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LIFESTYLE 子育ての悩み

2022.04.15

【品川女子学院理事長にインタビュー】あなたはなぜ子供に受験勉強をさせるのか? お子さんを伸ばすための正しい教育をプロが伝授!

 

これから中学受験を考えているご家庭では「子供の成績を、偏差値を、もっと上げたい!」と、お子さんより親御さんの方が熱心になっていたりするものです。そこで今回は女の子がいるご家庭から高い支持を集める、私立・品川女子学院の理事長、漆紫穂子先生に、上手なお子さんの伸ばし方についてお話しいただきました。

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本当に大切なのは入試を突破することではない! 勘違いの多い教育方法

新学期がはじまったタイミングでお子さんを進学塾に通わせようと考えているご家庭もあるのではないでしょうか。我が子を第一志望の中学校に通わせたいと思うあまり、つい子供に口を挟みすぎてしまうこともあると思います。それが親子喧嘩に発展することもあるでしょう。果たして我が家の教育方針はこれでいいのだろうか、悩んでいる親御さんもたくさんいるはずです。そこで今回は私立・品川女子学院中等部・高等部で理事をされている漆紫穂子先生に、子供の上手な教育方法についてお話を伺いました。

◆ なぜ親は子供に勉強をさせるのか? まずそこから振り返りましょう

受験勉強について、お子さんより親御さんの方がつい熱が入りすぎてしまうことがあると思いますが、親御さんはどのような行動を取るのが適切なのでしょうか?

漆先生:まず、お子さんが受験をするのは何のためなのかを整理してみましょう。熱心に勉強を勧めるのは誰のためでしょうか。受験勉強を始めると、限られた入試日程の中で合格を勝ちとらなくてはという思いから、偏差値を気にしたり、周りの子と成績を比較したりして焦りが生じがちです。

人には「現在バイアス(未来の大きな利益よりも、目の前にある小さな利益を追ってしまうこと)」がかかるので、今目の前で起きていることが大きく見えてしまうのです。そんなときは、少し視線を上げて、お子さんの未来を思い描いてみてはいかがでしょう。すると、小さく見えていた先のことが大きく見えてきます。お子さんが大人になって自立するころ、どんな人になっていてほしいでしょうか。たとえば職場でミスをしたとしても親が職場まで乗り込んで解決してあげることはできませんよね。少しくらいの困難があってもくじけない、幸せな人生を送ってほしいと願うのではないでしょうか。

世の中にはさまざまな教育論が溢れているため焦りを感じることも多いかもしれませんが、そういうときは「それは私にとってなぜ問題なのか」「私は、本当はどうしたいのか」と、自分に問い続けてみてください。問題の所在が整理しやすくなります。親御さんは愛情と経験があるので、子どもに失敗させまいとつい、自分の問題と子供の問題が分離できなくなることがあるのです。

◆ 欧米の入試問題との違い、そして今、子供たちに求められる力とは?

最近は文部科学省でも「詰め込み型教育」が見直されていますが、入学試験を突破するためにはまだ、詰め込み型教育を避けられそうにないと感じます。

漆先生:そうですね。日本の学校教育で一番のネックになっているのは、大学入試だと私は強く感じています。

たとえば、欧米の入試問題には日本のように1点や2点を争うといった問題はありません。高校時代にどのようなことをやってきたかということや、なぜこの学部・学科に進学したいのかということが重視されます。それは、入学したあと生徒がなにをしたいのか、そのための能力が本人に備わっているかを見極めるための試験だからです。一方、日本は、まだ記憶を試すような入試問題が多く見られますよね。

現代は、テクノロジーの進化、特にAIの発達で、機械に代替できることが増えてきました。そのような時代に私たちに求められるのは「課題を発見する力」と「それを解決する力」です。共感力を持ってみんなが困っていること、あったら便利なものに気づき、みんなで協力しながらその解決の一歩を踏み出す力こそが求められます。

国内外の研究や調査でも、非認知能力=数字で認知されない力が将来社会で活躍する力に繋がっていることが明らかになっているのに、日本の大学入試はすっかり遅れをとってしまっているのです。

その大学入試のために、その手前の中高で、友達と遊んだり、好きなスポーツや趣味に打ち込んだり、自分を見つめて静かに過ごしたりする大事な時間を削られてしまうことも少なくないのです。もちろん、勤勉に知識を身につけることは大切ですが、それを何のために使うのか、知識を統合して活用する力を育む時間とのバランスが大切だと考えています。

漆先生ご自身は「詰め込み型教育」の弊害を現場で実感されることはありますでしょうか?

漆先生:詰め込み型の定義は明確でありませんが、以前、ある難関私大で授業を担当させていただいたときの話です。学生に高校の総合学習のプランを考える課題を出しました。すると進路学習と称して進学先の大学を調べるといった似通ったプランがあまりに多く驚きました。そのほとんどは、首都圏の進学校出身の学生のものでした。そして、中にキラッと光るオリジナリティーのあるものを見つけると、地方出身の学生のものだったんです。それは、自分の地域をよくしたいという思いのこもった具体性のあるユニークなものでした。

なぜこのような違いが現れるのか。総合学習は教科の枠を越えて横断的に考えたり、興味を深く探求したりする授業のはずですが、もしかすると首都圏の進学校に通っていた生徒たちは、提出した課題のような授業を受けてきたのかもしれません。

もちろん基本的な知識がなければ新しいものは生まれませんから、ある程度ベースの知識は必要です。日本の学校教育には優れた点もたくさんありますが、世界の動き、未来に求められる力とリンクすべき変化に遅れをとっているのです。国全体の教育を変えるのにはどうしても時間がかかりますので、各学校や家庭レベルでできることはしていく必要があるでしょう。本校の生徒にも、視野が広がるよう社会や世界とつながる機会を多く設けています。特に女の子の場合、自ら選択した人生を歩んでいくなかで、いわゆる学歴主義では対応できない場面が男の子より早くやってくるからです。

「女の子は学歴主義では対応できない」とはどういうことでしょうか?

漆先生:女性に求められる学歴は「学校歴」でなく、「学習歴」だと思います。その理由のひとつが、出産を経てのライフステージの変化です。子育てと両立して仕事を続ける人、復帰する人の率は年々高まっており、仕事をしているお母様の割合は2019年に72.4%となっています。しかし女性の正規雇用率は未だに男性の半分程度です。

参考/厚生労働省「2019年 国民生活基礎調査の概況

参考/総務省統計局「労働力調査(基本集計)2021年(令和3年)12月分

出産を経験する女性は、期間はそれぞれですが、多くの人が一度は職場を離れます。女性が子育てと両立して仕事を選ぶためには、いわば「復職力」が必要です。それは、この人でないとダメなのだと思われるような力を示す客観的な指標です。出身大学名より、どんな学部学科でどんな力をつけたのかという学習歴が重要なのです。

女性リーダーが生まれる環境とは?

漆先生:日本にはさまざまなジャンルを学ぶ環境を備えた女子大が数多くあります。そしてその環境から誕生したトップリーダーも少なくありません。男性リーダーに比べて、女性が学びを深める大学は選択肢が広いと感じます。

トップリーダーを見ると、たとえば、ゲームやインターネット関連企業のDeNA会長・南場智子さんは津田塾大学出身。また、ecuteという駅ナカ事業を運営するJR東日本ステーションリテイリング代表を務めたのち、2015年2月からカルビーの上級執行役員に就任。2018年12月には日本各地域の食材・生活習慣・歴史・文化などを国内外へ発信するONE GLOCALを自ら立ち上げた鎌田由美子さんは日本女子大学出身です。

また、女性リーダーには二つの共通点があって、ひとつ目は国際経験があること。二つ目が、先ほど述べたように学習歴が高く、資格や専門制があることです。たとえば、先ほどの南場さんはハーバードMBAを取得されていますし、鎌田さんは50代でロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)に留学されています。

さらに、日本初の総合商社女性役員・茅野みつるさんは米国の女子大・スミスカレッジ出身であり、カリフォルニア州の弁護士資格と実務経験をお持ちです。また、2011年に東京コカ・コーラボトリング(現コカ・コーラ ボトラーズジャパン)取締役兼CFO(最高財務責任者)に、2020年6月に太陽ホールディングスの社外取締役に就任された青山朝子さんはICU(国際基督教大学)出身で、公認会計士とMBAの資格を取得され、20年1月からはNECグローバルファイナンス本部長、22年4月からは同社の執行役員に就任される予定です。

現在、日本の雇用形態も、徐々に「メンバーシップ型雇用(終身型雇用)」から「ジョブ型雇用(働き手の職務内容をあらかじめ明確に規定して雇用する形態)」に移行すると言われていますが、こうした女性リーダーに関しては、すでに労働市場が変化していると感じています。

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インタビュー

漆 紫穂子

品川女子学院の理事長。東京都品川区生まれ。
都立日比谷高校、中央大学文学部卒業、早稲田大学国語国文学専攻科、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。1925年から続く中高一貫校・品川女子学院6代目校長を経て、2017年より現職。行政改革推進会議構成員(内閣官房)。
同校は1989年からの学校改革により7年間で入学希望者数が30倍に。「28プロジェクト」を教育の柱に社会と子どもを繋ぐ学校づくりを実践している。著書に『女の子が幸せになる子育て』(だいわ文庫)、『働き女子が輝くために28歳までに身につけたいこと』(かんき出版)などがある。【品川女子学院 理事長日記】はこちら

撮影/黒石あみ 構成/望月琴海

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