【目次】
第5回:小学校〜大学までオール私立で、学習費は2000万円以上!?
<お話を伺った方>
ファイナンシャルプランナー: 花輪陽子さん
聞き手・原稿:教育エディター 田口まさ美
▶︎Instagram: @masami_taguchi_edu
——今回は、気になるお受験にかかる費用についてファイナンシャルプランナーの花輪陽子さんにお聞きしました。お受験するかしないかを決めるにも、まずは家計的に可能かどうかの判断が必須です! 公立の場合に比べて、私立に通う場合は、現実にどのくらいの金額がかかってくるのでしょうか?詳しく教えてください。
花輪:単純に学費だけの計算だと簡単なのですが、実際には、学校教育費+学校給食費+学校外活動費が含まれます。学校教育費は学校に通うためにかかる費用で、学用品などの用意などを含みます。学校外活動費には学習塾代、習い事代などを含みます。それらを全てまとめて「学習費」としますと、平成30年度文部科学省の調査を踏まえまして、「学習費の総額」は、以下のような数字になるかと思います。
ご家庭ごとに学習塾や習い事にかける金額の差は大きいので、あくまで平均値となります。
小学校〜大学(全て公立・国立の場合):719万円
小学校〜大学(全て私立の場合):2,042万円
下の幼稚園を含んだ学習総額の表を見ていただくと、よりわかりやすいかと思います。
▲平成30年度 文部科学省調査
今回は、小学校受験を検討されている方向けに、幼稚園を除き小学校受験をしてそのまま附属で大学まで上がった場合を計算しますと、学習費として私立小学校(6年間)959万円、私立中学校(3年間)422万円、私立高校(3年間)290万円までで1,830万円。ここに私立大学の学費のみを学部によりますが(4年間)平均で約371万円をプラスします。すると<小学校〜大学>まで全て私立の学習費合計は、合計2,042万円になります。
グラフを見ると分かるように、一番長く通う6年間の小学校時代を私立にすることで大きく額が違ってきますが、中学校受験は小一からスタートするケースもあり、6年間の塾代などを加味すると、結局私立へ通ったのと大差なかったという結果になるご家庭も中にはあるようです。
お教室・塾費は?その他、母子のお洋服代・体操服代も!
田口:私立へ通う場合のトータルの学習費用はだいたいわかりました。小学校受験期間にかかる塾などの費用は、どんな感じでしょう?
花輪:まずお受験の教室・塾にかかる費用で言いますと、1つの教室や塾で2講座ほど受講して月謝が6〜7万円ほどです。年長組になり複数授業を取る場合には月20万円近くなり、さらに絵画や行動観察など別の教室にも掛け持ちで通うとなると、月に30万円以上かかってくるケースもあります。大手塾の夏期講習は複数受講すると10万円〜、そのほか都度の入会金や施設利用料なども発生します。
小学校受験の準備は年長組になってからの1年間だけではないケースが通常ですので、年少組、年中組から始めるとそれぞれ掛けることの年数になりますね。下記が、掛け持ちなどをしない場合の、1つの塾で推奨されている講習を受講した際の平均的な目安となります。
【小学校受験 塾費用の目安(年間)】
年少:月5万×12ヶ月 約60万円
年中:月6万〜10万×12ヶ月 約80万〜120万円
年長:月15万×12ヶ月 約180 万円
トータル 約350万円〜
(※「Domani」調べ)
田口:年中さん以降は、塾の年間費用が100万円以上になることも珍しくないのですね。実際には複数の幼児教室を掛け持ちするご家庭も多く、肌感覚としてはもう少しかかっているかも?と感じる話も聞きますし、教室や塾にかける金額はご家庭ごとの差が大きそうです。その他の経費として、お受験用のお母様や子供のお受験スーツなどの出費もありそうです。このあたりはどうでしょう?
花輪:お母様のスーツですと、有名な国内ブランドのものですと6万円〜、百貨店でいわゆる高級ブランドを買うとなると10万円〜くらいです。もっとリーズナブルなスーツブランドもありますし、お譲りいただいたものを使う方もいますし、このあたりも個人差が出ますね。子供の服装や、体操着や問題集、文房具といった備品も同様に必要です。
中学校受験の塾費と比べると、どっちが高くつく?
花輪:次に中学受験の費用と比べてみましょう。中学受験は1年生から6年間続く場合もあります。例えば業界でもお月謝が高めの塾を見ていきますと、1年生・2年生・3年生:約20万円〜30万円、4年生:約60万円、5年生:約70万円、6年生:約140万円 (年間/テキスト・プリント・実施テスト・など諸々の費用込み)で、6年間合計:約350万となっております。
また首都圏の一般的な大手塾の場合では、3年間または4年間通ったとしておおよそ以下のような金額になります。
3年生〜6年生(4年間):約260〜340万円
4年生〜6年生(3年間):約230~310万円
(※「Domani」調べ)
小学校受験の3年間の塾の費用とその後通う6年間の学費を足すと、数字で見れば小学校受験の方がお高くなるように感じますが、どちらの受験においても受講数や教室や塾の掛け持ちなど、ご家庭によって大きく変わります。極端なケースですと、中学受験にかけた費用がトータル1,000万円越えになった、という話も聞いたことがありますし、上手に取捨選択をしながら家計と相談しつつ、ご判断いただくことが大切です。
学費以外の、塾や習い事の費用はどのくらいかかる? いつが一番かかる?
花輪:学習塾以外の「習い事」で言いますと、乗馬など特別な習い事は特別に高いですが、グループでのお習い事は大体月額4回で8,000円程度、マンツーマンだと1回6,000円〜8,000円ほど(月4回で24,000〜32,000円くらい)が平均です。平成26年度の学校外活動費用の平均額の調査結果は以下です。
次のグラフの青色部「補助学習費」とは、「学習塾費」などをはじめとした月謝や家庭での学習に使用する図書や物品の購入費の支出のことで、白部「その他の学校外活動費」とは「習い事」や体験活動などにあたります。
公立学校に通う子供の場合
私立学校に通う子供の場合
▲(平成26年度 文部科学省「学校外活動費用」調査)
公立では中3の年間学習費平均が43.5万円で最も高くなり、これは高校受験のための塾費ですね。私立の場合は、小学校時代の習い事や学習塾の費用が高くなる傾向にあり、トータルでは小6が最も高く平均74万円となります。
教育費用の算出には、習い事の金額も忘れずに計算に入れておきましょう。習い事も何を習うかで金額は異なります。サッカーや野球だとそんなにコストは高くなくて済んだりしますし、また逆にかけようと思えばいくらでもかけられます。ですから、習い事の予算を作って、どこまでかけるかを決めることも大事ですし、子供のパフォーマンスや意欲を見て判断し、時には“やめる勇気”も必要だと思います。
背伸びをすればできるかも?と思って私立へ行った結果、破綻も
田口:学費だけを見ていると、実際にかかる金額を見落としますね。また、支出は子供への支出だけではありませんよね。
花輪:私立に行けばこれ以外にも、交際費なども高くなりがちですし、家計の支出は、おっしゃる通り子供の教育費だけではありません。大きいところで言うと住居の費用、老後の準備費用もあります。
ですから例えば日本企業では年収1,500万円は高級取りというイメージですが、その感覚でしっかりとマネープランを立てずに“なんとなく私立受験を決めた”ご家庭が、実際に子供を二人通わせてみたら教育費の割合が高すぎて、生活はカツカツに…ということもあり得るのです。
ざっと計算してみましょう。例えば、額面年収1,500万円ですと実際に使える金額は1,050万円ほどとなります。それより少し多めの仮に月に100万円が使えるご家庭として、お子さんが二人の場合の月の出費を考えてみましょう。
仮に家賃/約30万円、私立学費/約25万円(2人)とすると、それだけで収入の半分以上を割いてしまうことになります。そこに、例えば車の関連費月5〜6万円、通信費4万円、食費8〜10万円、交際費3万円、保険、子供2人の習い事代など普段使っているお金を積み上げていくとどうでしょう? キャッシュフローは足りるでしょうか?貯金はできそうですか?
ぜひ受験を決める前に、一度現在家庭で使っているお金をきちんと把握して、具体的に先の見通しを立てることをお勧めします。特にきょうだいが二人以上の場合、学費や受験が重なる時期には支出も重なり、通常以上にキャッシュフローが圧迫されることにも留意してください。
何かあっても対応できるよう、最低200〜300万円はすぐに動かせる現金預金を保持しておくことをおすすめします。
“うちはうち、よそはよそ”が安泰の秘訣
費用の見積もりは把握しても、いざ私立学校に通い始めると、周りには富裕層のご家庭も多いものです。ついその雰囲気に流されて海外旅行や車や家など収入に見合わない出費をしてしまいますと、家計が破綻してしまう恐れもあります。
逆に言えば、「我が家は学費にはコミットするが“家は持たない”または、“車は持たない”」など、周りに流されずに割り切るところは割り切り、支出をしっかりとコントロールできれば大丈夫です。そのためにも資金計画が大切です。その他、持っている保険商品を見直して掛け捨てに変える、通信費を格安キャリアに変える、など節約できるところを見つけて工夫すると良いと思います。
意外と「幼稚園から大学まで附属の一貫校に入れたが、その分学費以外の塾代はさほどかけなくて済んだ」という場合もあります。そうしますと、子供一人年間150万くらいで回せたりもします。ぜひファイナンスの側面からも、様々な進路の選択肢を考えてみましょう。
昨今は円安が加速していますので、海外留学を考えているご家庭は、早いうちから外貨預金なども視野に入れ、コツコツ積み上げておかれると良いかと思います。行き当たりばったりではなく、余裕を持って計画的に、学費を捻出するようにしましょう。
最後に、「子供の受験のことに目先がいって、老後の資金については忘れていた」なんてことにならないようにもしたいものです。一般的に老後の生活費は夫婦で年間300万、月25万円ほどと言われています。ですが、世帯年収が高いご家庭ほど、現在の生活の質を急に下げたりはできないと思いますので、大体現在の生活費の7割くらいを目安に蓄えを考えておくと良いと思います。
——ありがとうございました。目先の教育費だけでなく、老後の資金や住宅資金にも目を配りながらライフプランを立てることが大事ですね。iDeCoやNISAなどの制度も積極的に活用しながら、子供にかけるところと夫婦の老後の貯蓄をバランスよく考え、資産ポートフォリオを考えていくと良さそうです。
昨今、所得格差と学歴格差の比例関係を取り沙汰されることが多いのですが、それはあくまで平均値の話であり、必ずしもお金をかけた分だけ子供の成功や幸せが約束される訳ではありません。
受験するのか、しないのか。するとすればいつから塾に通うのか。習い事は何を選択するのか。 家計に金額制限があることをマイナスに捉えるのではなく、親が冷静に判断する目を養えば、あえて予算を設けることで、逆に子供にとって大切なものが見えてくるかもしれません。
私自身、子供のためにはつい湯水の如く散財してしまいがち。常に支出の「見える化」を心がけます!
教えてくれたのは…
花輪陽子さん
ファイナンシャルプランナー1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)CFP®認定者。外資系投資銀行を経てFPとして独立。2015年から生活の拠点をシンガポールに移し、東京とシンガポールでセミナー講師など幅広い活動を行う。『ダメダメOLが資産1500万円を作るまで』(小学館)など著書多数。花輪陽子オフィシャルサイト 海外に住んでいる日本人のお金に関する悩みを解消するサイトも運営。まぐまぐ「花輪陽子のシンガポール富裕層の教え 海外投資&起業実践編」も
Interview& Writing
田口まさ美
<教育エディター>
小学館で教育・ファッション・ビューティ関連の編集に20年以上携わり独立。現在Creative director、Brand producerとして活躍する傍ら教育編集者として本連載を担う。私立中学校に通う一人娘の母。Starflower inc.代表。▶︎Instagram: @masami_taguchi_edu
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