さて、先程の実験では、2回目のテストの前に、半分の学生に「試験に関する不安」を書いてもらいました。すると書き出した学生はむしろ成績が5%よくなったのです。それは不安をはき出すとワーキングメモリに空きが生じ、考えやすくなるからだとみられ、これはカウンセラーなどに話をすることで不安が軽減されるカウンセリング効果と同じような効果が働いたのではないかと考えられています。
だから、今が試験の直前なら不安を書き出せばいいのです。この直前のちょっとしたことで、点数がアップするかもしれません。
不安を感じやすい人ほど、プレッシャーがかかるとワーキングメモリにかかわる脳の部分の活動が低下しやすく、成績も低下しやすいことも報告されています。
そのため、「試験になるとあがってしまう」「いつもの実力が出せない」と感じている人ほど、早めに不安を書き出し対処していくことが大事です。これが「やる気」を高めることにもつながります。
やる気は、大脳の奥深くにある線条体の活動が強くかかわっていて、線条体は行動のコントロールや、行動の開始のタイミングなどに関わると同時に、その腹側には快感にかかわるドーパミン神経がアクセスしています。
だから、「できる」「わかって楽しくなった」などが繰り返されると、「勉強しようかな」と思っただけで線条体が活性化します。これが「やる気」の正体ですから、早めの対処で、「これで安心」「お、わかった」「よしOK」などドーパミン神経を活性化させるような言葉がけを自分にしておけばやる気アップも狙えるわけです。
複数の内容を並行的に学習するススメ
最後に、学習はまとめて行うより、分散させたほうが効果が高まることをお伝えしておきます。たとえば、8時間数学を続けるより、1時間ずつ8回に分けたほうがいい。複数の教科を学習するなら、1つの教科を通しでやるより、いくつかの教科を交互に行ったほうがいいのです。
人は忘れる動物です。だからこそ復習をいつするか、どうやるかが、カギになります。その回答の1つが、「覚えようとするな、直後に思い出せ、使え」です。直後の復習こそ大事なのです。記憶を引き出し、使おうとすることが、ひたすら覚えようとするより高い効果を生むのです。
復習に最適なタイミングや記憶の容量と気持ちの関係などをお伝えしてきましたが、これまでの内容が学習に役立つことを願っています。
『改訂版 スキマに3分 5教科シャッフル まめおぼえ 中1~3(画像は中3)』(KADOKAWA)
脳科学者・公立諏訪理科大学教授
篠原 菊紀(しのはら きくのり)
1960年、長野県茅野市出身。東京大学教育学部卒業後、同大学院教育学研究科修了。学習時・運動時・遊興時・CM視聴時など、日常のさまざまな場面での脳活動を調べるかたわら、テレビやラジオなどで実験や解説を行っている。地元の「茅野市縄文ふるさと大使」も務める。
東洋経済オンライン
東洋経済オンラインは、独自に取材した経済関連ニュースを中心とした情報配信プラットフォームです。