Q.夫より私のお給料が少ないのですが子供の親権は取れますか?親権が夫に行くのはどんな場合なのかも知りたいです!(介護士・37歳・6歳のママ)
A.「親権について夫婦間の協議が整わず家庭裁判所で手続を行う場合には、どういう環境で子供を育てるのがその子にとっていちばん望ましいか、という子の健全な養育、子の福祉の観点から多様な要素を考慮して裁判所が決定することとなります。
ところで、これは私の肌感覚ですが、家庭裁判所には今も『母子優先の原則』という、子が幼ければ幼いほど母のもとにいるべき,という価値観があるように思います。乳幼児では母優先であったのが、子供の年齢が上がるにつれて他の考慮要素の比重が上がるようになります。
ですので、親権については、お子さんがおいくつなのか、また、母親が育てたい場合は、働いている間に面倒をみてくれる監護補助者がそばにいるかどうか、など、様々な要素が総合的に考慮され、一概に収入だけで決まるものではありません。
例えばお母さんが今後働く予定はなく、養育費だけでやっていくつもりで育児の支援者もおらず、実は不貞相手と一緒になるためだけに離婚したいとか、子の養育監護に支障をきたす程の強度な精神疾患がある、などという場合には当然不利になってくるでしょう。
逆に夫にしっかりとした仕事と収入があり、夫の仕事中でも祖父や祖母が面倒をみてくれて、しかもその祖父祖母にお子さんが懐いている、といった事情があれば夫側が有利になることもあります。
父親であっても母親であっても、どれだけお子さんにとって望ましい監護養育のための環境整備が出来るか、というのが決め手となることを覚えておいてください。もちろん収入も判断材料のひとつにはなりますが、そのために児童手当などの社会的な支援が存在するわけで、そこだけで決まるわけではありません。
年齢的なことで申し上げますと、お子さんが16歳位以上であれば、どちらの親についていくべきかについて、お子さんの意思も非常に重要になってきます。逆にお子さんが小さければ小さいほど、お子さんの意思や希望だけで決まる事は少なくなります。これは小さな子どもだと親に迎合し、正しい意見を主張できない可能性もあると思われるからです。
また、きょうだいがいる場合の親権についても触れておきますと、基本的には子どもたちをバラバラに育てるのは望ましくないという考えがあります。ですが、お子さんの意思などによっては、この限りではありません。私が担当した案件でも、協議の上、きょうだい3人のうちふたりは母親が引き取り、1人の親権だけを父親が獲得した、というような例もあります。
ちなみに一緒に住んでお子さんの面倒をみるのは「監護権」というもので、夫婦によっては親権と監護権を夫と妻が別々に持つケースも稀にですが存在します。この場合は育てるのは母親だけれど進路などの最終決定権は父親が持つというような、少し複雑な状況となります。
なお、親権者でない親も、子どもに会う機会として面会交流が可能です。一般的には月に1、2回程度というケースが多いように思います。
ただ覚えておいて欲しいのは、誤解を恐れずに言えば、親権とは成人(或いは大学卒業)するまでの子どもに対し、何かを決定する権限が親のどちら側にあるかという点に過ぎないということ。
わずか数年間のその権利のためだけに両親が裁判で骨肉の争いをして家族の絆を壊すよりも、お子さんの心情を配慮して、家族にとっていちばん良い落としどころを決めていただくべきです。万が一にも親のエゴやプライドで子ども達に一生残るような心の傷を負わせる事ことにならないかどうかを、常に考えて頂くことが一番大切なことかと思います。子どもにとってはどちらも掛け替えのない、大切な母親と父親なのですから。
離婚裁判となると、夫婦でお互い意地になってギャフンと言わせることに必死になってしまうことも多々あるのですが、そんなことより重要なのは、別れたあとに自分とお子さんが幸せになることですよね。
長い人生の中で、離婚というのは実は一瞬、そのあとに続く人生の方が長いのです。そのために何をすべきなのか。その要求は本当に必要なものなのか。目の前の親権をどっちが取るかよりも、お子さんが気兼ねなく両親のもとを行き来できる環境を整えてあげることの方が大事ではないのか。―そういったことも、今一度よく考えてみてください」(中川先生)
●本連載では離婚に関する慰謝料や養育費など、法律的な悩みや疑問にプロの弁護士が直接回答します!ご相談ごとがあるかたは、domani2@shogakukan.co.jpまでメールでお寄せください。 件名に「離婚相談」と書いてなるべく具体的な内容をお送りください。すべてのご相談にお答えできるとは限りません。あらかじめご了承ください。
お悩みに回答してくれたのは・・・
中川裕一郎先生
弁護士。東京中川法律事務所経営。https://tokyo-nakagawa.com
商社勤務時代にバックパッカー旅行に飛び出し、世界中を回ってみつけた、弁護士となって社会的正義を守るという生涯の目標のため、紛争を未然に防止し、目の前の依頼者を笑顔にするために日々奮闘中。親身になってアドバイスをくれる人情派弁護士として、依頼者たちからの信頼も篤い。
インタビュー・文
さかいもゆる
出版社勤務を経て、フリーランスライターに転身。女性誌を中心に、海外セレブ情報からファッションまで幅広いジャンルを手掛ける。著書に「やせたければお尻を鍛えなさい」(講談社刊)。講談社mi-mollet「セレブ胸キュン通信」で連載中。Web Domaniの人気連載「バツイチわらしべ長者」で様々なバツイチたちの人生を紹介している。withオンラインの恋愛コラム「教えて!バツイチ先生」では、アラサーの婚活女子たちからの共感を得ている。