学校内でのコロナ感染を防ぐための改装に大忙し
徐々にロックダウン規制を緩和しているイギリスでは、6月から段階的に小学校の授業を再開しようとしています。しかしコロナの流行はまだ終わったわけではないので、校内感染を防ぐためにさまざまな対策を行わなくてはなりません。多くの学校から「6月再開校はムリ!」という声があがっています。
▲誰もいない学校の内部では、先生たちが必死に再開の準備中。
まず、手洗い。トイレの中にある手洗い所だけでは児童全員にひんぱんに手を洗わせることができないので、別に場所を作るための工事がどこの学校でも急いで行われています。いつもなら、講堂に長いテーブルを並べてわいわい食べる給食も、しばらくはソーシャル•ディスタンスを保って一人ずつ離れて座るスタイルに変わります。フォークやスプーンは各自名前をつけて、シェアしないように。校庭に出て遊べる人数にも制限を設け、室内と屋外をうまく使い分けて児童同士の濃厚接触をできるだけ避ける工夫に知恵を絞っています。
設備の対策だけではありません。どうやってスムーズに授業を行うかを考えるのも至難です。イギリスの学級定員数はひとクラス30人までと決められていますが、再開時は一学級を15名ずつ、グループAとBに分けます。グループAの登校日は月曜と火曜。水曜日は学校中を消毒するためお休み、木曜と金曜はグループBが来る日です。学校に来ない日は自宅学習をしてもらいます。先生たちも二つのグループに分けられ、1週間勤務したら翌週は自宅待機し、体調に異変がなければまた1週間務めるというスタイルになります。
▲平常時には子供達が歓声をあげて走り回っている校庭は模様替えの最中。
最初に学校に戻るのは、いちばん下とその上の二学年のみ。いちばん下の学年は「レセプション」と呼ばれます。イギリスの小学校は、5歳から始まります。日本の幼稚園年長組が小学校に組み込まれている感じです。レセプション学年では、遊びを通してコミニュケーションと学習能力をつけ、一年生への準備をすることが主な教育内容です。再開後、5歳児に、なるべくくっついて遊ばないようにさせること、先生が今までのようにハグしてあげられないことを納得してもらうのは大変でしょう。
高学年、とくに6年生あたりでは、2カ月もの休校による教育カリキュラムの遅れをどうやって取り戻すかが大問題です。公立校ではオンライン授業はあまり行われておらず、英国国営放送BBCのウェブサイトがロックダウンと同時に始めた動画授業を利用するよう、メールなどで指示している程度です。それに対して私立校ではしっかりオンライン授業を進めているところもあり、同じ年齢でも学力の差が開いてきています。 そしてイギリスにはマスク着用の習慣がありません。この状況下でも、マスク着用を推奨されるのは公共交通を利用する時くらいです。マスクもフェースシールドもなしでの勤務に不安を訴える先生や職員たちは少なくありません。
▲小学校の校門には今もまだ鍵がかかっている。
子供を学校に送って安全?ワーママたちの心は…
6月まであと数日に迫り、多くの学校は「とても準備が間に合わない、部分再開をせめて7月からにしてほしい」と悲鳴をあげています。 こうしたなりゆきを、はらはらしながら見守るワーママたちの気持ちも複雑です。 全国で5割以上の労働者がまだ自宅勤務を続けているとはいえ、家で子供たちに囲まれて仕事をするのは大変。自宅待機者が職場に戻っていくのを見ると焦りも募ります。
また、6年生の子を持つ親は勉強の遅れも心配です。 とはいえ、果たして今、学校に子供を送って安全なのだろうか…。年齢が若いほどかかりにくく、かかっても無症状か軽症ですむなどと言われる新型コロナですが、中には重症化したり特殊な免疫反応を起こしたりした例もあります。学校でウィルスをもらってきて家族を感染させる可能性も消えてはいません。
こうした不安から、子供は9月の新学期まで登校させないと決めている親もかなりいます。普段なら無断で学校を休むことは許されないのですが、非常時なのでその判断は親に任されました。学校側が一刻も早い再開に力を尽くしている中、ワーママたちの心の中では葛藤が続いています。
冨久岡ナヲ (フクオカナヲ)
ロンドン在住。ジャーナリスト、コーディネーター、イベント制作など、いくつもの業種をこなす。ふたつの国のいいところを伝えていきたい。