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EDUCATION 教育現場より

2022.09.05

【日能研関東 代表に聞く2022年最新】中学校受験の「今」。小受と中受の違いとは?

 

教育編集者・田口まさ美による教育分野に携わるプロへのインタビュー連載。「お受験」それは都会に住む母親ならば誰もが一度は思い悩むキーワードかもしれません。お受験するのか、しないのか。その選択の先には何があるのか。教育の選択肢が広がると同時に、母親たちはより新しい情報の収集や、教育への深い理解を求められる時代になりました。周りに惑わされず、親としてブレない教育観を育み、わが子を幸せな進路に導いていきましょう。第2回目の今回は、中学校受験の今を詳しくお聞きしながら、小学校受験と中学校受験を比較してみましょう。

Text:
田口まさ美
Tags:

第2回:今、私立中学校を受験する本当の意味と価値【2022年版】

<お話を伺った方>
日能研関東 代表取締役 小嶋 隆 さん

 

日能研関東代表取締役 小嶋隆さん

増え続け、進化し続ける都内の私立小・中学校
変化している入試問題の内容とは?

——近年私立小・中学校への受験が首都圏近郊において盛り上がりを見せていますが、お子様の進路を、小学校受験か中学校受験かで迷われている方も多いと思います。そこで今回は中学校受験塾のひとつである日能研関東 代表取締役の小嶋さんにお話を伺いたいと思います。そもそも小・中どちらにおいても、いわゆる「私学受験」とは、どういったものだと捉えればよろしいでしょうか?

小嶋:私立入試というもののブームの始まりは、60〜70年前のことでして、日能研は創業70年ほどになります。 そして私立入試が行われているエリアは、日本全国に存在するわけではなく、首都圏、東海、関西、九州という限られた地域のみに存在する、実は「ニッチな世界」です。ゆえに、その特徴がクローズアップされ、誇張され過ぎたりする部分もあるかと思います。なので、ぼんやりとイメージだけで捉えていますと、ちょっと現実とはギャップがあるかもしれません。

——親も口コミサイトやママ友の噂など表層的な情報だけに頼らず、正しい情報と深い理解が必要ですね。近年の受験の傾向・特徴としては、どんなことが言えますか?

小嶋:まず昔に比べて小学校・中学校含めて私立学校の数そのものが、すごく増えたことが挙げられます。昔からの学校が、名前を変えて生まれ変わったり、女子校から共学になって新設したりと、今なお増え続けているのです。

例えば、明治大学が、東京都世田谷にある日本学園という学校と協定を締結、「明治大学附属世田谷中学校・高等学校」という学校が3年後にできる計画です。数年前には横浜英和女学院中学高等学校という女子校を青山学院が系属化しまして、現在共学化して「青山学院横浜英和小学校・中学高等学校」として大変人気が出ています。そのほか、「広尾学園中学校・高等学校」、「芝国際中学校・高等学校」なども旧女子校が共学化して大変人気が出ている代表例ですね。

また東京以外の地方に目を向けますと、東海地区には全寮制の「学校法人海陽学園・海洋中等教育学校」が約10年前にできていますし、少し古いところで言いますと関西地方では、約15年前に関関同立という名門私立大学の附属小学校が一気に設立されたという経緯があります。このように、未だ進化し続けているのが私立学校の特徴です。

——新しい私立学校が生まれ、それに伴い時代に即した新しい教育内容を掲げた学校が生まれつつもありますね。

小嶋:はい。ここにきて学校の教育目標、子供たちに求める力が大きく変わってきています。それは入試問題を見ていただきますと、一目瞭然なので、以下の解答用紙の模範をご覧ください。

◇解答用紙のBefore&After◇

このように、中学受験は、昔は暗記・詰め込み的な穴埋め・選択式問題が多かったのですが、今は「あなたの考えは何ですか?それはなぜですか?」と、その子の考え方を問い、表現させる記述式の問題が確実に増えています。つまり「答えが一つではない問い」というものですね。

——思考力、観察力、推測力、論理的思考などが求められてきていますね。

小嶋:そうです。例えるなら、以前は ”スピード勝負の、1つの答えを当てはめるジグソーパズル”的な考え方でしたが、今は「これで何ができますか?」という”ブロックパズル”的な考え方と言えます。「このブロック100個で、馬車が作れます、お城が作れます」というような創造性を求めるイメージに近いですね。

以下は、過去に麻布中学校の試験に出たドラえもんの問題です。こうしたいくつかの必須キーワードを用いることを前提に、自分自身の考えを論理的に述べさせる問題も出てきています。

例)右図は、99年後に誕生する予定のネコ型ロボット「ドラえもん」です。この「ドラえもん」がすぐれた技術でつくられていても、生物として認められることはありません。それはなぜですか。理由を答えなさい。
<麻布中学校 入試問題より>

I CT教育・英語教育の強化や大学現役合格率の高さも、中学受験の理由に

——私立中学校では、ICT教育や、外国語への取り組みもかなり増えていますね。

小嶋:そうですね。帰国子女の受け入れも増えていますし、在学中の短期留学システムもかなり豊富になり、多くの学校で実施されています。こうしたことから ”私立の学費は高いが、公立とは違う教育を受けられる”と受け取る保護者が増えているのではないでしょうか。

また、大学への「“現役”合格率」を上げている私立学校も多いです。都内私立高校の3番手・4番手グループの学校ですと、60%を超える学校も出てきます(下図参照:1番手は紫、2番手は水色、3番手は緑、4番手はオレンジ部に示されます)

一方、地方の偏差値の高い、いわゆる名門公立高校からトップ大学への昨今の“現役”合格率は伸び悩んでおります。一都三県の公立高校の3番手・4番手グループの学校の、有名大学(東大・早稲田・慶應・上智あたりのクラス)への合格率は平均10%未満だったりします。つまり、名門公立高校では、浪人をして合格を得ている生徒が多いというのが現状です。

こうした数字を見ますと、大学進学を考えている場合、「通塾代や浪人をする費用を含めたら、もしかしたら私立の方がトータルの教育費を抑えられるのでは?」 と考えられる保護者の方もいらっしゃいます。

——いわゆる進学校と言われるような、夏期講習をしたり補習をしたりと手厚いサポートで、「塾要らず」をアピールする私立中・高も多いですものね。塾の機能を併せ持つような。

小嶋:そうですね。この辺りの情報は、地方名門公立高校を出られた優秀な保護者の方々があまりご存じないことかもしれません。

◇2021年 難関大学合格実績(東京都の学校)◇

▲出典元:㈱私学妙案研究所『教育とお金』

○東大・早大・慶大・上智大現役合格率=東大・早大・慶大・上智大現役合格数÷卒業生数×100※
○理科大・明治・青山・立教・中央・法政現役合格率=東京理科大・明治大・青山学院大・立教大・中央大・法政大現役合格数÷卒業生数×100※
※合格者数÷実受験者数ではありません。

 

小学校のお受験と比べ、中学校受験をすることのメリット・価値とは?

——小学校受験と中学校受験の大きな違いと言いますと、どんなことになりますでしょうか?

小嶋:まず私立小学校受験は極めて小さなマーケットと言えますね。首都圏の私立小学校の志願者数は1学年で2万数千人のマーケットです。私立小学校は、これが全国の数字とほぼイコールです。それに比べて中学校受験数は現在、首都圏の1学年で6万人くらいの規模です。全国ですと、先に述べた3地区の合計でもう少し大きくなります。

そしてこの中学受験者数は、2008年のピーク時と同じくらいです。今はここまで戻ってきました。2011年東日本大震災直後は、やはり減っていましたね。世間で「子供をわざわざ電車に乗って遠くまで通わせなくてもよいのでは」という気運が高まったためです。

▲「2022年首都圏 中学入試状況推移」出典元:日能研関東調べ

このように小・中どちらも、私立の受験者数は日本の経済状況にも影響を受けるのですが、2015年大学入試改革が始まり、そこへの不安や、私立の新しい教育への期待の高まりを受けて、現在は小学校受験も、中学受験と同様に受験者は増加傾向にあります。

小・中の違いとしては、小学校受験は、子供の年齢から、俗に言う「親の受験」という側面が色濃くあります。一方、中学校受験は、少なくとも学校選びの観点では本人意見が尊重されるケースがほとんどです。 

共学がいいか、女子・男子校がいいか、学校の雰囲気はどうか、など年齢的に子供本人の主張が出てきます。その先長い年月を過ごす学舎を選ぶにあたり、子供が自分の意志を生かせる年齢での受験となる点は、大きな違いではないでしょうか。

——確かにそうですね。また、「学校を選ぶ」という意味では、近年私立中学では、ICT・サイエンス・英語・課題解決型授業など、いわゆる新しい教育に力を入れ、特色をアピールする学校が増えてきました。その選択肢は、小学校受験よりも中学受験の方が幅が広いのが現状ですね。その子に合った教育を選べる可能性が高いという点も、中学校受験ならではの魅力と言えるのではないかと思います。

小嶋:それでいうと、親が「どういう基準で学校を選ぶか」も、大きく変わってきています。 現在はバブル世代の親から、ロストジェネレーションと言われる世代へと親も世代交代しました。ロスジェネ世代の親たちは、既存価値観は必ずしも信頼できるとは言えないという不景気な世の中を経験上味わっていますから、旧来の付属学校のブランド力への「信頼」よりも、新しく特徴のある教育への「期待」を選ぶ方も多く、そういった親御さんは確実に増えています。 

つまり3年後、6年後の子供の姿がイメージできる、明確な期待値のある学校ですね。例えば 三田国際学園、開智日本橋学園、広尾学園、広尾学園小石川などは、一般クラスに加え、サイエンスコースや、国際コース、などがあり人気も偏差値も急上昇しているのは有名な話です。

また、偏差値での学校選択が一部崩れ始めているという傾向もあります。特に女子は、自分でしっかり見て、偏差値だけでなく自分に合う学校、自分が過ごして楽しそうな学校を選びたいという声も多いです。

男子の方は未だ進学実績・偏差値等を重視する傾向がありますが、女子は校風や熱意、居心地など、自分がそこに通って楽しいかという視点も重視されつつあります。

——女子においては、単に偏差値だけではなく、自分の考えや意見を持って学校を選んでいるお子様が比較的多いのですね。それは面白い傾向ですね。

小嶋:はい。また親の世代交代ということからもう一つの傾向として、年々親自身が私立受験を経験をしたというケースが増えてきています。私立出身の親御様は無条件に子供の進学先として私立を選ぶことが多いですから、今後も受験者数は増えていくと見ています。日能研にも日能研出身者向けのOB・OG割引というのがあるのですが、その利用者も実際に増えています。ですから、今後も私立人気は衰えないと思います。

——ありがとうございました。

少子化にもかかわらず、増え続ける私立受験者数。この私立学校への期待の裏には、保護者の大学入試改革への不安感や、公教育への不足感があることが垣間見えます。公教育は、国の財産であることは言う間でもありませんし、日本の公教育は世界のそれに比べても素晴らしい点がたくさんあります。ただ一方で、今の時代に即した新しいカリキュラムや手厚いサポートを用意した私立学校が、保護者たちの目に魅力的に映るのも納得できます。

公立と私立、小学校受験と中学校受験、どれを選んでも、必ずしもそれが子供の人生や能力を決定づけるものではありません。ですが、日本においても教育に選択肢が用意されつつあることには、確かな価値を感じます。いろんな個性や才能のある子供たちが、同じことを、同じ方法で学び、同じ軸で評価されてしまうのでは少々窮屈だと思うからです。特にこれからの時代には、非認知能力なるものの必要性が謳われています。

欧州ではすでに教育にも選択肢があることが通常です。例えばオランダなどは憲法で教育の自由が保障されており、「こんな学校が欲しい」という希望が集まり、一定条件を満たせば、その学校を設立することが可能になったりもします。また学区がなく、親子で行きたい学校が選べます。 

日本でも今後、その子に合った教育が自由に選べる時代が来るとよいな、と思うと同時に、子供の学習環境を選ぶ難しさを抱える保護者には、その負担が少しでも減らせるように、頼れる情報発信の必要性も感じます。

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教えてくれたのは…

株式会社日能研関東 代表取締役社長 小嶋 隆 さん

1968年神奈川県横浜市生まれ。中学・高校・大学を成城学園に学ぶ。大学卒業後、富士銀行勤務を経て㈱日能研関東取締役副社長に就任。株式会社三和総合研究所に出向し、コンサルティング業務を担当。2006年6月㈱日能研関東代表取締役社長に就任、現在に至る。その後㈱ガウディア・私立学校奨学支援保険サービス㈱・㈱私学妙案研究所を設立し、いずれも代表を務める。クリエイティブ日本語学校副理事長・日能研関東グループ各社の副社長も兼務。

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Interview& Writing

田口まさ美

<教育エディター>
小学館で教育・ファッション・ビューティ関連の編集に20年以上携わり独立。現在Creative director、Brand producerとして活躍する傍ら教育編集者として本連載を担う。私立中学校に通う一人娘の母。Starflower inc.代表。


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