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EDUCATION 教育現場より

2022.10.20

「自分の感情管理できる子・できない子」将来の差|スタンフォードが教える感情コントロール術

 

中学受験を考える家庭は増えていますが、受験のための暗記式勉強法は、本当に子どもの将来にとっていいのか?と悩む親も増えています。アメリカのスタンフォード大学附属、オンラインハイスクールで校長を務める星友啓先生は、「暗記や詰込み型の学習では、変化し続ける社会では生き延びられない。これから必要なのは『考える力』」といいます。

世界4カ国から優秀な子どもが集まる全米トップ校では、ゲームチェンジャーを育てるためにどんな学習をさせているのか。家庭でも真似できる、子どもの地頭を育てる方法について、新刊『子どもの「考える力を伸ばす」教科書』より、一部抜粋してご紹介します。

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感情を制するものが学業を制する

私は、アメリカのスタンフォード大学に附属するオンラインハイスクールの校長をしています。スタンフォードとシリコンバレー。テクノロジーと世界の最先端教育。中高一貫のグローバル教室に、世界中から集まる才能ある若者たち……。これだけでも十分キャラの濃い学校かもしれませんが、実は本校の最重要エッセンスは「哲学」が必修であること。「考える力」を一番大切に考えてカリキュラムを考えているのです。

考えるという心の営みは非常に理性的で、「うれしい」「悲しい」などといった感情的な心の営みとは一見、対照的に見えますね。それだけに、感情と理性は別もの。気持ちや感覚の問題は脇に置いて、ひとまず集中して理性的になれば、勉強も仕事も効率が上がる。それができないなら集中力が足りないなんて言われることも。

でも、人間はそうシンプルではありません。誰でも、感情が昂ぶっていたら集中して考えられませんし、逆に、気持ちが安定しているときは、勉強や仕事も冷静かつ効率的に進むはずです。

このように、感情と脳の認知のメカニズムは複雑に絡み合っていて、片方を無視してもう片方を効率化したり、トレーニングしたりすることはできないのです。

メンタルが安定した子は将来の収入も増える

メンタルの安定した子は将来の収入も増える

こうした脳科学的知見を背景にアメリカで広がりを見せるのがSELのトレンドです。「SEL」は「Social Emotional Learning」の頭文字をとった略語で、子どもたちの社会性(social)や感情(emotional)の認識と、コントロールに関する学習のことです。

ストレス・マネジメントや感情コントロールの方法、相手の話の聞き方や、共感する力(エンパシー)のトレーニングに、マインドフルネスなど、そうした新しいメソッドや科学的知見を取り込んで、子どもの社会性とメンタルを育てるSELのプログラムが、1968年のイェール大学の研究を皮切りに、アメリカの教育界で盛んに開発されています。

近年そうしたSELのトレンドが盛り上がりを見せてきたのは、子どもの社会性や感情の発達をサポートすると、心の健康だけでなく、学業成績も大幅にアップするということがわかってきたからです。

社会性や感情の力を養う大きな効果

メンタルコントロールのイメージイラスト

SELで子どものメンタルが改善されるのはもちろん、成績もアップする。しかも、それはアメリカだけに特別なことではなく、文化が違っても同様の結果が得られる。さらに、学力やメンタルの健康など、子どもの将来にとって有益な効果を総合的に考慮した上で、SELのプログラムに費やす資金で得られる対価を計算してみると、元手の11倍なんていう試算も。

つまり、社会性や感情の力を養うことが、現在の成績やパフォーマンスのアップにつながるだけでなく、将来の学歴や収入、心と体の健康にまで直結していることがわかってきたのです。

このアメリカでのSELのムーブメントを牽引してきた組織が「Collaborative for Academic, Social and Emotional Learning」(CASEL)です。CASELは、SELを科学的なエビデンスで裏付けて、子どもたちの社会性とメンタルに関する学習の普及に努めてきました。

スタンフォードが中高生に教えていること

そのCASELの提唱するSELの枠組みは、以下の5つの基礎能力を向上させる目的に基づくものです。

1 自分を理解する力(self-awareness)

自信を持って、自分の能力は伸ばせるものだと信じる成長マインドセットを持つ。自分の強み弱みを理解できる。

2 セルフ・マネジメント力(self-management)

ストレスとうまく付き合う。自分の衝動を適切にコントロールする。設定した目標に到達するためにモチベーションを維持できる。

3 他者を理解する力(social awareness)

多様な背景や文化の人たちを理解する。他者に共感し、思いやりを持つことができる。互いの違いから新しい学びを得られる。

4 人間関係スキル(relationship skills)

他者とうまくコミュニケーションがとれ、相互協力できる。不健全な場の空気に流されない。対立を建設的に解決できる。他者に助けを求めたり、自分から他者を助けることができる。

5 責任ある意思決定をする力(responsible decision-making)

自分の行動や、他者とのやり取りで、倫理的基準や安全性に基づいて、建設的な判断ができる。

 

自分とは違う意見を理解する力の重要性

これらCASELの5つの社会性と感情の力は、私が校長を務めるスタンフォード・オンラインハイスクールの「生き抜く力」の教育の根幹にもなっています。

例えば、すべての授業の基礎となっているオンラインでの少人数セミナーは、自己理解や他者理解、人間関係のスキルをサポートできるようにデザインされています。生徒たちはディベートやディスカッションを通して、自分の意見を表現する機会を得られると同時に、自分とは違う意見を理解する力を養うことができます。教師たちもそうしたコミュニケーションや社会性をコーチングできるようなトレーニングを受けています。

ここでは、スタンフォード・オンラインハイスクールでも教えるSELのメンタル強化法の中から厳選して、ディスタンシングを解説していきましょう。

自分の心とうまく距離をとる

自己理解と自己管理(セルフ・マネジメント)のイメージ

ディスタンシングは自分の気持ちを外側から見直す力を養う心理メソッドで、自己理解と自己管理(セルフ・マネジメント)の力が身につきます。心理療法などでも普及してきた方法ですが、ここでは日常から子どもと始められるような応用法をわかりやすく基礎から解説していきましょう。

声には出さずに心の中で考えたり、自分と対話したりする「心の声」は、とても大切な役割を果たしています。例えば、自分を自分として意識することができるのも「心の声」のおかげ。覚えたことや自分の考えを心の中で思い浮かべる力は、学習にも欠かせません。

さらに、感情をうまくコントロールしたり、目標に向かって計画したり行動したりするのにも「心の声」が一役買っています。このように私たちにとって重要な「心の声」の働きですが、心がネガティブに傾き出すとマイナスの方向にも力を発揮してしまいます。

悲しい時に「心の声」に翻弄されてしまう

悲しみに翻弄されるイメージ

例えば、悲しい出来事があったとき、「心の声」が悲しい気持ちやネガティブな考えを心に巡らせて、暗い気持ちを増長させてしまう。そのせいでくよくよ考え出してしまう。ネガティブ思考の悪循環がひきおこされてしまうのです。そうなると、問題解決につなげるための建設的な考えを導き出すのが困難になってしまいかねません。

実際に、ネガティブな「心の声」の働きが空回りし始めると、うつ病や不安症、過食症などのリスクが高まってしまうことがわかっています。そうした「心の声」のネガティブループに陥らないようにするために有効なのが、「ディスタンシング」(distancing)のメソッドです。

これは、自分の気持ちと「距離(ディスタンス)をとる」というコンセプトで、最近の心理学研究でも注目を集めてきました。自分の心を他の誰かのように見立てて自分を外側から見直すような視点に立ち、自分の心と「距離」をとることで、マイナス思考やネガティブな気持ちのスパイラルから抜け出して、ポジティブに考えるきっかけを得ることができます。

実際にこれまでの研究で、感情のバランス維持やメンタル強化、さらには厳しい状況で冷静な判断をしたり、人間関係をよくするのに効果があることが確認されています。

自宅でできる「ディスタンシング」の訓練

最近では日常生活にも簡単に取り入れられる「ディスタンシング」のメンタル・トレーニングが開発されており、性別や年齢を問わず広く効果が確認されてきています。ここでは、これまでに科学的エビデンスが十分に示されてきたトレーニングの中から、子どもとやりやすいものを厳選してご紹介していきます。週に一度、子どもと5~10分ほど一緒にいられる時間を作るといいでしょう。

まずは、最近辛く感じたり、ネガティブになってしまった出来事を、子どもに想像してもらい、そのときのことをできるだけ詳しく話してもらいましょう。

それが終わったら、次の4つの視点のどれかを選んで、ディスタンシングのエクササイズをしましょう。選んだ視点で数分かけて自分の心の声と対話してみるようにサポートしてあげてください。

自分との対話で現在の気持ちと距離をとる

感情をセルフコントロールするディスタンシングのイメージ

1 自分を呼ぶ

子どもに、心の中で自分のことを名前で呼んだり、「君」「あなた」など他者に呼びかけるように呼ぶように指示をしてみてください。その上で、「心の中で、自分のことを呼んであげて、褒めてあげてみてね」「自分に慰めの声をかけてみましょう。そうしたら、どういう答えが返って来ると思う?」 などといった具合に、子どもが自分の心の声を使って自分自身と対話できるようにサポートしてあげましょう。

自分と対話することで、自分の現在の気持ちと距離をとることができ、ディスタンシングの効果が得られます。

2 友達に声をかけるふりをする

子どもに、自分の友達が自分とまったく同じ出来事を体験している状況を想像してもらいましょう。

「例えばさ、〇〇ちゃんに同じことが起きたらどう思うかな?」などと、身近で気持ちが想像しやすい友人を選びましょう。そうした会話の設定を作った上で、「そのときに、なんと声をかける?」「どんなアドバイスをしてあげる?」などと、友達をサポートする気持ちで自分の心と対話させてあげましょう。ひとしきりその話をしてから、「じゃあ、〇〇ちゃんが同じふうに言ってくれたら、どう思うかな?」などと、今度は自分の気持ちに置き換えるように練習させます。

3 心のタイムマシーンにのる

1週間後、1カ月後、1年後。子どもに、現在の状況から少し時間が経った未来のことを想像させてあげましょう。

「周りの環境はどう変わっているか?」「自分はどのように感じているか?」などとイメージを広げさせてあげましょう。その上で、ネガティブに感じていたときの自分に、どのように語りかけるかを考えさせます。

未来や過去の出来事を想像する効果

「1カ月たったら、夏休みだよね。そのときに昨日のことどう思っていると思う?」とか、「入学式のときにどんな気持ちだったっけ? そこからみて今をどう思う?」などと、具体的な未来や過去の出来事を想像して、その時点から現在を振り返ってみるように促すのも効果的です。

4 気持ちと体の動きを特定する

子どもがネガティブな気持ちに苦しんでいるときに、まずは「悲しいのかな?」「怒っているんだよね」などと、気持ちを特定させてあげましょう。そして体のどこにその気持ちを感じるかを聞いてみましょう。

「胸が痛むかな?」「お腹がきゅーっとする?」など、体のどこにストレスや苦しさを感じるかを特定させて、そこに手を当てて深呼吸をします。気持ちを特定して「ラベル」をはり、それを体の一部分に紐づけることで、その気持ちに飲み込まれずに、外側から自分の気持ちを見つめる視点を得ることができます。

エクササイズが終わったら…

ディスタンシングのエクササイズが終わったら、子どもがディスタンシングの視点で自分と対話をした後に、どう感じたか話してもらいましょう。

また、何か新しい学びや気づきを得たかどうかも聞いてみましょう。

ディスタンシングの前に子どもが話していた気持ちから少しでも変化が見られるようであれば、前進です。

メンタルのコントロールは現代社会では必須の力です。大人にも有効ですから、まずは親が自分で試してみるのもおすすめです。より子どものサポートがしやすくなるはずです。

スタンフォード・オンラインハイスクール校長が教える 子どもの「考える力を伸ばす」教科書『子どもの「考える力を伸ばす」教科書』(大和書房)

スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長

星 友啓(ほし ともひろ)

スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長。哲学博士。1977年生まれ。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。その後渡米し、スタンフォード大学哲学博士を修了。同大学の講師を経てオンラインハイスクールの立ち上げに参加。2016年より校長に。オンライン教育の世界的リーダーとして活躍。
公式サイト/https://tomohirohoshi.com

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東洋経済オンライン

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