風変わりなオペラだからこそ出演者との信頼を作り、新たなものを見出す糸口に
今回のオペラ演出にあたり、オペラの演出助手を体験したという上田さん。
「形式的なことから歌手のメンタリティ、世代間の価値観の違いなど、オペラというものがなんなのかを勉強してきました。オーソドックスなオペラとはちょっと違うオペラをやろうと思った時、そこで信頼関係が作れないといい作品にはならないと思っていて、そのために私がオペラへの理解をより深めなければならないと。
今回の演出プランで、最も抵抗や戸惑いがあるのは歌手だと思うんですね。本来自分だけのはずなのにダンサーがいて、じゃあ歌手はどんな存在なの?って。
例えばタカラヅカ出身の蘭乃はなさんはショーやレビューに慣れているから、突飛な状況でも対応できると思うんですよ。けれどもオペラをやっている方たちはもっとリアリティというかストレートプレイに近い感覚なのかもしれません。自分がなんの役で誰としてここに存在しているということがわかっている方がやりやすいのかも」
歌手はイタリアのスピリットを表す存在として歌いながらも、人形使いとしてダンサー(人形)を動かす役目もあるわけです。やる側からしたらちょっとわかりにくい…?と思って上田さんが考えたのが三重になっている構造。
劇中劇がある『道化師』で例えると…、
「このオペラ文楽コラボ劇団なるものが『道化師』という作品を日本で公演をするためにやってきました。その劇団内には作品と似たような人間関係があって、この作品を演じているうちに気持ちが本当に昂って殺し合ってしまった…みたいな。『道化師』の劇中劇の入れ子構造の外側に、もうひとつの現実世界があるイメージです」
そんなアイディアも歌手の方たちとの話から生まれたのだそう。
「この案がうまく実現するかどうかはまだわかりませんが、演じる側の人たちの納得で私の考えが整理されることがあるから、演出プランの助けになっています」
歌い手とダンサーがいて、さらにふたつの作品を上演するため、出演者が多彩。いろんな経歴の方が出演されます。そのキャスティングは上田さんが担当されたのでしょうか?
「ダンサーを交えたオペラをやりたいというのは私からの提案だったため、ダンサーは主に私が。知り合いに紹介してもらったり、自分がそれまで観てきた公演で気になった方に声をかけたりしたら、いろんなジャンルの方たちが集まって面白いカンパニーになりました。
やまだしげきさんと川村美紀子さんは、『道化師』『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』の両作品に出演してもらいます。みんながなにかしているのとは無関係な立ち位置で、路上生活者っぽい雰囲気で居るのがいいんじゃないかと話して。現実世界の人間が舞台に迷い込んじゃったみたいな感じで居てもらいます。
川村美紀子さんは、この世に生まれてきて身につけた規範やいろんな制限を受けた声じゃなく、なんのフィルターやストッパーがかかっていない状態の生まれたままの声をしているんです。宇宙や自然と交信している感があるんですよ(笑) その直感のもとに自由行動でダンサーの周りをうろうろしていたりします。こういう人がアーティストなんだろうなと思いました」