Summary
- 「ございませんでしょうか」は文法的には誤りではないが、過剰に丁寧な印象を与える表現。
- 正しくは「ございますか」「ございませんか」がより自然で伝わりやすい。
- 相手との関係性によって、丁寧さと親しみのバランスを調整するのが理想。
ビジネスメールや接客の場で、「ご不明点はございませんでしょうか?」といった言い回しを使ったことはありませんか? とても丁寧な響きですが、「それって正しいの?」「丁寧すぎじゃない?」と感じる人も多いのではないでしょうか。
日本語の敬語は、相手への敬意を示すための大切な道具ですが、使い方を誤ると逆に不自然さや距離感を生むこともあります。
本記事では、「ございませんでしょうか」という表現の正しい意味と文法的な位置づけ、そしてビジネスや日常での上手な使い方までを、わかりやすく解説します。
「ございませんでしょうか」は間違いなのか?|敬語としての位置づけを整理
「失礼なの?」「丁寧すぎる?」と迷う表現のひとつが「ございませんでしょうか」です。ここではこの表現の成り立ちと、文法的な正誤、そして相手にどう受け取られるかをわかりやすく整理します。
文法的に正しい?|二重敬語とされる理由とは
「ございませんでしょうか」は、「ございません」(丁寧語)と「でしょうか」(丁寧語)が組み合わさった表現です。この構造が、いわゆる「二重敬語」ではないかという疑問を生んでいます。
文化庁の「敬語の指針」では、二重敬語を「同じ種類の敬語を二重に使ったもの」と定義しています。ただし、ここでいう二重敬語とは、「お召し上がりになる」(「お~になる」と「召し上がる」という二つの尊敬語)のように、同じ言葉に対して同じ種類の敬語を重ねるケースを指します。
「ございませんでしょうか」の場合は、構造が少し異なります。
「ございません」=「ある」の丁寧語「ございます」の否定形
「でしょうか」=「だろうか」の丁寧語
これらは異なる言葉にそれぞれ丁寧語が使われているため、厳密には二重敬語ではないとする見解もあります。文法的に誤りとは言い切れない、というのが現在の一般的な解釈です。しかし、丁寧な要素が重なっているため、人によっては過剰な敬語、すなわち「二重敬語」と捉えられ、違和感を持たれることがあるのです。

なぜ違和感があるのか?|言葉が与える印象のズレ
文法的には許容されうる表現であっても、「ございませんでしょうか」に違和感を覚える人が少なくないのはなぜでしょうか? それは、言葉の重なりが生む冗長さと、相手との心理的な距離感に理由があります。
まず、音の長さです。「ございませんでしょうか」は11音。これに対して「ございませんか」なら7音、「ありませんか」なら6音です。丁寧にしようとするあまり、言葉が長くなりすぎると、聞き手や読み手には「まわりくどい」「慎重すぎる」という印象を与えてしまいます。
また、過剰な丁寧さは、時として心理的な壁を作ります。相手を敬うことは大切ですが、あまりに形式的すぎると、「距離を置かれている」「よそよそしい」と感じられることもあるのです。特に、すでに関係性が築けている相手に対しては、適度なフランクさのほうが信頼感につながることもあります。
「ございませんでしょうか」は文法上は誤りではないが、丁寧すぎて不自然に感じられる場合がある。
ビジネスで使うなら?|場面に応じた表現の整え方
敬語は「正しさ」だけでなく「自然さ」も重要です。相手が心地よく感じるように、メールや会話では言葉を適度に整えることが、信頼関係を築くためのポイントになります。
メールでの使用例と整え方|相手の目にどう映るか
メールは文字だけのコミュニケーションだからこそ、言葉選びが相手に与える印象を大きく左右します。「ご不明点はございませんでしょうか?」という一文も、文脈や相手との関係性によって、適切かどうかが変わってきます。
【冗長に感じられやすい例】
「お忙しいところ恐れ入ります。先日お送りした資料について、ご不明点はございませんでしょうか。
もしございましたら、お気軽にお申し付けください。」
この文章は丁寧ですが、「ございませんでしょうか」「ございましたら」と丁寧語が重なり、やや形式的な印象を与えます。
【整えた例】
「お忙しいところ恐れ入ります。先日お送りした資料について、ご不明な点はございますか。
ご質問があれば、お気軽にお申し付けください。」
「ございますか」と肯定形にすることで、簡潔かつ自然な印象になります。否定形で尋ねる必要がない場合は、肯定形のほうがすっきりと伝わります。
【さらに柔らかく整えた例】
「お忙しいところ恐れ入ります。先日お送りした資料について、ご不明な点があればお気軽にお知らせください。」
疑問形を使わず、クッション表現を活用することで、押しつけがましさがなくなり、相手が返信しやすい雰囲気が生まれます。
ポイントは、相手との関係性・やりとりの頻度・状況の緊急度を考慮することです。初対面や目上の方には丁寧に、やりとりが続いている相手には簡潔に、といった調整が、信頼関係を育むカギとなります。

口頭での伝え方|丁寧すぎない会話を意識する
対面や電話では、メール以上に「自然さ」が求められます。書き言葉としては許容される表現でも、話し言葉として口に出すと不自然に聞こえることがあるからです。
「ございませんでしょうか」を口頭で使うと、言葉が長く、テンポが悪くなりがちです。相手との会話のリズムを大切にするなら、以下のような表現がおすすめです。
【スッキリとした代替表現】
「ご不明な点はございますか」
「何かご質問はありますか」
「おわかりにならない点はありませんか」
【さらにフランクな場面での表現】
「わからないことがあれば、お気軽にどうぞ」
「何かあればおっしゃってくださいね」
ポイントは、丁寧さと親しみやすさのバランスです。極端に崩す必要はありませんが、堅苦しくなりすぎないよう、相手の反応を見ながら柔軟に調整しましょう。
また、語尾だけでなく、声のトーンや表情も大切です。どんなに丁寧な言葉でも、無表情で棒読みでは冷たく聞こえます。反対に、少しカジュアルな表現でも、笑顔と温かい声で伝えれば、十分に敬意は伝わります。
「言い換え」も選択肢に|柔らかく伝える表現の工夫
「使ってはいけない」と決めつけずに、相手や場面によって調整できる言い換えを知っておくことが、コミュニケーションの質を高める助けになります。
簡潔さを優先するなら?「ございますか」などの表現
「ございませんでしょうか」が冗長に感じられる最大の理由は、否定疑問形であることと、丁寧語の重なりです。これをシンプルに整理するだけで、印象は大きく変わります。
例
・「ご不明点はございませんでしょうか」→「ご不明点はありますか/ございますか」
・「お時間はございませんでしょうか」→「お時間はありますか/ございますか」
否定形で確認したい場合は、「ございませんでしょうか」ではなく、「ございませんか」で十分です。
例
・「お間違いはございませんか」
・「ご質問はございませんか」
このように、一段階だけ丁寧にすることで、過剰さを避けつつ敬意を保つことができます。
丁寧な印象を保つには?|クッション表現の活用
敬語表現を柔らかく丁寧に伝えるコツは、クッション言葉を使うことです。たとえば「お手数ですが」「恐れ入りますが」「ご確認いただければ幸いです」などの表現を組み合わせると、「ございますか」や「ありますか」といった簡潔な表現でも、礼儀正しく優しい印象を持たせられます。
こうした工夫は相手に対する思いやりを形にし、コミュニケーションを円滑にします。

「ございますか」などに置き換えると、すっきり上品な印象になる。
最後に
POINT
- 「ございませんでしょうか」は二重敬語ではないが、冗長で堅い印象になりやすい。
- 丁寧さを保ちながら自然にするなら「ございますか」や「ございませんか」が◎。
- 相手との関係性を踏まえ、距離を感じさせない言葉選びを意識しよう。
「ございませんでしょうか」は、文法的に完全な誤りとは言えませんが、冗長で違和感を覚える人も多い表現です。大切なのは、正しさよりも、相手にとって自然で、伝わりやすい言葉を選ぶこと。
丁寧さは敬意の表れですが、過剰になると距離を作ります。相手との関係性や場面に応じて、簡潔に、柔らかく、そして心を込めて。そんな言葉選びができるようになると、あなたのコミュニケーションはもっと豊かになります。
TOP・アイキャッチ・吹き出し画像/(c) Adobe Stock

執筆
武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
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