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2020.09.22

芦田愛菜「信じる」が中国人も称えるほど深い訳|年齢も国境も超え、天才子役から人格者に成長

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木村 隆志(コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)

先週、主演映画「星の子」の完成報告イベントで「信じる」ことについて聞かれた芦田愛菜さんのコメントが日本だけでなく、中国の人々からも反響を得ています。

中国版ツイッター・Weibo(微博・ウェイボー)の日本関連情報を紹介するアカウントが、イベントの動画を投稿。すると、「愛菜ちゃんの言葉に感銘を受けた」「どんな経験を積めばこんな発言ができるのか」「16歳で話すことか?」などの称賛が続出しました。


▲映画「星の子」の完成報告イベントで願い事を記した星のボードを手に笑顔を見せる芦田愛菜さん(撮影:菅 敏)

それを受けた『スッキリ』(日本テレビ系)でも特集を組んで芦田さんのコメントをフィーチャー。MCの加藤浩次さんだけでなく、教育学・コミュニケーション論が専門の齋藤孝さん、哲学者の小川仁志さん、日本文学研究者のロバート・キャンベルさんらが称えていました。

MCからコメンテーター、言語や哲学の専門家まで全員が「愛菜ちゃん」ではなく、「芦田さん」と敬意を表していたことからわかるように、その言語能力は本物。ここでは人間関係やコミュニケーションに関する2万組超のコンサルを行ってきた経験を踏まえて、年齢も国境も超えた芦田さんの言語能力を掘り下げていきます。

1分10秒に渡る丁寧なコメント

まずはイベントで芦田さんが「信じる」ことについて聞かれたときのコメント全文を挙げてみましょう。

「『その人のことを信じようと思います』っていう言葉ってけっこう使うと思うんですけど、『それがどういう意味なんだろう』って考えたときに、その人自身を信じているのではなくて、『自分が理想とする、その人の人物像みたいなものに期待してしまっていることなのかな』と感じて」

「だからこそ人は『裏切られた』とか、『期待していたのに』とか言うけれど、別にそれは、『その人が裏切った』とかいうわけではなくて、『その人の見えなかった部分が見えただけ』であって、その見えなかった部分が見えたときに『それもその人なんだ』と受け止められる、『揺るがない自分がいる』というのが『信じられることなのかな』って思ったんですけど」

「でも、その揺るがない自分の軸を持つのは凄く難しいじゃないですか。だからこそ人は『信じる』って口に出して、不安な自分がいるからこそ、成功した自分だったりとか、理想の人物像だったりにすがりたいんじゃないかと思いました」

芦田さんは1つの質問に対して、約1分10秒に渡る丁寧な受け答えを見せました。何度か「何だろう」と考えながら言葉をつむいでいたことから、あらかじめ準備したコメントではないでしょう。あくまで自分の言葉で語っている上に、聞く人のことを意識して、筋道立てた話し方をしていたことに驚かされます。

次にコメントの細部を見ていきましょう。

「『その人のことを信じようと思います』っていう言葉ってけっこう使うと思うんですけど、『それがどういう意味なんだろう』って考えたときに、その人自身を信じているのではなくて、『自分が理想とする、その人の人物像みたいなものに期待してしまっていることなのかな』と感じて」

「『それがどういう意味なんだろう』って考えたときに」というコメントには、言葉の意味を深く考えずに使う人がほとんどの中、芦田さんは常に1つ1つの言葉を考えた上で使っている様子がうかがえます。これは日々、仕事や学校などで勉強を重ね、本を読み続けた積み重ねによるものであり、だから芦田さんは、あらぬ誤解を招くような失言をすることはないのでしょう。

また、「その人自身を信じているのではなくて、『自分が理想とする、その人の人物像みたいなものに期待してしまっていることなのかな』」というコメントには、類いまれな客観性がにじみ出ています。

これも芦田さんが生まれながら持っているものではなく、「理想を抱き、誰かに期待した」という実体験で自ら得たものでしょう。「理想通り、期待以上」と喜んだ体験もあれば、「こんな人だと思わなかった」と失望した体験もあるなど、「日ごろ人と向き合って一喜一憂し続けてきたから、客観性を身につけられた」としか思えないのです。

「揺るがない自分」になる唯一の方法

「だからこそ人は『裏切られた』とか、『期待していたのに』とか言うけれど、別にそれは、『その人が裏切った』とかいうわけではなくて、『その人の見えなかった部分が見えただけ』であって、その見えなかった部分が見えたときに『それもその人なんだ』と受け止められる、『揺るがない自分がいる』というのが『信じられることなのかな』って思ったんですけど」

「『その人が裏切った』とかいうわけではなくて、『その人の見えなかった部分が見えただけ』」「その見えなかった部分が見えたときに『それもその人なんだ』と受け止められる」というコメントから感じるのは、圧倒的な優しさ。

今回のコメントを「まるで哲学者だ」と称える声が多かったのですが、芦田さんの本質は「自分の立場だけでなく、相手の立場からも見てみる」「自分を受け入れてもらうより、まずは相手を受け入れようとする」という優しさにあります。

実際、約1分10秒に渡るコメントは、終始「どう話したら聞いてくれる人がわかりやすいか」を考えながら話しているように見えました。哲学者には似た思考回路の人もいるでしょうが、芦田さんのように「目の前の人に対して優しさを見せられる」とは限らないのです。

人間が圧倒的な優しさを得るために必要なのは、日ごろから人や物事と向き合い、考え、悩み、努力するなど、試行錯誤を繰り返しながら生きること。芦田さんの「『揺るがない自分がいる』というのが『信じられることなのかな』」というコメントから、自分自身を受け入れようとしてきた様子が伝わってきますし、だから他人を受け入れる優しさを得られるのでしょう。

「語彙力」よりも優先させたもの

「でも、その揺るがない自分の軸を持つのは凄く難しいじゃないですか。だからこそ人は『信じる』って口に出して、不安な自分がいるからこそ、成功した自分だったりとか、理想の人物像だったりにすがりたいんじゃないかと思いました」

このコメントは人間全体を指しているだけでなく、芦田さん自身に言い聞かせているようにも見えました。当然ながら芦田さんも完璧な人間ではなく、「『自分も他人も信じようとしているのにできない』などと揺れてしまうときもあるのでは?」と感じさせたのです。

しかし、芦田さんは揺れるだけで終わらせず、向き合って考え続け、「私はこうありたい」という姿を追い求めているのでしょう。地道に知識と経験を積み上げ、努力の成果を実感することで、自分の理想像に近づいていく……これはビジネスパーソンにも通じる思考回路であり、「自分の理想像に近づくほど、どんな人や状況に対峙しても、まずは理解しようとする」という圧倒的な優しさにつながっていくものです。

また、今回のコメントを見た人々から、芦田さんの語彙力を称賛する声があがっていましたが、はたして本当にそうでしょうか。芦田さんの語彙力に疑いはないものの、ある意味それは「努力すれば大半の人が得られるもの」であって、彼女の本質ではありません。驚異の読書量で知られる芦田さんなら、もっと豊富な語彙力を生かしたコメントにすることもできたでしょう。

彼女はあえて語彙力を駆使せず、わかりやすい言葉を選ぶことに終始しました。芦田さんのコメントから、「持ち前の語彙力をどう使うか」ではなく、「どう言えばわかりやすいか」を第一に考えている様子がうかがえるのです。

おそらく日ごろから、「難しい言葉を聞かせて語彙力を見せつける」のではなく、「理解しやすいようにわかりやすい言葉を重ねていた」のではないでしょうか。やはり芦田さんは単なる勉強家でも、語彙力を誇示したい自信家でもなく、人を思う優しさがベースにある人なのです。

芦田さんは、まだ16歳の高校生であり、百戦錬磨の大人たちとは経験の差がありますが、そこは女優という職業柄でカバー。主にフィクションの世界で他人になり切ることが仕事の女優は、「もし自分や相手がこんな性格で、こんな状況に置かれたら……」などとイメージして、自分の価値観から離れることに長けているのです。

たとえば、「もし信じていたものが間違っていたら……」「もし最愛の人に裏切られたら……」などと本気で考える機会が次々に訪れるため、脳内に人間の多様性がインプットされていくのでしょう。

映画『星の子』は、「あやしげな宗教を信じる両親のもとで育った少女が、徐々に自分の置かれた世界に疑問を抱きはじめ、葛藤しながらも成長していく」という物語。芦田さんは、この少女のような難役を演じるたびに本気で向き合って考え、自分の中で消化することで、現在の人間性を養っていったのでしょう。

最後に、今回のイベントで1つだけ気になったのは、芦田さんがコメントしたあとのやり取り。芦田さんのコメントが終わったとき、予想以上の深さがあったからか、現場が静まり返りました。そんな空気を察した大森立嗣監督が「難しいよ……」と笑いを誘うようなツッコミを入れ、芦田さんは微笑みながら「(熱弁してシーンとさせてしまい)すいません」と謝ったのです。

さらに、司会者から話を振られた共演の永瀬正敏さんが、「(芦田さんは)しっかりしてるでしょ。『これ以上の答えはないんじゃないか』ってくらい」と笑いを交えつつ称えていました。

人間性が豊かになるほど訪れる孤独

このやり取りを「大人たちが笑いを誘う言葉でフォローした」とみるか。それとも、「芦田さんのコメントについていこうとした大人がいなかった」とみるか。イベントとしては前者の対応で間違っていないのでしょうが、後者の感があったことも否めず、芦田さんの孤独を感じてしまったのです。

事実、日ごろコンサルをしていると、「人間性が豊かな人ほど、その片鱗を見せると周囲の人々が戸惑い、結果的に孤立してしまう」というケースは少なくありません。これは芦田さんのような、考え続け、成長し続ける人の宿命とも言える現象であるものの、本人にとっては寂しさを感じるものです。「人間性が豊かになり、成長を重ねた結果、周囲との話が噛み合いづらくなり、孤独を感じてしまう」という点では、企業のトップに近い感覚と言えるでしょう。

年を追うごとに人間性が豊かになり、成長を重ねていく芦田さんにとって、「信じることとは?」という質問は決して難しいものではなかったはずです。しかし、あれだけ丁寧に話しながらも、周囲とのギャップが明らかになってしまいました。だからこそ芦田さんに、よき理解者や手本となる人がいることを願ってやみません。

コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

木村 隆志(きむら たかし)

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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