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2019.11.09

正解がわかるまでエンドレスに続く父の要求に、怒っては後悔【うちのダディは脳梗塞18】

カリスマモデルとして活躍した10代を経て、20代でデザイナーに転身した佐藤えつこさん。順調にキャリアを築き、「まだまだこれから!」という35歳のとき、父親が脳梗塞で倒れました。後遺症である高次脳機能障害から、すっかりワガママになってしまった父。在宅での仕事に切り替えて自宅介護を始めたものの、言葉が話せないなか繰り返される要求には苦戦したようで――。働く私たちにとっても、けして他人事ではありません。

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伝わらない思い

高次脳機能障害がもどかしいのは、とにかく意志疎通がうまくできないところ。さらにダディは全失語症なので、どんな状態で何を求めているのかさっぱりわからず、毎日が謎解きなんです。

たとえばリハビリ中にやる気がないダディに対し、いつものようにサボっているのかと思って強引に促したところ、実は風邪で熱があった…とか。寝ているときに「暑い」ということも言えないから、汗びっしょりになっていた…とか。

かと思えば、急に宙を指さしてワーワー何かを訴え始めたり、大声で異様に笑い始めたりするので、いよいよ大丈夫かな?と心配に(汗)。ダディには私たちには見えない何かが見えているのか、、、理由は不明のままです。

ダディの日常の要求は、キッチンの電気を消せとか、机の上で倒れている目薬を起こせとか、急を要さない些細なこと。でも、ダディは自分が伝えたいことをこちらが当てるまで、何度も何度も要望してくるんです。これがまた、仕事で忙しいときにかぎってわざとやってくる。。。

伝えたいことが理解できず困る私たち。
伝わらないことへのイライラで爆発するダディ。

そんなわけでケンカはしょっちゅう。「しつこい! 後にして」と怒ってもおかまいなしです。体は自由に動かないので、車いすで私をとうせんぼ…なんてイヤがらせ(!)までするようになって。不思議なことに、ふだん「目薬を立たせたい」といったやりたいことがあっても、自分で一切やろうとしないで人にやってもらうまで要求がしつこいのに、お怒りMAXのときやリハビリをサボろうとするときに限って、自ら行動するんですよね。。。

直してほしいことを何度言ってもやらないときは、「今こういったのわかるでしょ!」と声を荒げてしまうのですが、ダディはわからなくてポカンとしている。その顔を見て、余裕のない自分に罪悪感を抱く。…毎日がこの繰り返しでした。ダメだとわかっていても、やっぱり自分のリズムや体調によって抑えきれずに怒ってしまうんですね。

病気になってからというもの、ダディはすっかり〝かまってちゃん〟。優しい言い方で大事に扱われるとすごくうれしそうで、逆に、家族が忙しくて邪険になるとどんどん意固地に。そんなダディに対し、「なんでできないの?」「そんなことも覚えられないの?」と思ってしまっていました。

でも、あるとき、まだ動く左手で窓の外を指しながら、一生懸命「かけや~、かけや~」と言っていて。ありとあらゆる可能性の言葉をかけて正解を探したところ、ダディが伝えたかったのはまさかの「鳥がいる!」。「鳥がいてうれしいの?」と聞いてみると、「うんうん!」とすごく喜んだんです。

脳梗塞になる前のダディなら、絶対に言わないこと。そんな意味だったのか、と胸が熱くなりました。

「男親だ」という前提で見るから、娘である自分を困らせる姿に腹が立ってしまう。「ダディは子供なんだ」と考え方を変えると、なんとも愛しく見えてきたんですね。

コミュニケーションのコツは要求を真正面から受け止めすぎずに、適度に流してかわすこと。ヒートアップしてくると手が付けられないので、何か言ってきても「そうなんだね~」と穏やかに相槌を打っていると、ダディも「お、おぉ(伝わったのかな?)」みたいに落ち着いてくる。その隙に席を外していったん距離をとって、後から自分の余裕があるときにできることに対応するようにしています。

まだまだ怒って後悔してしまうこともありますが、今では、ダディのすっとぼけた表情やすがるような目が、切なくもかわいいと受け入れられるようになっている自分がいます。

イラスト/佐藤えつこ 構成/佐藤久美子

うちのダディは脳梗塞、バックナンバーはこちらから

佐藤えつこ
佐藤えつこ

1978年生まれ。14歳で、小学館『プチセブン』専属モデルに。「えっこ」のニックネームで多くのティーン読者から熱く支持される。『プチセブン』卒業後、『CanCam』モデルの傍らデザイン学校に通い、27歳でアクセサリー&小物ブランド「Clasky」を立ち上げ。現在もデザイナーとして活躍中。Twitterアカウントは@Kaigo_Diary

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