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2018.08.07

南北首脳会談後の日本。そもそも私たちは何を望むのか【三浦瑠麗の「優しさで読み解く国際政治」】

国際政治学者・三浦瑠麗さんに教えていただく世界の「今」。今回は4月に行われた南北首脳会談から、改めて考えたい「日本が望むこと」について伺いました。

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蚊帳の外か中か、ではない。南北首脳会談後の日本に大切なこと

4月に、韓国のムン・ジェイン大統領と北朝鮮のキム・ジョンウン委員長との間で歴史的な会談が行われました。南北首脳会談自体は3回目ですが、キム・ジョンウン体制になってからは初めて、北朝鮮の最高指導者が韓国を訪れたのも初めてのことでした。 先ごろまで核実験や弾道ミサイル実験を繰り返し、「ソウルを火の海」にし、「日本列島を海に沈め」、「米国を核攻撃する」と言っていた国のトップがカメラの前でニコニコと笑っている。ちょっとリアリティがないというか、奇妙な感覚でした。

かの体制の凶暴さについては、外国に対しては大言壮語の脅しという印象もあるけれど、国内に対する残酷性は本物です。自分の叔父を対空砲で粉々にして処刑したと伝えられています。粛清された幹部は何百人単位で、中には犬に殺させたという話も伝わってきます。脱北者の証言によれば、政治犯とされた者の親類までもが強制収容所に送られます。

イラスト/本田佳世

そんな国と対話してもしょうがないというのは容易いけれど、私が印象的に感じたのはムン・ジェイン大統領が、そんな独裁者を必死にもてなしていたということ。そして、私の韓国人の友人の多くが、懐疑心を持ちながらも式典を「感動的」と捉えていたこと。 北朝鮮の「微笑攻勢」が本当の平和につながるかどうかはわからないけれど、韓国との間の緊張緩和には一定の効果があるでしょう。それは良いことだし、外野がとやかく言えることではありません。最前線に立っているのは韓国であり、最初に犠牲となるのも韓国国民なのですから。

だからといって、南北首脳会談の成果が明確なわけではありません。北朝鮮が合意したのは、朝鮮半島の非核化であって、自らの核放棄ではありません。時間軸のコミットメントもありません。非核化についての本当の当事者である米国との合意でもありません。ミサイルや拉致についての合意もありません。 しかも、今般北朝鮮が使った「朝鮮半島の非核化」なる言葉は、北朝鮮特有の含意があります。そこには、在韓米軍や極東に配置される米軍の核戦力や戦略兵器が含まれると理解するのが一般的なのです。つまり、北朝鮮が脅威と感じるものが撤去されることが、北朝鮮も核放棄の条件であるということです。本来、北朝鮮の暴挙を是正するために始まった交渉が、いつしか、北朝鮮の欲しいものをどんどん具体化していくという倒錯した結果になる。何十年も繰り返してきた北朝鮮の常とう手段です。そもそも、北が本当に核放棄するだろうと思っている専門家はほぼ見当たりません。

そもそも私たちは何を望むのか? それと引き換えに何を妥協するのか?

南北の緊張緩和にとっては良いことで、中長期的な北朝鮮の非核化の観点からは引き続き悲観的にならざるを得ない。そんな総括の傍らで、日本で盛り上がっているのは、日本が「蚊帳の外」であるか否かという点です。安倍政権との距離に応じて、意見が真っ二つに分かれています。 しかし、この点はリアルな期待値を持つべきです。日本は朝鮮戦争の当事国でもないし、核保有国でもありません。日本が関与できる論点にはおのずと限界があります。日本が避けるべきは、「蚊帳の中」にあることを国内に示そうとして北との交渉を焦ること。南北と米朝が交渉を始めた以上、日本はそれを見守るしかありません。焦って勝ち取れるものはそもそも少ないし、日本からの経済援助が喉から手が出るほど欲しい北は、最後は必ず日本と向き合ってくるでしょう。 気になるのはむしろ、蚊帳の外かどうかを論じる前に、そもそも私たちは何を望むのか、ということです。実は、望むことは挙げればきりがありません。朝鮮半島周りで戦争が起きないこと、北朝鮮の非核化、拉致被害者の帰還、軍縮や軍備管理、北朝鮮の人々がもっと苦しまないで済むような体制に変わっていくこと、等々。私たちに今求められているのは、自分たちが本当に欲しいものと、それと引き換えに何を妥協するかを見定める、冷静な思考過程なのです。

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国際政治学者

三浦瑠麗

1980年生まれ。国際政治学者。東京大学農学部卒業。東大公共政策大学院修了。東大大学院法学政治学研究科修了。法学博士。現在は、東京大学政策ビジョン研究センター講師、青山学院大学兼任講師を務める傍ら、メディア出演多数。気鋭の論客として注目される。

Domani7月号 新Domaniジャーナル「優しさで読み解く国際政治」 より
本誌取材時スタッフ:イラスト/本田佳世  構成/佐藤久美子


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