日本の美を象徴する鳥「鴇」
漢字では少し難しい「鴇」ですが、実は日本文化に根付いた美しい鳥の名前を表す漢字です。かつては日本の田園や湿地でその姿が見られ、その淡い桃色の羽から「鴇色」とも呼ばれる伝統的な色が生まれました。今では絶滅危惧種として保護されていますが、この鳥が持つ日本ならではの美しさと、その色彩には、私たちの心を引きつける魅力が詰まっています。
本記事では「鴇」の生態や歴史、そして保護活動の取り組みについて深く掘り下げていきます。
「鴇」とはペリカン目トキ科の鳥のことを指す言葉
動物の名前は、普段はカタカナや平仮名で書かれていることが多い傾向にあります。そのため、漢字を読めずに戸惑ったことがある人は少なくないでしょう。「鴇」もその1つです。誰でもきっと一度は聞いたことがあるはずの、あの鳥の名前です。さて、なんと読むでしょうか?
正解は……【とき】でした!
【鴇/朱鷺/鵇/桃花鳥:とき】
ペリカン目トキ科の鳥。全長77センチくらいで、淡紅色を帯びた白色。顔と脚が赤く、頭に冠羽があり、くちばしは黒く、下方に曲がる。水田や湿地でタニシ・ドジョウ・サワガニなどを捕食。巣は高い木の上に作る。東アジアに分布するが絶滅が危惧されている。特別天然記念物。国際保護鳥。学名、ニッポニア・ニッポン。トキ科にはクロトキ・ショウジョウトキなども含まれる。《季 秋》
〔補説〕「鵇」は国字。日本では明治中ごろまで各地に生息したが、急激に数が減少し、昭和56年(1981)最後の5羽が捕獲・保護されたことで野生絶滅。最後の個体は平成15年(2003)死亡。佐渡島では中国産の個体で人工繁殖を行っており、平成20年(2008)より成体の放鳥開始、その後は自然繁殖もみられるようになった。これを受けて平成31年(2019)に環境省はレッドリストを改訂、トキは「野生絶滅」から「絶滅危惧ⅠA類」に変更された。
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
「鴇」はペリカン目トキ科の鳥で、日本の美しい自然と共に歩んできた象徴的な鳥です。全長約77センチ、淡紅色の羽、赤い顔と脚、黒いくちばしと冠羽が特徴で、特に飛翔時に広がる「鴇色」は息をのむ美しさ。水田や湿地で暮らし、サワガニやドジョウなどを主食としています。学名「ニッポニア・ニッポン」もまた、日本の象徴的存在であることを示しています。
「鴇」は一時期絶滅も危惧された鳥
鴇はかつて日本各地で普通に見られる鳥でしたが、明治以降、乱獲や環境変化の影響で急激に数を減らしました。1981年には野生絶滅状態となり、守られなければ二度と自然に戻れない状況に…。現在、佐渡島での保護活動を通じて、少しずつその数を回復しています。2008年からは人工繁殖した鴇の放鳥が始まり、現在は自然繁殖も進展しています。
このことを受けて、環境省は2019年にレッドリストを改訂。鴇は「野生絶滅」から「絶滅危惧ⅠA類」に変更されました。
「鴇」の多様な表記と読み方
「鴇」には「朱鷺」「桃花鳥」「鵇」など複数の表記があり、長い歴史の中で日本人に親しまれてきたことが伺えます。また、「鴇」には「のがん」「つき」などの異なる読み方も存在し、それぞれ別の鳥種や異名として使われます。
「のがん」は「鴇」とは別の、ツル目ノガン科の鳥を意味する言葉です。また、「つき」という読み方もあり、こちらは「鴇」の古名です。以下では、「鴇」の「とき」以外の読み方である、「のがん」について、解説します。
「のがん」はツル目ノガン科の鳥のこと
「鴇(のがん)」は「野雁」とも表記し、ツル目ノガン科の鳥の名前で、「鴇(とき)」とは全く別の鳥を指します。全長約1メートルの大きく太った鳥で、太くて短いくちばしを持ちます。赤みを帯びた褐色の背中には黒っぽいまだらがあり、首と顔、お腹は薄いグレーがかった白色です。
オスはあごの両側にひげのような羽毛が生えており、6歳くらいまで毎年伸びていきます。シベリアや中国、朝鮮などの広い平原や農耕地に生息し、冬になるとごくまれに日本に渡来してくることがあります。
【野雁/鴇:のがん】
ツル目ノガン科の鳥。全長約1メートル。首は灰色、背は黒斑のある黄褐色、腹は白い。繁殖期の雄は、のどの両側にひげのような飾り羽がある。ユーラシア大陸に分布。
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
「鴇」を含む言葉
「鴇」を含む言葉は、「鴇色」や「黒鴇」などいくつか存在します。いずれも「鴇」に関係する言葉です。「鴇色」は「鴇」の羽の内側の色のような、薄桃色を指します。紅花で染色された色とされ、今でも人気があります。「黒鴇」は脚とくちばしのほか、胸から上が黒色の、鴇とは異なる種の鳥の名前です。
ここからは、鴇を含む言葉である「鴇色」、「黒鴇」について解説していきます。