「舞台経験は長いし、お芝居には変わりない。そう思っていたけど…大間違いでした」
そんな軌跡を描きながら、今ようやく辿り着いた、子供のころからの〝もうひとつの夢〟。夢が叶って嬉しい反面、同時に演技の難しさを改めて感じる日々だそう。
宝塚時代から今まで、数多くの役を演じてきた七海さんですが、その演技の主戦場たるは〝舞台の上〟。俳優・七海ひろきと声優・七海ひろきでは、求められる演技も、自らに課す演技も大きく異なります。
自らが感じる〝自分の声の弱み〟について尋ねたとき、「舞台をやってきていることが理由になっているのかもしれないけれど…」とふと口をついて出た一言からも感じられた、その違いがもたらす壁。
▲【『〝Unknown〟Emotional-Time 七海ひろき写真集』より】先日発売された写真集の中にも〝声のお仕事〟について語る過去連載アーカイブが! そちらでも声優に対する想いをポートレートとともにご覧いただけます。気になる人は写真集も合わせてチェックしてみてくださいね。
「演技の本質はどちらも同じだと思うんです。違うのは〝出し方〟と〝想像力〟。演技のアウトプットと、そこにいたるまでに必要な想像力が違うんですよね。また正直なことをお話しすると、はじめは「舞台経験は長いし、声優としての演技もお芝居には変わりないし…」なんて思っていたんですけど、大間違い。もう本当に大間違いだったんですよ」
とちょっぴり肩を落としてうなだれます。ですが、〝演技〟を語る瞳はどこまでも真っ直ぐ。そしてキラキラと輝いていました。
「舞台では、動き・表情・声…と自分のすべてを使って役を表現します。でも声優としてマイクの前で役を演じるときは、声以外のすべてを絵が担当してくれるんです。だから、絵が演じるお芝居をみながら、ときに想像しながら、それに合う声の演技をしなくてはならない。我で声を出すんじゃなくて、絵のお芝居に合うバランスを想像しながら声を入れていく。最近ようやく、そのバランス感覚が何となく掴めてきたような気がします」
今まで以上に、アフレコは想像力が試されるシーンであるよう。
「会話シーンひとつとっても、舞台では基本的には話す相手がそこにいて、どれくらいの距離感で話しているかがわかるけど、アフレコではそれもすべて想像しなければいけなくて。演技を追求する上での想像力の大切さを改めて感じているところです。それから、いわゆる〝お稽古〟の有り無しも大きく違う部分だし、演技の方向性の決め方もまた舞台とアフレコでは違っているし……でも、その違いがもたらす難しさは楽しさでもありますね。」
▲【Oggi3月号掲載写真を特別に公開!】メガネを使ったポージングもお手のものだった七海さん。本誌ではこのカットを〝素敵な流れ〟の中で楽しんでいただける構成になっています。その内容は発売中のOggi3月号で!
声優の仕事を通してさらに演技の奥深さを知り、極めんとする七海さん。先月は主演舞台『フランケンシュタイン -cry for the moon-』で〝怪物役〟を演じられていました。そこで強く光っていたのは、声優として培ってきた〝声の演技〟の経験値。どんなに強い感情が乗っても、どんなに早口であっても、一語一句流れることなく淀みなく会場中に響く台詞。そして、異形の怪物が成長していく過程を〝発声〟を大きな切り口として、ときにその姿なくとも演じきる表現力。もちろん、舞台ならではの佇まいや動作、表情あってのお芝居ではありましたが、その〝声の凄み〟に俳優・七海ひろきの進化を感じた方は大勢いるはず。
声優としての演技、俳優としての演技——その両面が七海さんの芝居をより高みへと導いているのです。