ツイッターが偽アカウントを大量削除。フェイクニュースは選挙をも左右する
ツイッター社が偽アカウントを数千万も削除しました。削除されたのは、「なりすまし」アカウント、フォロワー数水増しのための架空アカウント、スパム拡散アカウント。そして、米大統領選に介入したロシア当局の工作のような政治的なプロパガンダを行っているアカウントです。SNSやインターネットでは、しばしばフェイクニュースや情報を加工する何者かの意図が介在しているということです。
イラスト/本田佳世
ネット広告を出す企業は、利用者のデータから窺える趣味嗜好に合わせ、効果的に消費者にアクセスしています。では、そのやり方を政治的意見に応用したらどうなるか。例えば、食の安全など特定のものに反応しやすい人に的を絞ったフェイクニュースを垂れ流せば、噓の情報で利用者をひっかけることが可能になってしまう。 2016年の大統領選取材中、ヒラリー・クリントンに関する大量のデマの効果を私も痛感しました。サンダース支持者の若者になぜヒラリーを嫌いなのか聞いてみると、ネットに出回っている紋切り型表現が飛び出してきたからです。
「ゴールドウォーター・ガールだった」「ホワイト・ウォーター事件」。前者は、共和党支持の保守的な地域で育ったヒラリーが、熱狂的な民主党員になっていく過程での高校時代の話。共和党のバリー・ゴールドウォーター大統領候補を応援していた過去への批判です。 後者は、夫のビル・クリントン元大統領が1979年にアーカンソー州知事だったときの、別荘地開発に絡んで存在した不正融資疑惑。その捜査のために’94年から任命されたスター独立検察官は、党派的で執念深い人間でした。潤沢な資金を利用してクリントン夫妻への個人攻撃やスキャンダル発掘など政治的な思惑にのめり込み、国政を妨害し、非難が沸き起こりました。
結局、6年に及んだ捜査の結果として有罪の証拠はなく、今では穏健な人々の間で本件は反対勢力によるプロパガンダとして理解されています。ビルに軽率な点がなかったとは言い切れないが、証拠もないものを針小棒大に言い立てて、国政を妨害した事件だと。米国政治の黒歴史の一部と言えるかもしれません。 自分の不利になる情報は決して認めず、あらゆる手段を用いて相手を貶めようとする。二大政党化したとしても、あれだけは輸入したくないと多くの国が思う政治文化でしょう。党派化と自己正当化は体内に回る「毒」を伴います。米国の例はいつも良いものとは限りません。他山の石とし、積極的に「学ばない」判断力も必要となるのです。 ネットでは疑惑が存在しただけで真っ黒だと決めつけ、陰謀説を唱える人が出てきます。
では、私たちはそうした問題にどのように向き合えばよいのでしょうか。ひとつ明るい材料になる調査があります。富士通総研に掲載された田中辰雄氏と浜屋敏氏の論文です。これまで、ネット利用は政治的思想の分極化を生むとされてきました。党派化した米国では、データによる裏付けもあります。しかし、本調査によれば、日本においてはネット利用による分極化はさほど進んでいません。メディア利用のあり方や性別、年齢などによる人々の意見の偏りを調べた結果、最も意見が過激化しやすいのは、年齢が高い人であることがわかったのです。SNSを用いているから過激化するということもなく、むしろブログを読み始めた人たちは穏健化していくという結果も出ました。
つまり、若い人はネットを当たり前のように利用していますが、だからといって党派化することもなく、ネットがむしろ情報の多角化にプラスに働く場合もあるのだということです。 言い換えれば、米国ほど党派化していない日本では、若者や多数派は穏健であり、凝り固まった思想になっていない。私はこれを優柔不断と見るのではなく、さまざまなジレンマの存在を理解しているからだと解釈しています。心が広く、合理的に説得ができ、他者の立場に立つことができる…というのは純粋にいいことです。日本の恵まれた部分を活かしながら、少しずつ明日を良くしていく、そんな作業が求められています。
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国際政治学者
三浦瑠麗
1980年生まれ。国際政治学者。東京大学農学部卒業。東大公共政策大学院修了。東大大学院法学政治学研究科修了。法学博士。現在は、東京大学政策ビジョン研究センター講師、青山学院大学兼任講師を務める傍ら、メディア出演多数。気鋭の論客として注目される。
Domani10月号 新Domaniジャーナル「優しさで読み解く国際政治」 より
本誌取材時スタッフ:イラスト/本田佳世 構成/佐藤久美子