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2021.11.10

今、飲みたい1本は、日本の風土を謳う北海道・余市のワイン

この時期、日本でも各地でぶどうの収穫が行われています。冷涼な気候の北海道は今、もっとも注目される産地のひとつ。そのトップ生産者のひとりであるドメーヌ・タカヒコの収穫体験をしてきました。日本ワインへの誇りを持つ生産者の姿とともに、レポートします!

Text:
鳥海 美奈子
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ドメーヌ・タカヒコの収穫体験

ワインの生産者たちにとって、ぶどうの収穫は文字どおり、ひとつの果実です。4月頃から始まった畑の仕事の成果を、そこで得ることができるからです。

けれど同時に、それは1年のうちでもっとも多忙、かつ緊張に満ちた時期でもあります。摘んだぶどうがワイナリーに届けばただちに醸造に入り、体力的にも精神的にも、大変な労力を伴うからです。

▲ ビオ栽培で育てられ、収穫を待つピノ・ノワールのぶどう。

10月中旬、そんなふどうの収穫まっただなかの北海道・余市のドメーヌ・タカヒコを訪れてきました。

現在の日本ワイン界において、まぎれもなくトップ・ドメーヌのひとつであることは、誰もが認める事実でしょう。

曽我貴彦さんのドメーヌ・タカヒコでは毎年、収穫時にボランティアを募集します。1日30~35人で期間は10日ほどですが、募集をかけたその日の夕方にはもう埋まってしまうほどの人気ぶり。毎年、必ず収穫に来る人も少ないのです。

▲ 収穫ボランティアにプチ・ワイン講座をする曽我貴彦さん。

貴腐菌のついたぶどうもすべてワインに

朝9時。ワイナリーに、ボランティアの人たちが集合します。ここでまず振舞われるのは「ナナ・ツ・モリ ブラン・ド・ノワール」。ボトリティス・シネレアという貴腐菌(灰色カビ)がついたピノ・ノワールの粒だけを選りわけて、醸造したワインです。

赤ワインのピノ・ノワールを醸造するときは、一般的にこの貴腐菌がついて灰紫色になったぶどうは、捨ててしまいます。でも、白ぶどうの場合は貴腐菌のぶどうも一緒に仕込んで白ワインにしたり、甘口の高価な貴腐ワインを造ったりします。

▲ 赤ワイン用のぶどう(左)と貴腐のついたブラン・ド・ノワール用のぶどう(右)。

貴彦さんは、「灰カビのついたぶどうを捨てるのは残念だとずっと思っていました。でもピノ・ノワールも、別の仕込み方をすればワインにできると気づいたのです。なによりぶどうすべてを生かせることに大きな喜びがあります」と、語ります。

黄金を湛えたその色合い。飲むと、蜂蜜など甘さを連想させる香りやスパイシーな要素もありますが、後味はドライにまとまっています。朝の甘美な一杯にうっとりしつつ、今日1日のスケジュールを聞いたら、いざ収穫へ。

敬意を持ちながら、ぶどうを摘む

区画によりぶどうの状態は異なりますが、この日摘むのは、貴腐菌の割合の多い畑です。

▲ 北海道の大地のなか誰もが丁寧に、真摯に、ぶどうを摘む姿が印象的。

ひとつのぶどうの房のなかにも、紫灰色の粒と、赤ワインの原料となる黒紫色の粒が混在しているので、それを収穫バサミなどで丁寧にわけて、それぞれのカゴのなかに入れていきます。とても時間と手間のかかる作業ですが、誰もがぶどうを摘むことに集中しています。

ボランティアの人たちの誰もが、ドメーヌ・タカヒコのワインに敬意を抱いていることが、その真摯な姿から伝わってきます。

▲ 貴腐のついたぶどうの粒を収穫バサミで選り分ける作業。

秋の晴天の1日。北海道の大地を渡る風、静寂のぶどう畑に響く野鳥の声、人々の心意気、そのすべてがとても心地いい。

そして作業を始めてしばらく経った10時30分頃、休憩が入ります。お茶やお菓子をつまみながら、貴彦さんによるぶどう栽培の解説が始まります。ぶどうの木のクローンによる違いなど専門的な話も多く、まさに生きたワインスクールといった趣。

お昼はすぐ近くにあるガストロノミックなイタリアンレストラン「余市Sagra」へ。ぶどうの収穫期限定の特別ランチボックスとともに、ドメーヌ・タカヒコの今秋限定ワイン、町内限定ワインなども有料で楽しめてしまう、またとない機会なのです。

▲ 「余市Sagra」でランチに試飲可能だったワインたち。

▲ お昼に試飲できたワインリスト。収穫隊ならではの特権。

午後も再び収穫したあと、最後はカーヴで赤ワイン「ナナ・ツ・モリ ピノ・ノワール」をテイスティングしながら、貴彦さんが醸造について説明してくれます。この銘柄は、世界一と名高いコペンハーゲンのレストラン『noma』のワインリストに採用されたことでも大変に話題になりました。

シンプルな究極の醸造法で世界も認める味に

ドメーヌ・タカヒコでは、赤ワイン用のぶどうは果梗や茎ごとそのまま発酵槽に入れます。そして基本的にはほとんどなにもせず、自然酵母により発酵が始まり、終わるのを待つだけなのです。

極めてシンプルな方法ですが、それは「自分だけのテクニックにしたくない。余市のぶどう栽培農家の人たちが”自分もワインを造りたい”と望んだ時に、誰もができる方法を採用したかった」からだといいます。

しかしそれはシンプルなだけに、逆説的にいえば、究極の醸造法ということができるでしょう。貴彦さんが志向するのは、日本ならではの風土を生かした、ピノ・ノワール。

「稠密な味わいのブルゴーニュとか、パワフルなカリフォルニアとか、他国のピノ・ノワールを真似ても意味がない。僕が造りたいのは日本人の味覚にあう繊細で、きれいな和出汁を思わせる旨みのある、余韻がいつまでも続くワインです」

収穫ボランティアでは、そんな貴彦さんのワイン造りの思想をたっぷりと聞けて、そのうえワインのテイスティング付きと、とても貴重な時間を過ごせます。

「ぶどを摘み、カーヴを見学し、テイスティングもして、1日をワイナリーで過ごしてもらう。そういう体験型にすれば、多くの方にとって良い時間になるのではと考えました」と、そう貴彦さんは語ります。

▲ 自らもぶどうを摘む、日本ワインを牽引する存在である貴彦さん。

今年は暑く、果実の旨みに溢れたヴィンテージになりそうです。そのリリースの日まで、楽しみに待ちたいと思います。

ドメーヌ・タカヒコのワインは入手困難ですが、日本ワインに力を入れている都内のレストランや北海道の「余市Sagra」などで飲むことができます。機会があればぜひ、日本のアイデンティティを宿したその味わいを、堪能してみてください。

▲ 左から「ナナ・ツ・モリ ブラン・ド・ノワール」、「ナナ・ツ・モリ ピノ・ノワール」、「ヨイチノボリ パストゥグラン アイハラ」

Domaine Takahiko ドメーヌ・タカヒコ 
「ナナ・ツ・モリ ピノ・ノワール 2019」¥3,850
「ナナ・ツ・モリ ブラン・ド・ノワール MV」¥4,100
「ヨイチノボリ パストゥグラン アイハラ 2019」¥3,500
(価格はすべて税込)

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ライター

鳥海 美奈子

共著にガン終末期の夫婦の形を描いた『去り逝くひとへの最期の手紙』(集英社)。2004年からフランス・ブルゴーニュ地方やパリに滞在、ワイン記事を執筆。著書にフランス料理とワインのマリアージュを題材にした『フランス郷土料理の発想と組み立て』(誠文堂新光社)がある。雑誌『サライ』(小学館)のWEBで「日本ワイン生産者の肖像」連載中。ワインホームパーティも大好き。

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