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LIFESTYLE 雑学

2018.07.16

完成まで1年。道具まですべてが手づくりの奈良団扇の魅力とは【奈良団扇vol.2】

 

奈良団扇の魅力について全2回にわたってお届けしている2回目の本日は、貴重な職人さんの作業現場を拝見したお話です。昔から受け継がれてきた奈良団扇の魅力、どうぞご覧ください。

Text:
高橋 聖子
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1年もの歳月をかけて出来上がる奈良団扇

前回、奈良県指定伝統的工芸品である奈良団扇を唯一継承し、作り続けている池田含香堂の六代目・池田匡志さんに奈良団扇の魅力について語っていただきましたが、今回はその六代目・匡志さんが日ごろ作業されている貴重な仕事場で見た繊細な手しごとをお届けします。

関連記事:創業約160年の歴史。浴衣のお供に奈良団扇はいかが?【奈良団扇vol.1】

奈良団扇が出来上がるまでには全13もの工程がありますが、時期によって作業工程が変わっていくそうで1日何本という作り方ではありません。例えば、冬の季節は色の定着に適しているそうで、和紙の色を染める作業をまとめてしていたり、暖かくなると団扇を貼るのに適しているため、季節によって同じ作業がずっと続くそうなんです。そして、その合間に骨組みなどをして1年を通してやっと1本の団扇が完成する仕組みなんだとか。

そこで今回は、その中の工程の1つである透かし彫りに用いられる突き彫りという技法を拝見しました。案内されたのは、店の奥にある匡志さんの作業場です。


▲入ると天井にはひもがびっしり!こちらは、夏場に200~300本の団扇を乾かすための糸だそう


▲作業台前の床には骨組みが…。普段見れない、ものづくりの現場に気持ちがワクワクしてきます。

突き彫り技法とは?

まず渋紙と言われる柿渋が塗られた固くて丈夫な型紙を和紙の上にのせ、上から墨で刷毛を使って転写していくのですが、これを型写しと言います。


▲この渋紙は液体を塗っても、破けたりふやけたりしないほど丈夫だそう

そして型写しした和紙を20枚に束ねてまとめて掘っていくのですが、突き彫りとは突き刺してようやく切れる技法のため、ミシンのように刃物ではなく紙の方だけ動かしていくんです。カッターナイフのように引っ張って使用する刃物はどうしても曲線が難しく角がでてしまうそうですが、小刀は点で一突きずつしていくため、曲線もきれいに仕上がるそう。和紙を重ねているので、斜めに刃物が入ってしまうと柄がずれてしまうのが難点ですが、突き彫りをきれいに彫っていくためにはある程度の枚数も必要なため、この20枚という枚数がちょうどいい厚さなんだとか。


▲下には和紙20枚が重なっています


▲このようにくるっと下の紙を動かしながら彫っていきます

ここにある仕事道具すべてが手づくり

驚きなのが、団扇だけではなく仕事道具もすべて自分たちで作っているということ。

「1番最初の修行は、この突き彫りの時に使う小刀を作る作業なんですが、これが一筋縄ではいかないんです。でも小刀が作れないと透かし彫りが彫れないので、何度も彫りながら自分の癖を覚えて自分に合った刃物を作りつづけるんですよ」という匡志さんが、自分の思い通りの小刀が作れるようになったのは、中学生から作りはじめて10年くらい経った頃だそう。

また、この刃は鉛筆の芯のように深くまであり、切れ味が悪くなったら削って同じもの長く愛用するそう。ここで、短い小刀も拝見しました。


▲人差し指で押さえてるところまで刃があるそう!

▲匡志さん(上)とお父さま(下)の小刀を並べてみました。

「短い方は生前父が使っていたものなんですが、僕は使えないんです。職人によって癖があるので、他の人の小刀では思い通りに彫ることが難しいんですよ」小学校2年生の頃にお父さまを亡くされた匡志さんのために、お母さまが見本として取っておいてくれたんだとか。

並んだ小刀の長さの違いや錆びた刃から、長い年数の努力を積み重ねてきた職人の証を見たような気がしました。


▲作業台になる丸太の数々。こちらももちろん手づくり!

伝えていくことの重み

「いろんな団扇があるけど、お客様からしたら団扇は団扇。美しさゆえに奈良団扇を飾るだけで終わらせたくないんです。昔はいいものを作れば売れるという時代もあったそうですが、これからの時代はいいもの作るのは当然で、そのよさをどうやって伝えていくかが大切だと思っています。僕が六代目としてやらなければいけないのは、そこにあると思っています」と匡志さんの頼もしいその言葉は、機械ではなかなか作り出せない手しごとの魅力を知り尽くしているからこそ出てくる言葉。

工芸品って、なぜこんなに値段がするんだろう?って思う人も多くいると思いますが、何年も修行を積み重ねた職人の高い技術と繊細な手作業から出来上がっているのです。そして私たちには、大変手間暇がかかった部分が見えにくく伝わっていないという背景があります。手しごとに対する関心が少しずつ高まっている今、どのような工程を経て出来上がっているのかも一緒に広めていけたなら、もしかすると日本の工芸品の衰退を少しでも遅らせることができるのではないでしょうか。

そして実際に自分で見に行き確かめた方が、そのモノへの愛着も沸いてきますよ。

『百聞は一見に如かず』とはまさに工芸品のことかも知れません。

取材協力:池田含香堂
住所:奈良県奈良市角振町16(三条通り)
電話番号: 0742‐22‐3690
営業時間:9:00~19:00
定休日:無休(※9月~3月は月曜日)
池田含香堂 公式サイト

 

ライター

高橋聖子

1981年北海道生まれ。ドラマの衣裳コーディネーターやアパレルPRを経て、36歳にしてフリーに転職。現在は、駆け出しライターとカフェ店員のダブルワークに奮闘中。趣味は、日本の古き良き町並みや文化に触れること・カフェ巡り・国内ぶらり旅。

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