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女性の社会進出が盛んなフランス
女性の生き方はいま、とても多様になりました。けれど多様になったがゆえに、悩みに突きあたる機会が増えたのもまた事実でしょう。女性の社会進出が盛んなフランスでは、女性たちが働くのは当然だと、誰もがそう考えています。事実、フランスでは職についていない女性を見つけるのが、逆に難しいほどなのです。
それは女性が働き、結婚し、いえ、たとえシングルマザーであったとしても子供を産み、育てる社会的保障や社会的理解が整っているから。
そんな現在のフランスでは、女性のワイン生産者の数も増えつつあります。ぶどう栽培やカーヴでの醸造はまぎれもなく重労働ですが、それでも彼女たちは日々畑に立ち続け、カーヴでは樽を動かすなどの力仕事にも携わっています。
父の跡を継ぎ、ワイン造りの道へ
そんな女性生産者のなかでもひときわ光を放つ存在が、ブルゴーニュ地方のドメーヌ・アンリ・ノーダン-フェランの当主クレール・ノーダンでしょう。
▲ 飾り気ない姿に、精神性がにじみ出て美しいクレール・ノーダン。
彼女は3人の男の子の母であり、同じくブルゴーニュの超有名生産者ジャン・イヴ・ビゾの妻であり、そして自らワイナリーを率いる存在でもあります。
どうしたら、それほどパワフルに生きかられるのか。彼女の暮らしを見ると、そう思わずため息が出るほど。ときにダイナミック、ときにやんちゃ、ときに繊細、ときに母性を漂わせる。そんな多様な内面性を持つ、とても知的で魅力的な女性なのです。
そしてなにより、彼女自身が造るワインが素晴らしい。1850年代から続くワイナリーを、クレールが父から引き継いだのは1994年。ワイン造りをするうえで、師となったのは夫ジャン・イヴでした。ブルゴーニュでいち早く農薬や除草剤を使わない自然農法を取り入れ、20世紀初頭の農業本を独自に読み解いては、最良のぶどう栽培とワイン醸造を模索してきたジャン・イヴ。彼の生み出すドメーヌ・ビゾのワインは、いまや世界の愛好家の垂涎の的です。
▲ コロナ以前、夫ジャン・イヴと来日し、プロモーションを行った。
▲ ブルゴーニュのぶどう畑。今年は9月中旬に収穫した。
同じく生産者の夫とともにワインの改革に挑む
その夫を敬愛とともに「私のコーチ」と呼び、クレールは自らの仕事を革新し続けてきました。現在は、その努力と挑戦が美しく結実したワインを、私たちは飲むことができます。
そのひとつが、「ブルゴーニュ オート・コート・ド・ボーヌ オルキス ルージュ」。
▲ ワインの銘柄名「オルキス」とはぶどう畑に咲く野草の名前。
口に含むと、バラやフランボワーズ、スモモや梅といった香りが口中いっぱいに広がります。旨みの要素もふんだんで、果実と酸のバランスよく、滋味深さも感じられます。
彼女が持つぶどう畑の多くは、ブルゴーニュのいわゆる銘醸地といわれる場所ではありません。けれど、そのワインの傑出した品質と味わいは”ワインの常識とはなにか”を問いかけ、揺さぶる力を持っています。もしブラインドでこのワインを飲めば、きっと多くの人が特級クラスの格付けの高級赤ワインと間違えることでしょう。
この時期なら、さっと炒めたキノコソテーともに。キノコの風味と旨みがワインと口のなかで混じりあうと、いちだんと複雑さが増して絶品。もちろん鶏などの肉料理とも抜群の相性です。
▲ クレールの母の出身地はノルマンディ。クリームを使った料理と自らのワインをよく合わせる。
▲ キノコをさっとシンプルにソテーして、秋の夜長にワインと楽しむ。
秋の夜長、ブルゴーニュのかの地で果敢に日々を過ごすひとりの女性のワインを飲むと、自分また精神的に自由に、しかし大事な人には愛情深く生きる女性でありたいと、そんなことを願ってしまうのです。
Domaine Henri Naudin-Ferrand ドメーヌ アンリ・ノーダン-フェラン『ブルゴーニュオート・コート・ド・ボーヌ オルキス ルージュ2017』 ¥7,260 (税込・参考小売価格)
問 木下インターナショナル 075・681・0721
輸入元直販サイトから購入可能
ライター
鳥海 美奈子
共著にガン終末期の夫婦の形を描いた『去り逝くひとへの最期の手紙』(集英社)。2004年からフランス・ブルゴーニュ地方やパリに滞在、ワイン記事を執筆。著書にフランス料理とワインのマリアージュを題材にした『フランス郷土料理の発想と組み立て』(誠文堂新光社)がある。雑誌『サライ』(小学館)のWEBで「日本ワイン生産者の肖像」連載中。ワインホームパーティも大好き。