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2021.07.16

今、飲みたい1本は、父なる太陽と母なる大地から育まれたジョージアワイン

この数年、世界的に注目されているジョージアワインは、紀元前6000年からワイン造りを始めた、まさにワイン発祥の地。素焼きの壺クヴェヴリでの仕込みやオレンジワインでも有名です。そのジョージアワイン隆盛のきっかけを作った、ひとりのワイン生産者の物語。

Text:
鳥海 美奈子
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8000年前にワイン造りが始まった発祥の地

ワイン発祥の地。そうも言われるジョージアのワイン造りの起源は、8000年前にまで遡ることができます。

いま、世界から注目を集めている、ジョージアワインの造りの象徴ともいえるのが、素焼きの壺でワインを発酵、熟成させるクヴェヴリ製法です。

▲ 素焼きの壺クヴェヴリ。内側には蜜蝋を塗り、ワインが漏れるのを防ぐ。

秋、収穫したぶどうを土のなかに埋まったクヴェヴリの中に入れます。そしてアルコール発酵している1か月ほどのあいだは、浮いてくる果皮などを棒で沈める作業をします。それが終わると、重い蓋をして密閉。そのままワインになるのを待つのです。

もちろん、発酵はすべて野生酵母の力によりおこなわれます。この世界最古のワイン醸造法は、2013年にはユネスコ世界無形文化遺産にも登録されたほど。そんなジョージアワインを代表する生産者が、フェザンツティアーズの当主ジョン・ワーデマンです。

ワインを知らなければ、文化は語れない

ジョンは実は、アメリカ出身。ヒッピーで菜食主義の両親のもと育った彼は、早くから絵を描く才能を開花し、やがてモスクワで美術を学びました。

具象画のその絵は、ソ連在住の頃は高く評価されていたといいます。ジョージアのポリフォニーという多声合唱に魅せられたジョンは、ジョージア各地を旅して、まもなくシグナギという街に辿り着きます。ここはコーカサス山脈の標高800mに位置する、まさに天空の町。その絶景に惹かれて彼は1998年に移住、結婚して子供にも恵まれたのです。

▲ 2019年には他の生産者とともに来日したジョン。日本贔屓で「日本人のやさしさ、静けさが好き」と話す。

それは、ジョージア移住から7年経った、ある夏の日のこと。ジョンがぶどう畑で絵を描いていると、地元のワイン農家の人が突然、こう言いました。「私たちは話しあう必要がある。あなたがぶどう畑の絵を描くなら、私のようにぶどう畑に夢中にならなければね」

そのワイン農家の人と夕食などをともにするなかで、彼はやはりワインを知らなければ、ポリフォニーなどのジョージアの伝統文化は語れないと実感して、ワインを造りへと踏み出したのです。

実はその頃、ジョージアでは、かつてどの家庭でもおこなわれていた古式のワイン造りクヴェヴリ製法が、廃れつつありました。カスピ海と黒海に面するジョージアは、ヨーロッパとアジアの交差点と称されるだけあり、歴史的に他民族の侵攻や支配に蹂躙されてきた地。とりわけ旧ソ連の占領下では、ワインは大量生産を求められて、手間のかかるクヴェヴリ製法をする人は、すでにほんのひと握りになっていたのです。

いま、この製法をきちんと次代に伝えていかなければ手遅れになってしまう。そんな使命感を抱いてのワイン造りでもありました。ジョンは、クヴェヴリ製法についてこう語ります。

「父なる太陽と、母なる大地のあいだに産まれた神聖な子供が、ぶどうです。母なる大地に埋められているクヴェヴリは子宮のような形をしていて、そこに子供であるぶどうを入れます。そう、ワインはお母さんのお腹から生まれるのです」

▲ (画像左) 土製のグヴェヴリを大地のなかに埋め込む。地中は一定の温度を保てるのでワイン醸造には最適。(画像右) アルコール発酵中は定期的に棒を入れて果皮などを湿らす。

ジョージアワインを世界に広めた人格者

ジョンは決してワインが「できる」とは語らず、いつもワインが「生まれる」と表現します。そしてジョージア固有のぶどう品種もまた、次代に受け継がなければならないもののひとつ。ジョージアには約520種ものぶどう品種がありますが、彼は417種ものぶどうを栽培しているのです。

さらにはジョージアワインの魅力を伝えるため自分と友人たちのワインを携えて、出身地のアメリカなどでプロモーションを行いました。それが有名ワインジャーナリストたちの目に留まり、ジョージアワインはその存在を広く知られるようになったのです。

多くのジョージアの人は海外に旅した経験がなく、それゆえ自分たちのワインの美点にすら気づいていませんでした。いま、日本を始めとする世界でジョージアワインが評価されているその理由の一端は、誰もが「人格者」と語るジョンの功績である、そういっても決して過言ではないでしょう。

▲ ぶどう畑は有機栽培。2019年末に公開されたドキュメンタリー映画「ジョージア、ワインが生まれたところ」でワイナリーが紹介されている。

オレンジワインを生んだ国

ジョージアでアンバーワイン、一般にオレンジワインといわれるものも、ここジョージアが発祥です。フェザンツティアーズの「ゴルリ ムツヴァネ」も、そのひとつ。

▲ 「ゴルリ・ムツヴァネ」というジョージア固有のぶどう品種100%で造られたワイン。ムツバネとは「緑」を意味する。

白ワインは普通であれば、ぶどうを絞ったジュースだけを使って造ります。でも白ワイン用のぶどうの果肉や果皮、種や果梗と一緒にクヴェヴリのなかで仕込むという赤ワインと同じ醸造法により造られたのが、オレンジワインなのです。

「ゴルリ ムツヴァネ」もグラスに注ぐと、まさにオレンジ系の色あい。果皮や種からの成分が抽出されているゆえ、です。

香りにもオレンジやアプリコットなどの果実の要素があり、ナッツや茶葉、そしてスパイシーなニュアンスも漂います。飲むと熟した果実や蜂蜜を思わせる味わいで厚みがあり、さらには渋みも感じられます。けれど決して重くなく、きれいな抜けがあり、時間とともに後味には塩味も顔を出して、まるでじわりと涎が出てくるかのよう。複雑な味わいながら、素直に美味しいと思える1本なのです。

「世界のベストレストラン50」で、4年間にわたり第1位に選ばれたデンマーク・コペンハーゲンのレストラン「ノーマ」にオンリストされて以降、フェザンツティアーズのワインは人々から高く評価されました。

でも、きっとそれ以上に私たちが大事に、目を凝らして見つめなければいけないのは、グヴェヴリ製法で造られたワインが、ジョージアの人々にとっては生命や自らのアイデンティティそのものである、ということ。ワインを造るうえで技術的テクニックを駆使し、名声を得ることに奔走する一部の現代のワイン醸造家とは対極の姿が、そこには屹立しています。

ワインとは、果たしてなにか。その命題を、ジョージアワインは多くの人に突きつけているともいえるでしょう。大地のエネルギーをたっぷりと蓄えたジョージアワイン、その魅力をぜひ味わってくださいね。

▲ ワイナリー名「フェザンツティアーズ」は、キジの涙という意味。「美味しいワインを飲んだときに、キジが涙する」というにジョージアの言い伝えに由来する。

PHEASANT’S TEARS フェザンツティアーズ「ゴルリ ムツヴァネ2019」
¥3,740 (税込・参考小売価格)
問 ノンナ・アンド・シディ 070・1276・8522

ワインが買える店:
Nonna & Sidhi Shop
東京都大田区上池台4-25-20
070 ・1276・ 8522
営 11時~19時 休日曜、祝日

秋庭商店
東京都大田区南久が原2-8-4
03・3750・3177
営 13時~21時 (土曜、日曜は12時~) 休月曜、木曜

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ライター

鳥海 美奈子

共著にガン終末期の夫婦の形を描いた『去り逝くひとへの最期の手紙』(集英社)。2004年からフランス・ブルゴーニュ地方やパリに滞在、ワイン記事を執筆。著書にフランス料理とワインのマリアージュを題材にした『フランス郷土料理の発想と組み立て』(誠文堂新光社)がある。雑誌『サライ』(小学館)のWEBで「日本ワイン生産者の肖像」連載中。ワインホームパーティも大好き。

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