第3回:小学校受験しなくても、早期教育は必要?
<お話を伺った方>
一般社団法人小学校受験協会 代表理事 藤田和彦 さん
教育学博士 サイタ・コーディネーション代表取締役 江藤真規 さん
聞き手:田口まさ美
子供を伸ばす「早期教育」(就学前の教育)の捉え方
——今回は、早期教育のあり方について一般社団法人小学校受験協会 代表理事の藤田和彦さんと教育学者の江藤真規に教えていただきます。最初に藤田さんに、すごく素朴な質問からさせてください。「早期教育」と一言で言った時、そのイメージがぼんやりしている気がします。「早期教育」って一体何なのでしょうか? 就学前の教育には、どんな意味があるとお考えですか?
藤田:早期教育というワードから何をイメージするかは、人それぞれだと思います。ですから、あくまで私の考える早期教育ということでお話しさせていただきます。まず、早期教育とは「“特定の技能をできるようになる”ことを追求するものではない」と考えています。
親御様には、「割り算、かけ算、英検何級 などの目標を持って取り組んでいかれることは悪くはありませんが、必須ではありませんよ」というアドバイスをさせていただいています。では私の教室の目標は何かと申しますと、お子様が「学びに対する前向きな姿勢(学習観)を確立すること」を掲げています。
勉強イコール「やらなければならないこと」「苦行」「ノルマ」というような認識になってしまうのではなく、あくまで自分から前向きに学びに取り組んでいくスタンスを身につけていくことが、就学前の学びとして最重要だと考えているからです。そんな学びの土台作りをしていくことこそ、早期教育の本質だと思っています。
「就学前に学びに取り組む意味があるのか?」という点については、様々なご意見があると思いますが、私自身が、小学校入学前に家庭内でこの「学習姿勢」を体得しており、その後の勉強をスムーズに進めていけた、という実体験がもとに現在行っております。
——早期教育では、“何ができるようになるか”よりも子供の“学ぶ姿勢作り”に焦点を置くことが大切だという考え方ですね。
藤田:受験に取り組んでおられるような教育熱心なご家庭こそ、実はその取り組み方によってはかえって子供を主体的な学びから遠ざけてしまう可能性も孕んでいるかもしれません。ですから、私の教室では合格はもちろん目指しますが、“合格をするためには手段を選ばない”というようなやり方はしないという方針なのです。
江藤:藤田さんの教室は、小学校受験に向けた学びも当然されながら、必ずしも合格だけがゴールの詰め込み型教育はしません、というスタンスですよね。それ故に身に付くお子様の前向きな学習姿勢や、伸びやかな探究心が、受験の合否に関わらず就学後のお子様の力になっている。それが、就学後も御社のアドバンスクラスという、小学生低学年向けのクラスに継続して通われるお子様が多いという結果にも繋がっておられるのですね。
藤田:子どもの学びは受験後も続きますので、長い目で子どもの“伸び”を考えた時に、未就学時期には、学習姿勢の土台を作ることが最重要だと感じています。我が社ではそのようなご説明をし、ご納得いただけるご家庭に来ていただいております。その結果として、ありがたいことに就学後の満足度も高くいただいているのだと思います。
子供の意欲が飛躍する日常生活での親の関わり方3つ
——例えば、具体的にどんな教育方法で、どんな成長が期待できるのでしょうか?家庭で真似できるようなこともありますか?
藤田:ご家庭でもできる1つ目は、「読み聞かせ」です。小学校受験でもペーパーテストがある学校では、お話を聞いて答える問題が必ずと言って良いくらい出題されるので「聞く」力を育むことは受験にも有効です。心の中で想像して頭の中で情景をイメージする「想像力」を育むことにもなりますし、いろんな言葉に触れ「語彙力」の育成にもなります。
お父さんやお母さんが呼んでくれる絵本を聞いて言葉に触れることは、SNS やYouTubeから入ってくるのとは言葉の質が違うと思います。これが、後々の自発的な読書、つまり「読む力」にもつながります。
習慣化が大切ですので、寝る前に童話や昔話を「毎日」5〜10分でもいいので読み聞かせの時間を作っていただくのがよいかと思います。親子のふれあいの時間にもなりますよね。
もしお子さんが読み聞かせに興味を持っていない様子でしたら、「お話作り」 に転換してみるのもアリです。子供に「次に桃太郎がなんて言うかな?」などと考えさせてみたり、または親が勝手に話を作ってみるというのも盛り上がるかもしれません。
次に「字を書くこと」「数字に触れること」 の2つをお薦めしています。小学校受験では、文字・数字を書かせることはしません。ですが、受験型の勉強をしてきた子が、実際に就学時になって言葉や数字に出会った時に、急に苦手意識をもち、勉強嫌いになってしまうというケースが毎年見受けられます。これは非常に残念なことですので、受験内容ではありませんが、私の教室では文字や数字への関心を高めることにも取り組みます。
ご家庭で行うとしたら、文字を書くことに関しては、「書き方の練習」から始めるのが良いのではないでしょうか。まずお母様やお父様が“お手本”を書いて、それ通りに子供が真似して書いてみる。
“その文字がどのあたりから始まって、どう書いていくのか” を一緒に見て確認しながら子供が模写するような行為がおすすめです。 わざわざ自らお手本を書くのは大変だと思います。ですが、この“ひと手間”が、お子様のやる気を生む大きな要因になると実感していますので、ぜひ取り組んでみていただけたらと思います。
多くのお子様を拝見していて、お父様お母様が子供の学びに適切な興味関心を持つこと、その向き合い方がとても重要だと感じています。親が自ら子どもの学びに楽しそうに関わりを持ち、子供と一緒の目線で取り組むことは、お子様の学びの意欲を大きく伸ばすのです。
——「数字」への関心は、どんな方法で高めるのがよいでしょうか?
藤田:「数字」への関心を持たせるのに、九九の暗唱などは、実は大きな意味はあまりないと思うのです。小学校では、覚えた九九をその後実際に使うので、当然意味が生まれます。ですが、未就学児が九九の知識を得ても、使う機会がないケースがほとんどです。
それよりは、日常生活や遊びの中で出合う、足し算、引き算、掛け算、割り算などの概念(考え方)に触れることの方が有効です。例えば夕飯でイチゴを食べるときに、「家族で一人何個ずつだと同じ数になるかな?」という問いをしてみる。割り算の概念です。 トランプゲームの「7並べ」なども、数の順番が理解できますし、ゲームに勝つために先を推測する力もつきます。
数が「増えた」「減った」「いくつかセットにして分ける」など、気をつけてみると日常生活の中には、意外と数のやり取りがあるものです。そんなことに少しだけ意識を向けてお子様と考える機会を作ってみるとよいのかなと思います。
そして「わ、すごいね、気がついたね!」 「そこに自分で気がついたのすごいね!」などと声かけをしてあげると、子供が自分の思索を広げていくことに繋がります。机に向かってドリルをやらせるより、よっぽど効果があると思います。
——そのためには、親自身も学びに対して日常的に前向きな意識を持つことが大事ですね。
藤田:そうですね。お子様に「先生になってもらう」のも良い手段です。恐竜の先生・電車の先生 など、子供に教えてもらう機会を作るのです。