。私たち一人一人にとっても、自分の働き方や生き方を見直すヒントになるのではないでしょうか。
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執筆
塚原社会保険労務士事務所代表 塚原美彩（つかはら・みさ）
行政機関にて健康保険や厚生年金、労働基準法に関する業務を経験。2016年社会保険労務士資格を取得後、企業の人事労務コンサル、ポジティブ心理学をベースとした研修講師として活動中。趣味は日本酒酒蔵巡り。
事務所ホームページ：塚原社会保険労務士事務所
ライター所属：京都メディアライン
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