人間の醜さに見える面白さ、寂しさを超えた強烈な願望をテーマに
「夢の世界で現実を忘れるのではなく、現実を突きつけられることが活力になる」「人並みに生きられる人が出会いたくないかもしれない醜さを表現したい」…。上田さんの言葉に潜む真髄が、演出にも表れているのかをうかがいました。
「今回は元々の原作がそういう意図をはらんでいると思うんです。『人間の汚いところや誤った行動、歴史上の大きな過ちを目にしたときに「これが人間か」とよく人は言うけれど、これが人間だよ』って演出家の鈴木忠志さんが演劇論のトークショーで言っていたのですが、それは私も思うところです。これこそが人間でしょ、それをなぜ嫌う?って。
絶対に繰り返してはならないタブーは別として、人間の醜さというものに蓋をしたり目をつぶるだけが正解ではないと思います。醜さの中にあるインパクトや芸術性、美しさがあし、それが人間の文化が面白いところだと私は感じるから、そういう意図は反映されるんじゃないかな」
“みんなさみしいねん”という言葉が殴り書きされたようなポスターが謎めいていて、ここにも興味をそそられます。それについてうかがうと、
「オペラを観ないような人たちが住んでいる架空の街にオペラのポスターを貼ったら落書きされてしまった、という設定です。ヴェリズモ・オペラは、オペラを観ることのできる特権階級が庶民の生活を題材にしたオペラを観るという、ちょっとゆがんだ視点ですよね。そんなことをイメージして作りました。
“みんなさみしいねん”という言葉は、大衆演劇に住み込みで体験入門をした時に『うちに来るお客さんはみんなさびしいからね』と聞いたことから。現代はコミュニティや家族間の繋がりが薄くなり、寂しさやぽっかりと空いた穴をみんなが持っていて、そこをなにかで埋めたりごまかしたりして生きているのが普通だと思うんです。今回の作品に出てくる人物にもそんな寂しさや穴があり、それをどうにかして埋めるために恋愛をして相手に執着して…ということが描かれているんじゃないかなと。
『道化師』『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』の両作品に共通して、人間そのものが抱えている本質的な孤独と、それとは真逆の、群れになってひとつになりたいという強烈な願望がテーマだと思います」
後編では、上田久美子さん自身が今考えていることやこれからの道についてうかがいます。お楽しみに!
撮影/五十嵐美弥 イラスト/春原弥生 構成・文/淡路裕子
演出家、上田久美子が宝塚歌劇団退団後、初の舞台演出。
ゴシップを題材にしたイタリアオペラの名作2作品を上演!
【演目】
レオンカヴァッロ/歌劇『道化師』
マスカーニ/歌劇『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』
【公演日程・会場】
<東京公演>
2023年2月3日(金) 18:30開演
2023年2月5日(日) 14:00開演
東京芸術劇場 コンサートホール
<愛知公演>
2023年3月3日(金) 18:00開演
2023年3月5日(日) 14:00開演
愛知県芸術劇場 大ホール
【指揮】
アッシャー・フィッシュ
【演出】
上田久美子
【出演】
『道化師』
カニオ [加美男]:アントネッロ・パロンビ/三井 聡*
ネッダ [寧々]:柴田紗貴子/蘭乃はな*
トニオ [富男]:清水勇磨/小浦一優(芋洗坂係長)*
ペッペ [ペーペー]:中井亮一/村岡友憲*
シルヴィオ [知男]:高橋洋介/森川次朗*
『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』
トゥリッドゥ [護男]:アントネッロ・パロンビ/柳本雅寛*
サントゥッツァ [聖子]:テレサ・ロマーノ/三東瑠璃*
ローラ [葉子]:鳥木弥生/髙原伸子*
アルフィオ [日野] :三戸大久/宮河愛一郎*
ルチア [光江] :森山京子/ケイタケイ*
両演目出演
やまだしげき*/川村美紀子*
*ダンス出演
<東京公演>
管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:ザ・オペラ・クワイア
児童合唱:世田谷ジュニア合唱団
<愛知公演>
管弦楽:中部フィルハーモニー交響楽団
合唱:愛知県芸術劇場合唱団
児童合唱:名古屋少年少女合唱団
▶︎公式サイト
戯曲家・演出家
上田久美子
奈良県出身。京都大学文学部フランス語学フランス文学科卒業後、一般企業勤務を経て、演出助手として宝塚歌劇団入団。『月雲の皇子-衣通姫伝説より-』(2013年宝塚歌劇団月組)で初の脚本・演出を手がける。『翼ある人びと-ブラームスとクララ・シューマン-』(2014年宝塚歌劇団宙組)、『桜嵐記』(2021年宝塚歌劇団月組)で、それぞれ第18回、第25回鶴屋南北戯曲賞にノミネート。『星逢一夜』(2015年宝塚歌劇団雪組)で第23回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。オリジナル脚本での確かな筆力と美しくダイナミックな演出が評価されてきた。2022年、新しく幅広い表現を求めて宝塚歌劇団を退団、フリーランスに。