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EDUCATION 教育現場より

2023.02.28

大手塾経営者かつリアルお受験パパが教える 共働き夫婦でも小学校受験に成功する「チーム戦略」【お受験ママの相談室vol.8】

 

教育編集者・田口まさ美による教育分野に携わるスペシャリストへのインタビュー連載。「お受験」…それは都会に住む母親ならば、誰もが一度は思い悩むキーワードかもしれません。第8回目は全国で350以上の学習塾や幼児英語教室、保育園などを経営される株式会社城南進学研究社 専務取締役執行役員COO の千島克哉さんをお招きしました。

Text:
田口まさ美
Tags:

第8回:大学受験が変わり、幼児教育も大変革!
共働き夫婦を襲う受験の早期化の高い壁

<お話を伺った方>

株式会社城南進学研究社 専務取締役執行役員COO
公益社団法人 全国学習塾協会 常任理事 千島克哉さん

教育学博士 江藤真規さん

聞き手・原稿:教育エディター 田口まさ美
▶︎Instagram: @masami_taguchi_edu

 

共働き夫婦のお受験、役割分担はどうする?
母親が夫をやる気にさせる方法は?

田口:今回は、全国的に塾展開をされている経営者でありお受験パパでもある千島克哉さんと教育博士の江藤真規さんをお招きして、現在私たち母親たちを取り巻くお受験、また育児環境について客観的視点を交え、改めて理解し、お悩み解決を目指していきたいと思います。

まず千島さん、御社(城南進学研究社)では乳幼児から社会人までの民間教育サービスの会社として、現在は乳幼児サービスに注力されているとお聞きしました。

千島:はい。弊社では「くぼたのうけん」18教室、幼児英語教室(「ZOOフォニックス」など)29教室、保育園24園を経営していまして現在付加価値の高い乳幼児サービスに力を入れています。「くぼたのうけん」にも、お受験コースができたんです。

田口:改めてすごい規模ですね。大学受験市場が主力であった御社が、昨今乳幼児サービスに力を入れていらっしゃる理由は、どのようなところにありますか?

千島:主に大学受験というものが、入試制度改革等の変化により先の見通しができない市場になったことが挙げられます。日本では仮にこのまま少子化が進めば2040年には出生数が60万人割れになると言われていますよね、今年は80万人割れです。それに伴い、大学受験は大きく変化しています。

例えば昨年のデータでは、全国で70%近い学生が“第一志望”に合格しているのです。合格するかどうかではなく、第一志望に合格です。最近の受験生は、年内入試、つまり総合型入試、指定校推薦、自己推薦入試などで12月には合格が決まっているのです。そうすると一般入試を受験する生徒は目減りし、受験塾の成長余地は限られてきます。大学受験が大きく様変わりする時代に学習塾は何を目指し、どのような価値を提供していくのか、未来を予測して創造していくことの大切さを経営者として痛感しています。

江藤:千島さんは実生活でも、まさに最近ご自身のお子様の小学校受験をご経験されているんですよね。

千島:はい、上の子が終わり今は下の子です。妻も働いておりますので私も積極的に参加するようにしています。王道を行くようなお受験塾とは少し違いますが、塾にも通っています。私も妻も小学校受験は未経験で、もともとは子供にも受験を考えていたわけではなかったので、恥ずかしながら準備不足で直前に焦ったタイプです(笑)。

田口:小学校受験において親がそれを経験しているか・していないかは、実はとても大きな差ですよね。情報の入り方が全く違います。未経験のご両親の場合は早めの情報収集が好ましいですね。

江藤:お受験は、千島さんの方から奥様に提案されたのですか?

千島:そうです。仕事を通して勧められまして。でも実際にやってみて受験において父親の役割の大きさを実感しました。面接ではほとんど8割型私が聞かれましたから。子供にも「どういうお父さんですか?」「週末お父さんと何をしますか?」など私との関係性に関する質問が多かったと思います。

田口:家庭でのお父さんの姿勢を学校側も知りたいのですよね。千島さんは、父親としてどのようにお受験に向き合われましたか?

千島:まずお受験を中心とした環境づくりや時間の設計を考えました。「合格させるために」ということを一つの基準として、いろんな生活のバランスを作っていったということです。具体的には、役割分担などですよね。僕はペーパーが嫌いじゃないので、ペーパー対策全般を担当したり、公園へ行って理科や社会のようなジャンルの教育は全て僕がやりました。

江藤:お忙しいだけでなく、精神的ストレスも多いお立場なのに素晴らしいお父様ですね。

千島:いえいえ。でも、子供を公園に連れて行くというのは週末にやっているお父さんが多いので、そこで何をやるか?という時にお受験的な視点を盛り込んで楽しんで取り組んだという形です。受験で出るようなお花はほとんど公園で網羅できますし、理科的常識、社会的常識、季節の行事などの多くを実際に外遊びをしながら身につけていけるように意識していました。

実はお父さんがやれる領域は実はいっぱいあると思うのですが、多くのお父さんが、なんとなく構えてしまって敷居が高いものと捉えてしまい、なかなか母子の間に入っていけないという状況があるのかもしれないですね。

江藤:子供が母親といる時間が長かったりして、子供に「ママが好き」などと言われてしまうと、そうなるのかもしれないです。

千島:妻もリモートワークが活用できたので、それも助かりました。もしそれがなかったら逆にお受験は考えられなかったかもしれません。

働く母は「今の育児現場は、厳戒態勢」と自覚を!仕事と育児を自分1人の努力や忍耐で乗り越えようとしないで

江藤:リモートワークは助かるのですが、逆に、移動時間にちょっとお茶を飲んで休憩する、というような余白さえなくなってパンパンになってしまっているというケースもありますよね。働く母親は、それでなくても時間がないです。私の娘もワーキングマザーですが、夕方に「保育園に10分遅れるから電話しておいて!」とLINEで夫にお願いするなど、その電話をするほんの少しの隙間もないほどシビアな毎日を送っているようです。それほど仕事と子育ての両立だけでも大変なのに、その上「教育」を真面目に考え始めると、もう大変です。

「週末にはこんなふうに遊ばせてあげたい」など、何かしてあげたい気持ちと「仕事を諦めたくない」、という気持ちの板挟みで「小学校の壁」という言葉通り、小学校低学年で仕事をリタイアしていくお母さんも少なくありません。

田口:身に染みて分かります。私は娘が小三までシングルマザーでした。それは大変な日々でしたが、4〜5歳くらいまでの幼児期は、ある程度大変な覚悟をしていましたし子供も可愛い盛りで、自分の若さもありなんとか勢いで乗り切れました。さらに精神的負担を感じたのはむしろそれ以降。

小学校に入り、これでやっと手が離れるかと思いきや、現実にはそうでもなく。学校から自分の帰宅より早く帰ってくる娘への対応などに日々頭を悩ませ、綱渡りの生活がさらに続きました。先が見えず「これがあと何年続くのか」と思ったら、どっと疲れが出ましたね。全力でマラソンしてきたのに、見えていたはずのゴールが蜃気楼のように消えて、まだまだ先が見えない、、、と思えて愕然としたんです。

ママ友たちと、「これっていつまで続くの!?」と冗談混じりに笑い飛ばしながらなんとか乗り越えましたが、みんなも半分目が笑ってない状況だったと思います(笑)。なので実際に子供が小学校低学年の頃にキャリアを諦めたり、キャリアチェンジする母親が多いのは納得できます。

キャリアを続けるには能力以上に体力が要る。そしてまた子育ても意外と長く続くものだと教えてくれる先人がいなかった。自分の母親も専業主婦でしたが、昭和世代の親たちの多くは“フルタイムで働く母”のロールモデルを見ていませんから。全てが手探り状態ですよね。

千島:加えて、日本においては家事育児労働の女性への偏りが顕著なので、お母様の肩にいくつもの重荷が乗ってしまいます。

江藤:育休、時短も当然のことのように取るのは女性ですよね。知人の家庭でも旦那さんが会社に問い合わせたところ、会社の回答は“前例がなくて取れない”、と。このワンオペ育児を母親たちがめちゃくちゃ努力をしていて、その努力でなんとか今日は凌いでいるのだけれども、それが果たして長期的に「子供を育て、自分の人生も生きる」ということに繋げられるのかと考えた時に、努力だけではない発想というものも絶対に必要になってきますよね。

田口:まさに私も自分の努力でなんとかできると思っていました。でも、やっぱり40歳過ぎに一度しっかりと倒れました。体は正直ですね。私だけでなく、“努力で最後まで元気に”ゴールできるワーキングマザーは、一体どのくらいいるのか?と考えたとき、周りを見渡してもほとんどいないのが現実だと思います。

ですから、母親たちが今自分が置かれている状況が「両立できて当たり前」では全くなくて、これは誰にとっても多大な無理を強いられている「厳戒態勢」なのだという自覚を持つことって、とても大切だと思うんです。

今「大変だ〜、疲れた〜」と思っているのは自分の努力不足でもないし、怠けているわけでもない。誰にとっても当然のことだ、と。それを踏まえて、長い育児とキャリアを見据えて人生の戦略を立てることが必要なのではないでしょうか。私は幸い身体も復活して今は元気ですが、これからのお母さんたちには私と同じように倒れてはほしくないな、と強く思います。子供にとってもお母さんが元気が一番ですから。

育児もお受験もチームで乗り越える!“家庭内でやるべき”という概念を見直そう

江藤:パートナーや祖父母のサポートも必要ですよね。

田口:はい。ただ男性も忙しい。日本は長時間労働ですよね。千島さんから見て、この状況を妻がパートナーに理解を求める際に、どう伝えたらいいと思いますか?

千島:そうですね。まず家庭の中ってブラックボックスなので、全くわからないですよね。男性同士って、家の中の話になかなかならないですし。総務省の令和3年度の社会生活基本調査(※1・※2)では男性の家事関連時間の平均が週に44分、つまり1日6分ほどというデータが出ているんです。ちなみに女性の平均は3時間28分です。(平成28年度 総務省統計局 調べ)

※1▶︎総務省 社会生活基本調査(外部サイトへ)
※2▶︎内閣府男女協働参画局HP(外部サイトへ)

これがどこまで正確な数値かどうかは別として、とにかく他国と比べてもかなり少ない、圧倒的に足りないということは事実ですよね。これにはいろんな背景があると思いますが、ただ、小学校受験となればそれでは確実に乗り切れません。

ちょうど私の部下の共働き夫婦が小学校受験の経験者で、どうやって乗り切ったのか話を聞いてみたんです。それで面白いと思ったのが、「6ポケット」ってあるじゃないですか。本来両親プラス祖父祖母のお財布という意味ですが、経済的支援だけでなく、受験期においての労働的支援という意味でも複数人体制で考え、できるだけ身内に協力をお願いをしたという話でした。

例えば、「伝統校などでは学校説明会に全回出席しないと合格できない」といった話が保護者の中でされていることがあります。これが事実かは不明ですが、もし複数校の受験を念頭に置くとなると働く母親一人では絶対に無理です。であれば両親のみならず近親者のどなたかも含めてご協力いただくことを考えて、情報をシェアし、夫婦だけではなくチーム体制で乗り切ると考えてみることも大事だと思います。

ですから、パートナーとまずは「身の回りで支援してくれる人が何人いるのか?誰がどのくらい協力してくれるか?」を洗い出したらいかがでしょうか。そしてやってもらえる労働量を「マンスリーとウィークリーに落とし込み可視化する」。そうすると、話に現実味が加わってパートナー含め、やる気や心の安定が生まれるかもしれません。

田口:〈周りを巻き込み「組織化」して、労働量を「可視化」して、時間軸で「プランニング」する〉ということですね。確かに、育児って実際には親が取り組む労働ですから、仕事のように事業推進的な考え方をするといいのかもしれません。それこそパパさんたちの得意分野かも。

千島:はい。少しずつでもプランを立てて現実的に実践していく営みが必要です。また協力してほしい人たちに情報をオープンにして、受験とはどういうものかを知ってもらうことも大事だと思います。言葉の情報だけでなく「実際に現場を見せる」というのも有効です。

例えば協力してもらいたい人と一緒に、子供がお教室・塾に通っているところに見学に行ってみる。リアルな現場で子供が健気に頑張っている姿を見ると、できている姿・できていない姿含めその場で感じるものがきっとありますよね。「自分にも何かやれることがないかな?」という感情が湧くかもしれません。“感情を伴った当事者意識”に自然とマインドが切り替わるようにするんです。

田口:まさに百聞は一見にしかず、ですね。100回お願いするより、リアルな現場を見せて共感してもらい、支援を促す、と。

江藤:自分達のサポーターを増やすことは重要ですね。物理的支援はもちろんのこと、精神的支援としても、家族・親族以外に民間サービスや福祉サービスにもアンテナを貼ることもしてみていただきたいと思います。自分の大変さに共感してもらえるだけでも違うと思うんです。

お母さんが頑張りすぎていると、言葉にしなくても子供が母親の表情を汲み取ってしまうこともあります。仕事をやって子育てをやっているだけでも十分素晴らしいはずなのに、その上さらに“よい教育を”と考えることで、逆にご自身が苦しくなってしまわないでほしいなと思います。

昔は「親がいなくも子は育つ」と言いました。地域の大人や親戚などが親の代わりもしてくれたのです。今は逆に「親がいても子が育たない」と言われる時代になってきたという識者の方もおられます。

田口:そんな状況の中でも頑張っている自分を、責めることなく自分の頑張りを認めてあげてほしいですね。女性はそもそも努力家で責任感が強い人が多いと思うんです。子供の受験となればさらに、「あれもやらなければならない、これもやってあげたい」と思うことが増えると思いますが、千島さんのお話にもあったように、お受験だけに限らず、育児そのものを家庭内だけのこと捉えず、仲間を作り、その仲間に甘え、頼りながら乗り切っていくものと考えるといいかもしれません。

困ったら「SOS」を出していくことが大切。“トゥーマッチループ”にハマっていないか自身に冷静な目を

江藤:あまりに幼児教育も加熱しすぎると、かえって母親を苦しめることになるのではと私自身も不安になることもあります。 情報を取りすぎる、他の子と比較しすぎる、過度に心配しすぎる、などのトォーマッチループにハマると、母親だけでなく子供も含めて共倒れしてしまいます。

未就学児ではまだ自分で時間管理や健康管理をできませんから、母親が責任を持って子供の健全なペースを調整しなければなりません。子供の未来に向かっているはずが、いつの間にか自分も子供も苦しめていることにならないようにしたいですね。  

田口:育児って本当に大変なことで、誰も完璧にはできない。そんな当然の前提を忘れがちです。

江藤:私がアメリカにいた時、職業を聞かれて「ただの主婦です」と言ったら「No! you’re general manager!」と叱られたことがあり(笑)。 “単なる主婦”と謙遜することのないアメリカの育児マインドは、とても勉強になりました。 

千島:あと合理化できることは合理化した方がいいですよね。例えばお金で解決できることとして、食洗機などの電化製品に頼るとか。料理の作り置きや宅配などのサービスを活用したり。やれることはなんでもやってみるといいと思います。

合理化できることから目を背けていては、前に進めません。「べき論」を捨て、堂々と心の割り切りをすることが大事ですね。誰かから「お受験家庭ではみんなそうしてますよ!」などと言ってもらえれば、きっと皆さん安心できるのですが(笑)、なかなかそういう環境ではないですよね。各ご家庭でどんな工夫をしているのかのアイディアをシェアしたり、今年頑張ったお父さんを紹介したりなどができる場があったらいいかもしれないなと思います。

江藤:育児もお受験も今までクローズドな世界だったので、「べき論」がたくさんあります。母親だったら〜すべき、お受験だったら〜すべき、ではなく「まぁ、いっか」の余白をできるだけ作っていくことですね。

——本日はありがとうございました。

教えてくれたのは…

千島 克哉さん

(株式会社城南進学研究社 専務取締役執行役員COO、公益社団法人 全国学習塾協会 常任理事)1971年埼玉県生まれ。2013年立教大学院ビジネスデザイン研究科(博士前期課程)修了。MBA取得。2019年株式会社城南進学研究社のCOOに就任。幼児教室くぼたのうけん、ZOOフォニックスアカデミーなど人気の高い幼児教室などを手掛ける。

教えてくれたのは…

教育学博士 江藤真規さん

お茶の水大学卒業。娘2人は中学受験を経て東大に現役合格。その後、自身も東京大学大学院教育学研究科修士課程に入学、2019年に博士課程修了。現在は㈱サイタコーディネーション代表取締役として、子育て・家庭教育に関する講演や執筆活動を行う。「子どもの主体性」をテーマとしたコーチングスクール、学びの土台作りを目指したクロワール幼児教室を主宰。家庭環境づくり、親子対話の工夫等を発信する。著書「子どもを育てる魔法の言い換え辞典」「母親が知らないとツライ女の子の育て方」他。
▶︎子育てコーチング:サイタ・コーディネーション

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Interview& Writing

田口まさ美

<教育エディター>
株式会社小学館で編集者として初等教育教員向けコンテンツ中心に教育、学習、子供の心の育ち、非認知能力などの取材・記事制作を経験。ファッション誌編集含め23年以上同社で編集に携わり2021年独立。現在Creative director、Brand producerとして活躍する傍ら教育編集者として本連載を担う。私立中学校に通う一人娘の母。Starflower inc.代表。▶︎Instagram: @masami_taguchi_edu

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