【目次】
第7回:私の教室は「行動観察」がメイン。行動観察こそ小受を制す。試験での印象が合格の鍵!
<お話を伺った方>
NPO法人キッズコミュニケーションスキル開発センター理事長 作田朋子さん
▶︎https://kidscomm.org/
聞き手・原稿:教育エディター 田口まさ美
▶︎Instagram: @masami_taguchi_edu
田口:今回はHIMONYAKIDS代表として長年小学校受験をする子供たちに向き合ってきた作田朋子さんに子供のコミュニケーション能力について、お話を伺いました。受験者の半数が慶應幼稚舎に合格するなど驚異の合格率を誇る「ツッキー先生」のお教室ですが、そこでは“お受験教室”とは思えないほど子供たちの元気いっぱい、明るい声が響いています。合格の秘訣とも言える、オリジナルの行動観察育成に迫ります。
(※HIMONYAKIDSは紹介制のお教室のため生徒の一般募集は行なっておりません)
田口:どうぞよろしくお願いします。まずは、なぜ「行動観察」を目玉にされているのかを教えてください。
作田朋子さん(以下ツッキー先生):最近の傾向として、小学校受験では、ペーパーができる、体操ができる、絵工作が得意、なだけでは、評価されません。子供たちのその能力を更に引き上げることも、逆に下げてしまうこともあるのが行動観察だと思います。
行動観察というのは、お友達との関わりのみに関する観察と思ってらっしゃる方も多いですが、そうではありません。実際には「行動の全て」が観察対象です。試験を受ける態度・姿勢・受け答え、試験にまつわる全てが「行動観察」と学校側は捉えています。
行動観察というのは、読んで字の如く学校側が子供たちの行動を観察し、その子がどんな子なのか推測するために行われます。 コロナ禍では行動観察の試験は一時的に少なくなりましたが、今年はほぼコロナ禍以前に戻った感があります。
学校側も勉強や絵や体操のスキルが高いだけでなく、「この子はどんな子なのか」を知り、「学校に入ったら教室内でお友達とどのように関わるのか」、「どのような態度で授業を受けるのか」などをしっかりイメージしたいのでしょう。
田口:確かに、行動観察は、その子がどんな子かを観察するものであるからには、どの学校にとっても重要であることは納得です。そして“どんな子か”、という在り方を問われるからには、付け焼き刃ではうまくいかなそうですね。
ツッキー先生:そうです。性格は行動に現れます。行動から家の様子や親の姿も透けて見えます。 行動観察で評価を得るためには、その根本にある「性格・性質」、つまり「心の在り方」まで関わらないと本当には改善しません。おっしゃる通り小手先の技術や、恐怖心によって教え込まれたものでは太刀打ちできないと考えます。
試験では、大体20人くらいの子供を先生8〜10人ほどで観察しているようです。このように、多くの学校では子供2:先生1くらいの割合で、いろんな先生がその子を見る仕組みになっていると思います。
女子校では廊下での歩き方や立ち方はもちろん、トイレに行く際の行動も見ている学校もあります。ある学校では着ぐるみを着た先生が登場して子供の反応をチェックすることも!(笑)なので、私共は着ぐるみレッスンもしますよ(笑)
そのくらい、受験で作られた子どもの姿ではなく、子どもの素を見るために学校側も努力しています。ですから、付け焼刃でなく心の在り方から変えていく必要があるのです。そのため、私の教室ではどうやって歩き、立ち、座るのか、などの立ち居振る舞いや、お友達との関わり方は当然のこととして、「なんでそれをする必要があるの?」という理由も子供が理解できるように心がけています。
▲先生も、着ぐるみを着て練習!
合言葉は、“かっこよくて、優しい子!”それが合格へのパスポート
田口:具体的にどんなことをするのですか?
作田:私共は「かっこよくて優しい子」になろう、と常に言っています。「かっこいい」は、姿勢が良く・態度が良く・能力が高いこと。「優しい」は、協調性があり・他人のことが考えられ・思いやりがあること。としているんです。
どの学校も「かっこよくて優しい子」を求めていると思います。それがベースにあり、プラスアルファでその学校に合った能力を持っている子を選びたいと思っているのではないでしょうか。ただ、これをそのまま伝えても、子供にはうまく伝わりません。子供たちに納得してもらうために、以下のような会話をします。
最初に、「みんなが、かっこよくて優しければ、かっこよくて優しい子がいる学校へ行けるよ。でも、その学校は席数が決まっているの。じゃあ、どういう子がかっこいい子だと思う?どう言う子が優しい子だと思う?具体的に教えて?」と問います。すると子供たちは一生懸命考えて「姿勢がかっこいい」「歩き方がかっこいい」「足が早い」「挨拶ができる」など次々に発言してくれます。
このように子供たちに、自分で考えて言語化してもらい、その全てを肯定します。そして「かっこよくて優しい」の具体的な中身の理解を促した後に、「じゃあその子になってみよう! それ全部やってみよう! 今ここから、優しくてかっこいい子になるよ。さあその子になって立ってみて!」と声をかけると、一気に子供たちはピシッと背筋が伸びて突然変わります。
▲指先までピン!と伸びて「かっこいい人」になります
「どうなったらいいの?」という目的地を具体的に見せてあげると、そこに向かって子供は能動的に動き出すんですね。このように私共では、「受験に合格しよう!」ではなく、「かっこよくて優しい子になろう!」という言葉で子供たちを引っ張っていくようにしています。
田口:<思考→言語化→行動>というステップをとるんですね。一方通行の詰め込み式でなく、子供の自主性を育んでいく。行動心理学の理論にも適っていますね。「受験に合格」という概念的な言葉ではなく、子供にわかりやすい言語で理解させてあげることも大事ですね。
ツッキー先生:私は、理論はよくわからないのですが(笑)ただ、どうしたら子供に伝わるかな?と考え続けて、この形になりました。プラクティスの中身は、毎年少しずつ改良を加えて今もリニューアルし続けています。
子供たちを導いていく際に、決して子供が自分自身を否定することがないようにと気をつけています。子供が、自分の可能性を信じ、意欲を持って挑戦する心の在り方を第一として、全身全霊で教えています。大袈裟に言えば、行動観察こそ、その子の強みを引き出し、その子の人格の基礎を作る一助になれるとさえ思っているんです。
受験のみならず実生活でも効果抜群!「ピンポン玉プラクティス」「OK! プラクティス」「寂しんぼプラクティス」
田口:「ツッキー先生と言えば、コミュニケーション・プラクティス」というくらい、行動観察の中でも、独自に生み出されたコミュニケーションに関するレッスンが有名ですが、根底にそのような熱い想いがあったのですね。それらの誕生の経緯を教えてください。
ツッキー先生:レッスンをしていて、コミュニケーションが苦手な子は年々増えていると感じていました。そこでシンプルに、子供たちが苦手なこと、できないことを抽出し、それがでてきるようになるためにはどうしたら良いかを考え、ブレイクダウンしていきました。
例えば、話を聞く時に目を見ない子が、沢山いる。また、物を渡しても「ありがとう」が言えない子も大勢いる。さてどうやったら目を見て会話し、ありがとうが言えるか?それをセットで練習できるようにするには?と考えたのが、子供たちが一列に並んでやる「ピンポン玉プラクティス」です。
「ピンポン玉プラクティス」
1)色とりどりのピンポン玉を各列の一番前の子に手渡す。
2)ルールは2つ。後ろの子に手渡すときに、“目を見て”「はい」と言って渡すこと、もらった人は「ありがとう」と目を見て伝えること。
こんな具合に、とっても簡単なのですが子供が触ってみたいカラフルなピンポン玉を次から次にお友達に渡していく。ゲームのように楽しく取り組めるプラクティスにするのです。何度も何度も楽しく行うことで習慣化・自動化させるのが目的です。
他にも、私が大切にしているプラクティスがあります。友達と遊びたくても「ヤダ!ダメ!」と拒絶されてしまった時の「OK!プラクティス」です。これは子どもが日常生活でよく経験する悲しいことの1つですよね。
「OK!プラクティス」
1)「あそぼ!」と言われて「ヤダ!」と答える。
2)言われた子は、即座にOKマークを指で作って、胸を張って上を見て「オッケー!」と元気な声で返す。
補足で、「お風呂に入りなさい、テレビ消しなさいって言われて「ヤダ」って言ったことあるでしょ。でもそれを言った人、お母さんのこと嫌い? 好きだよね。だからお友達にヤダって言われても、あなたのことが嫌いなんじゃない、ただその時そのことをしたくなかっただけ。
みんなと同じ、その時の気分もあるし、やりたくないこともある。誰もがNOを言う自由がある。だから「ヤダ・ダメ」って言われても傷つかなくていいんだよ」というメッセージを、同時に伝えています。
たとえそれが気休めで勘違いだったとしても良いと思うんです。他人のことと自分のことを線引きして考えるって、大人でも大切なことですよね。
この「OK!プラクティス」を、学校でなかなかグループの仲間に入れずにいた生徒さんが実際のシーンで試してみたところ、その子自身の気持ちにも受け取る側の気持ちにも変化があり、その後自然に仲間に入れるようになったという話も聞きました。
▲ふざけてません(笑)ツッキー先生はいつだって真剣です
田口:心の線引き。アドラー心理学で言う“課題の分離”的な考え方ですね。他者を受け入れられないのは、相手の課題であり自分の課題ではない。だから自分は自分らしくいればよいという。子供に理解しやすい形での落とし込みが素晴らしいです。シンプルな言葉と、行動の型によりそのことが実際に体感できるのでしょうね。
私もそのプラクティスを拝見しましたが、通常なら傷ついてしまいがちなシーンでも、胸を張って大きな声で「OK〜!」と声に出してみると、そのフィジカルな動作が心にも作用するんだな、というのが見ていても伝わりました。近年のオンライン化により子供同士のコミュニケーション量も減っています。
昔以上に、コミュニケーションに困り感を抱える子供は増えており、それは現実的に不登校やいじめの加害者・被害者の数の急増という形で反映されていて、深刻です。
ツッキー先生:実は、息子が小学校の時に、一時強い子に目をつけられて仲間外れにさられていたことがありました。その経験もあって、これらのコミュニケーションプラクティスが思い浮かんだのです。幸い息子はお友達が一人できたことで、救われましたが、その時は私も子供と一緒になってすごく落ち込みました。
もしもあの時、こんなふうに理性的に心の線引きができたら、傷ついた時間が短くてすんだんじゃないかと思うんですね。 下記の「寂しんぼプラクティス」も、そんな経験から作ったものです。
「寂しんぼプラクティス」
1)一人の子が首から悲しい顔をした「寂しい顔カード」を下げてつける。
2)何分かしたら、その子に他の子が「一緒にやろう」と話しかける。
3)具体的に何をするかを教えてあげて、やってくれたら必ずありがとう、と言う。
「この積み木をここにおいて」→置いてくれたら「ありがとう」これを繰り返す
4)寂しい顔カードの子に「ありがとう」のシャワーをいっぱい浴びさせる。
5)寂しい心が軽くなったら、寂しい顔カードを「ニコニコカード」にひっくり返す。
ツッキー先生:子供たちには、“寂しんぼの子は、一人のお部屋に入っているから、まずは「一緒に遊ぼう」とノックをして、その鍵を開けてあげるんだよ”と教えます。このプラクティスをしてから、寂しんぼ役の子に「どうだった?」と聞くと、みんな「すごく寂しかった」「仲間に入れなくて悔しかった」「悲しかった」などと必ず言います。
「じゃあみんなは優しくてかっこいい人だから、そんな子がいたら今みたいなことしてあげようね!」と言ってまとめると、どの子も心にストン、と落ちるみたいです。こうしたプラクティスを通して、一人でも多くの子供の心の痛みやトラブルを解決してあげたいと思っています。
田口:ロールプレイングをするというわけですね。たとえ役であっても実際に体験することで、言葉で理解するだけよりも強いインパクトが心に残るので、大人にも有効な方法です。すごくいいですね。
ツッキー先生:小学校に入学後にもこのプラクティスを続けて欲しいという声を保護者から多数いただいています。近年マスク生活やコミュニケーションのオンライン化で、友達との付き合い方、距離の取り方、相手をどう受け入れて、自分をどう表現していいかが分からない子供がさらに増えているんでしょうね。
田口:そもそも子供は相手に対し、良くも悪くも率直な振る舞いをするものですが、近年は特に、幼い頃からよりきちんとしたコミュニ ケーションスキル(または自らを守るスキル)が必要になっていますよね。
SNSなどさまざまな外からの刺激にも対応しなければなりません。必ずしも自分に肯定的ではない刺激に対して、いかに自らを守り、自らを正しく見つめられるか。その辺りのスキルも含め、こうした対人について学ぶ場が足りていないと感じます。
ツッキー先生:学校だけではなかなか学びきれないのでしょう。ましてや家庭だけでは難しいです。でも、こうして何らかの形で、人を否定せず自分は自分と言える自信ある振る舞いができるように練習をして、子供の頃からそのスキルを獲得することができれば、自己肯定感が高まり、より自分らしく成長できるようになるのではないかと思います。
▲こちらもふざけているのではありません(笑)外国人の先生にも対応できる練習です
田口:小学校受験の中の行動観察を通して、それをされているのですね。
ツッキー先生:そうですね。コミュニケーションのスキルであり、自分を守るスキルでもあると思います。また小学校受験というのは、幼い子供達が初めて他者と比べられ、判断され、否定されるかもしれないというハードな経験です。この経験が心の傷にならないよう私は細心の注意を払い、心の逃げ場を伝えています。
「自分がダメだと思わないこと」。私が一番伝え、教えたいことです。これは行動観察のレッスンを通じて教えられていると信じています。また、これをもっと一般的にも広めたくてNPO法人を作りました。今後さらに活動していきたいと思っています。
私は何より子供の心を大切にしたいんです。子供の心は柔軟で、ぐんぐん成長し変わります。私の教室で子供がハッピーになれば、親にもハッピーが伝染しますよね? そうしたら、世の中ハッピーになるじゃないですか。母親から幸せになることも大事ですが、子供は大人よりも変化が早いんです。だから私は子供から、と考えて、子供の心を幸せにすることをしていきたいと思っています。
子供は別の人生、別の人格。踏み込みすぎず矯正せず、「それいいね!面白いね!」と言って伸ばす
田口:母親は、家庭でどんなことに一番気をつけたら良いでしょうか?
ツッキー先生:子供は親の鏡と言いますが、親の接し方が子供に影響するものですよね。例えば子供の描いてきた絵を、「下手」って言ったら子供は「下手なんだ」と思うし、「変な質問しないで」と言えば「これは変な質問なんだ」と思い込みます。
ですから、もしお母さんから見て危ないことでなければ、少しくらいダメなことや変なことを子供がやっていたとしても、まずは「面白いね、それ!」と言ってあげてほしいと思います。変だね、とかダメとかでなく、人と違う変わったことでも認めて、とにかく肯定することが大切ではないでしょうか。母親が肯定してくれるだけで、子供はそれを好きにも嫌いにもなるんですから。
だからこそ、子供の個性を「面白い、面白い」で、伸ばす。親の価値観に閉じ込めない、心の余裕が一番大切です。仮に親にそれが難しい場合があれば、私がその子のそういう存在になりたい。一人でもいいから認めてくれる人がいれば、子供は伸びていけますから。私が、その一人でありたいと、いつも強く願っています。
田口:ありがとうございました。今回ご紹介したプラクティスは単純にも思えますが、ツッキー先生の心からの熱量ゆえに子供たちに響くのだということが実際に見学しているとよく分かります。
2022年10月、文部科学省から発表された「問題行動・不登校調査」の結果によると、全国小中学校の不登校児童生徒数は過去最高の24万4940人、前年度からは24%増加しました。小学生の不登校が10年前に比べて3.6倍にまで増え、不登校が若年化しています。
現代の子どもたちは、対人コミュニケーションについて、深刻な課題を抱えていると言えます。そんな中、子供たちへの愛情に裏打ちされたこのような指導が必要度を増しているのでしょう。
私も、小学校時代に私の書いた作文をいつも褒めてくれた、たった一人の先生のおかげで、前職に就き今もこの仕事をしているようなものです。たった一人の、たった一言。その重さを改めて感じます。
作田先生をゲストにDomani教育インスタライブを開催します!
Domani公式アカウントで2023年3月13日(月)20時START
ツッキー先生をお招きして、こちらの記事をベースに小学校受験の行動観察について、子供のコミュニケーション力について深掘りします!ぜひご視聴ください!
教えてくれたのは…
作田 朋子(サクダトモコ)さん(ツッキー先生)
<NPO法人キッズコミュ二ケーションスキル開発センター理事長>
慶應義塾幼稚舎を経て、慶應義塾大学卒業。都内大手ホテルに10年勤務を経て、2011年 幼児コミュニケーション能力開発教室を母である慶應義塾大学名誉教授 野澤素子先生と目黒区碑文谷で開校。自身は小さい頃引っ込み思案で、消極的な子供あった。小学二年生の時、海外生活で言語の通じない友達と仲良くなるために試行錯誤した経験が自信となり、以降明るく積極的に。開校以来約500名にものぼる卒業生たちを指導。レッスンで伝えてきたコミュニケーションスキルをより多くの子供達に知ってもらうため2021年にNPO法人キッズコミュニケーションスキル開発センターを設立。
Interview& Writing
田口まさ美
<教育エディター>
小学館で教育・ファッション・ビューティ関連の編集に20年以上携わり独立。現在Creative director、Brand producerとして活躍する傍ら教育編集者として本連載を担う。私立中学校に通う一人娘の母。Starflower inc.代表。▶︎Instagram: @masami_taguchi_edu
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