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2022.04.16

【品川女子学院理事長にインタビュー】単純なのに難しい? まっさきに子供に身につけさせたい正しいしつけ

ある4つのしつけをした家族としていない家族とでは年収に86万円の差が⁉︎ 今回も品川女子学院中等・高等学校で理事長をされている漆紫穂子先生に子供が伸びる教育方法についてお話を伺います。

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今すぐ実践したい働くママの上手な声かけとは

前回は、品川女子学院中等部・高等部で理事をされている漆紫穂子先生に、なぜお子さんに勉強をさせるのか、世界的に変わりつつある教育のあり方について伺いました。また、日本でも増えはじめている女性リーダーが学歴主義ではないことも教えていただきましたが、今回は、共働き家族の教育方法やこれから子供達が大人になったときに求められる能力や人物像についてお話をうかがいます。

◆ 当たり前のことを身につけるだけで年収に86万円の差が⁉︎ 

これから、社会に出たときに、必要とされるのはどのような資質を持った人でしょうか?

漆先生:皆さんはどのような人と一緒に仕事をしたいと思いますか? 記憶力がある人でしょうか? 少なくとも受験勉強を頑張ってきた人は我慢強く、人に言われたことをちゃんとでき、記憶力があることは保証されていますね。でもそれだけでしょうか?

独立行政法人経済産業研究所の「基本的モラルと社会的成功」の調査では、4つの基本的なしつけが労働市場における評価にどのような影響を与えているかを検証しています。基本的なしつけというのは次の4つです。

(1)嘘をついてはいけない
(2)他人に親切にする
(3)ルールを守る
(4)勉強をする

参考/独立行政法人経済産業研究所「基本的モラルと社会的成功

このしつけをすべてしていた家庭とひとつもしていなかった家庭とでは子供が社会人になったとき、年収に86万円の差が出るのだということです。これは、経済分野の調査ですが、言葉を換えると、基本的な習慣が身についている人は社会に出たとき信頼され仕事を任されていると言えるのではないでしょうか。自立した大人になってもらうためにもまず親御さんが自分だったらどのような人と一緒に働きたいかを考えてみるといいかもしれません。

子供にはどのように教えたらいいでしょうか?

漆先生:まずご家庭で将来どのような大人になってほしいかを考えるところからはじめます。我が子にはどんな大人になってほしいか、自分の思っていることを軸にして、ビジョンを明確にします。できればそれを文章化しておくといいですね。子育てにはどの子にも絶対に当てはまるという正解はないので、自分で考える前に人に聞いたり、本を読んだりして情報を集め出すと、軸がぶれてしまうからです。

また、子育てで大事にしたいことはなるべく数を絞っておきましょう。小さな頃は安全管理のため命令や禁止の言葉も必要ですが、生徒へのアンケートで毎年いちばん嫌な言葉として挙がるのがこれです。あまり言い過ぎると判断力がなくなりますし、何で?と聞かれると理由に詰まることも出てきます。これだけは譲れないということはなるべくシンプルにして言い続けることが大切です。

教育書を参考にするのはありですか?

漆先生:あくまでも参考程度にして情報に翻弄されないことです。世の中にはさまざまな教育書が出ていますが、昔流行った育児書で今は誰も読まなくなっているものもあります。教育には正解がなく、誰でも語れるので、教育論はたくさんあります。

ひとつの家庭の成功事例が誰にも当てはまるわけでもなく、調査によるエビデンスがあったとしても必ずしも自分の子に当てはまるかどうかはわかりません。子育てに「魔法の言葉」はないのです。生徒にアンケートを取ると、同じ言葉でもやる気が出ると言う子もいればやる気がなくなると言う子もいますし、同じ言葉でも誰から言われるかで効果が真逆になることもあります。何より、ご自分のお子さんをよく見て、その子に合うコミュニケーションを心がけることが大切です。

◆ いつか我が子が社会人になったとき働く親の背中を思い出しそれが支えになる

今後も共働き家族はますます増加していく傾向に。働く母親は、「子供と過ごす時間が少ない分、子供の成長にも影響があるのでは」と考えてしまいがちですが…

漆先生:最近は共働き夫婦が増えるにつれ、共働きであることに負い目を感じる親御さんは減ってきたかとは思いますが、それでも悩みは尽きません。ある知人の話をご紹介します。

彼女には保育園に預けているお子さんがいましたが、仕事が忙しく、迎えにいく時間が遅くなることを気にしていました。そして、お迎えのたびに「遅くなってごめんね」とお子さんに謝っていたといいます。そんなことが続いたとき、彼女はカウンセリングの勉強をはじめたそうです。そして、そこで学んだことを活かし、子供への声掛けを変えました。

迎えにいくのが遅くなったときは謝るのではなく、「待っててくれてありがとう。ママも頑張ってお仕事できたよ」という感謝を伝えるようにしたそうです。するとお子さんは「ママ、がんばったね」と笑顔で言ってくれるようになったそうです。ママが謝ってばかりいると、子供も「うちのママは、友達のママと比べてよくないのかな」と思い込んでしまうかもしれません。「ごめんね」より「ありがとう」を伝えることで、子供は自分が貢献できていると感じ、自己肯定感も上がります。

仕事が忙しく、子育てにあまり時間を割くことができないお母さんから、たまに「仕事のために子供を犠牲にしているのかもしれない」という言葉を聞くことがあります。確かに子育てを時間という軸だけで比べたら、「時間をたっぷり使えるお母さんにはとても敵わない」という気持ちになるのもわかります。けれど、ないものを嘆くよりも、あるものを活かす方がお子さんにとってもプラスになるのではないでしょうか。

それに仕事によって生み出される財産もあるはずです。たとえば経済的な余裕を生み出すこと、仕事に対する誇りを子供に伝えられることなども、そうした財産のひとつでしょう。

子供は親の痛いところを突くことがあるため、「家にいてくれるママのほうがいい」「ママは私より仕事のほうが大事なの?」などと言われて、傷つくこともあるかもしれません。でも、そんな親の背中を見て育った子供がいつか同じ立場になったとき、かつての親の姿を思い出し、それが支えとなることもあるでしょう。

逆にずっと子供と一緒にいると過干渉になってしまうという人もいます。育休が明けた教員が、こんなことを言っていました。「ずっと一緒にいると、仕事柄、つい細かいところが目について厳しくしてしまっていたけど、学校で仕事をして家に帰ると、本当にかわいく思えてたっぷり愛情を注げる」と。親子には相性があり、それくらいの距離感がちょうどいい家庭もあるのです。

本校の学校説明会では保護者の方に、「この学校で必ずプレゼントできることは『失敗』と『揉め事』」とお伝えしています。文化祭や合唱祭など、ほとんどの学校行事は生徒主体でチームで運営しますから、思い通りにいかず失敗することや人間関係でのトラブルは絶えません。しかし失敗はチャレンジの結果です。考え方の違う人と同じ目標に向かって妥協しなければ必ず揉めます。こうした体験を乗り越えることが達成感を生み、自己肯定感を育みます。

世界を見渡しても事を成した人物の多くは、10代でなんらかの活動を始め、早いうちに失敗を重ね、その経験を成功の糧にしています。失敗させたらかわいそうと子供の飛ぶべきハードルを先回りしてとってしまえば、その機会を奪うことになりかねません。今のうちにたくさんの失敗や揉め事を経験するチャンスをあたえ、それを乗り越える体験をさせてあげることこそ、子供の未来のため、親が注ぐべき愛情なのではないでしょうか。

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インタビュー

漆 紫穂子

品川女子学院の理事長。東京都品川区生まれ。
都立日比谷高校、中央大学文学部卒業、早稲田大学国語国文学専攻科、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。1925年から続く中高一貫校・品川女子学院6代目校長を経て、2017年より現職。行政改革推進会議構成員(内閣官房)。
同校は1989年からの学校改革により7年間で入学希望者数が30倍に。「28プロジェクト」を教育の柱に社会と子どもを繋ぐ学校づくりを実践している。著書に『女の子が幸せになる子育て』(だいわ文庫)、『働き女子が輝くために28歳までに身につけたいこと』(かんき出版)などがある。【品川女子学院 理事長日記】はこちら

撮影/黒石あみ 構成/望月琴海

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