「嚆矢」とは物事の始まりを表す言葉
何やら難しそうな言葉である「嚆矢」。ビジネス会話においてはしばしば使われますが、日常の会話に出てくることはまずないでしょう。いったい、どのように読むのでしょうか。
それでは、ヒントです。「嚆」の意味は「叫ぶこと、矢が鳴ること」。音読みでは「コウ」、訓読みでは「さけぶ」です。そして、「矢」はそのまま「や」とは読まず、音読みで「シ」と読みます。二文字とも音読みをすると……?
正解は、【こうし】でした!
【嚆矢:こうし】
1 《「嚆」は叫び呼ぶ意》かぶら矢。
2 《昔、中国で戦いを始めるとき、敵陣に向かって1を射たところから》物事のはじまり。最初。「二葉亭の『浮雲』をもって日本近代小説の―とする」
「嚆矢」とは、物事の始まりをあらわす言葉です。鏑矢(かぶらや)の意味があり、開戦の際に敵に向かって矢を射たことから、「はじまり」のたとえとして使われるようになりました。
さっそく、たくさんある「嚆矢」の類語を紹介します。
【類語】
始め、最初、第一、一次、原初、手始め、事始め、まず、優先、一番、真っ先、初発、先頭、いの一番、トップ、始まり、起こり、元、発端、端緒、濫觴、権輿、起源、根源、源、源流、本元、物種、温床、源泉、糸口、緒、端、とば口、取っ掛かり、手掛かり、足掛かり、道を付ける
「嚆矢(こうし)」は矢の一種である「鏑矢(かぶらや)」のこと
「嚆矢」には、矢の一種である鏑矢の意味があります。鏑矢は放たれると「ヒュッ」という大きな音が鳴ります。そのため、開戦の合図として使われていました。
鏑矢は、矢じりの根元に植物の蕪(かぶら)の形に似たパーツが取りつけられています。蕪とは、よく知られる野菜の「かぶ」の別名。かぶに似たパーツの中は空洞で表面には穴があいており、音が鳴る構造になっていました。
「嚆矢(こうし)」と「鏑矢(かぶらや)」との違い
「嚆矢」には、開戦合図に使われた「鏑矢」の意味がありますが、二つの言葉はまったく同じ意味というわけではありません。それぞれの意味を理解しておきましょう。
わかりやすくいうと「鏑矢」には、「嚆矢」がもつ「物事のはじまり」という意味はありません。「鏑矢」はあくまでも音が鳴る矢を意味するにとどまります。一方で「嚆矢」は「鏑矢」の意味だけでなく、「鏑矢」から転じた物事の始まりという意味をあらわすのです。
始まりの意味の由来は荘子
「嚆矢」を物事の始まりという意味で最初に使ったのは、中国戦国時代の思想家である、荘子といわれています。
荘子は、「人々が尊ぶ聖人や賢人こそが、悪に利用されることで悪人の嚆矢(はじまり)になる。小手先の知恵や美徳をなくすことで、人が本来もつ偽りや虚構のない心に戻る。そうすればこの世から悪人はいなくなるだろう」と説きました。この言葉が「嚆矢」が始まりの意味をもつようになった由来とされているのです。
「嚆矢」の正しい使い方
一般的に「嚆矢」は、これまでにはなかった画期的な物事の始まりのたとえとして使われます。
物事の始まりといっても、自然に始まったことについて使うのは適切とはいえません。それまでの世界を覆すような世紀の大発明、あるいは大発見によって始まった物事をイメージすると、わかりやすいかもしれません。
そのほか、個人的な事項についての始まりにも使います。これらのポイントを踏まえて、「嚆矢」を使った例文を見てみましょう。
嚆矢を使った例文4つ
嚆矢は「嚆矢として」「嚆矢から」というように使います。
【例文】
・A社は、医療分野におけるAI活用の研究の【嚆矢】として知られている。
・このプロジェクトは、新技術の【嚆矢】となることを期待されている。
・【嚆矢】から関わっていた事業だけに、並々ならぬ思い入れがある。
・部長には、入社した【嚆矢】の頃からお世話になっている。
「嚆矢」の関連語
嚆矢には次のような関連語があります。
1.類語「先駆け」「発端」
2.対義語「終焉」「終局」
3.四字熟語「嚆矢濫觴」
「嚆矢」は日常的に使われる言葉ではありません。そのため、状況によってはより伝わりやすい表現に言い換える必要もあるでしょう。また、反対の意味の言葉を知ることで、嚆矢についての理解をいっそう深めることができます。ここからは「嚆矢」の関連語として、類語、対義語、四字熟語を紹介します。