【目次】
女性の活躍を妨げているものは?
オンラインでも受講でき、実務に役立つと人気のビジネススクール「グロービス経営大学院」。ワーキングママも増え続けており、スクール内には公認「グロービス・ワーキングマザー・クラブ」もあります。
この「グロービス・ワーキングマザー・クラブ」と、製薬関連会社勤務の方々でつくられる「製薬ビジネスの会」により、これからのワーママについて考えるトークイベントが開かれました。
テーマは『国の視点×民間の視点で考える男女共同参画』。まず「国の視点」から現状を語るのは、内閣府男女共同参画局長の池永肇恵(としえ)さん。国の政策がどのように進んでいるか、お話がスタートしました。
お話のポイント
・女性就業者数は増加中。でも上場企業に占める女性役員はたった4%
・女性の賃金水準は、男性の約75%という事実
・第一子出産後の就業継続率がようやく53%に
・投資家も注目する女性活躍推進企業
▲内閣府男女共同参画局長の池永肇恵(としえ)さん。1983年東大教養卒、1987年旧経済企画庁に入庁。2016年滋賀県副知事に。2018年7月より現職。
女性の活躍は広がったけれど、賃金は男性より25%も低いという現実
「安倍内閣が発足したとき、女性の活躍に力を入れようと総理が明言して旗を振ったことは、みなさんも記憶にあると思います。これにより、状況はずいぶんと改善されてきました。まず、2012年から2017年の間に女性の就業者数が201万人増員し、上場企業の女性役員数はこの6年で2.7倍に。総理自らが「上場企業に必ず女性役員をひとりは入れてくれてください」言ったこともあり、ここまで増えましたが、それでも目標としている10%にはまだまだ遠いのが現実です。
では、女性役員が増えることが、どう企業に影響するのでしょうか。実は、「女性が意思決定に関わる女性取締役のいる企業はいない企業に比べ株式パフォーマンスがいい」といった調査結果があります(CreditSuisse2016年4月“performance update:The CS Gender 3000: Women in Senior Management“による)。
これは決して、女性の役員の数を増やせば業績が上がるというような単純なものではありません。さまざまな視点をもった、さまざまな立場の人が会社の意思決定に関わっているということ、またそういった風土があることは、イノベーション(改革)の新たなアイディアを生み成長するからだと考えられます。
一方で、女性の就業は増えたけれど、賃金格差は依然として存在しているという事実もあります。男性賃金を100とすると女性の賃金水準は75.7(平成29年・正社員で比較。厚生労働省『賃金構造基本統計調査』より)。勤続年数で決まる「職階」といわれるものが大きな要因で、多くの女性が介護や育児で休職や離職をしている今の現実では、女性が賃金面では低くなってしまうのが現実です。
では、男性との家事育児の分担については、どうでしょうか。下のグラフは国際比較で、6歳未満の子どもをもつ夫婦の家事育児の関連時間です。右側が夫で、グラフの黄色い部分が男性の家事育児関連時間。日本の場合すごく少ないということがひと目でわかります。
▲総務省「平成28年社会生活基本調査」、Bureau of Labor Statistics of U.S. “American Time Use Survey”(2016)
および Eurostat“How Europeans Spend Their Time Everyday Life of Women and Men”(2004)より作成。
その原因は、どこにあるのでしょう。男性の育児休業取得が増えたとはいえ、現実はまだ5%程度(民間企業の場合。平成29年)。これにはふたつの大きな要因があると考えられます。ひとつは、特に男性にみられる長時間労働という働き方の問題。もうひとつは、家事育児は母親が担うべきだという意識が、男性にも女性にも強くあるということ。そういったことから、日本では依然として、男性の家事や育児参加率が低いという状況があるのです。
このような背景もあって、2005年から2009年までは第一子出産後の女性の就業継続率が約4割しかなくて、半分以上が辞めていました。男女共同参画の計画では、第一子出産後の『就業継続率55%』を目標にしていて、2014年まででようやく継続率53%に上がってきたところです」
女性の活用を投資家も注目する時代
「平成27年に公布された女性活躍推進法では、取り組みが優れた企業に対して、通称『えるぼし』という厚生労働大臣の認定を受けることができるようになりました。認定は、評価項目を満たす項目数に応じて3段階あり、認定を受けた企業は、認定マークを商品や広告、名刺、求人票などに使用することができ、女性活躍推進事業主であることをアピールできるものです。
その企業がどんな企業でどのような取り組みをしているか、『見える化』することによってさらに促していこうと考えです。これにより、女性活躍を推進しているという観点から、商品の価格以外でも企業を評価する、ひとつの基準になると思っています。
今は、『EGS投資(環境(environment)、社会(social)、企業統治(governance)に配慮している企業を重視・選別して行う投資)』に関心が集まる時代。こうしたダイバーシティが進んでいる企業、さらに女性役員がいる企業に対しては、リスク対応能力、意思決定の多様性などで、企業の収益能力に有利に働いているととらえられます。それは投資家も重視する傾向にあって、まさに今の流れではないでしょうか。
とはいっても、現実は『増やしたいけど人がいない』『女性は管理職になりたがらない』という声をよく聞きます。意欲はあっても現行の働き方の中で、どうやって仕事と実生活を両立させるか、イメージわかない。またモデルとなる女性の管理職が少ない。それが現実ではないでしょうか」
「経験がない」「自信がない」を克服するために
「企業側からよく聞く、『(管理職になるのにふさわしい)経験のある人がいない』という声。これは、経験を与え育ててこなかった側の責任です。ですから、今後女性の活躍を進めていく、つまりは大きな責任をもってより会社経営に関わってもらうためには、企業において経験を積んでもらう工夫が必要であり、政府も応援してまいります。
内閣府では、女性の役員候補者を育成するため、「女性リーダー育成事業」を行っています。2017年度は2地域、2018年度は3地域と大学1校で実施し、6回のプログラムを履修していただき、知識と意識をもってもらうとともに、お互いに学んだり相談できるネットワークづくりにつながればと考えています。また研修修了者で同意いただいた方のリストを内閣府HPに掲載しています。
○2018年度「女性役員育成研修」プログラム概要(受付は終了)
――池永さんのお話はとても優しく穏やかではあるけれど、女性の活躍は待ったなしの日本の課題でもあるという強い思いが込められています。女性が企業での活躍シーンが広がることは、多様な価値観が企業の経営に反映されること、そして企業の競争力や社会的評価につながるということ。次回は、そのために必要な「男性の意識改革」についても、池永さんの話しをお聞きしながら考えます。
南 ゆかり
フリーエディター・ライター。10/3発売・後藤真希エッセイ『今の私は』も担当したので、よろしければそちらも読んでくださいね。CanCam.jpでは「インタビュー連載/ゆとり以上バリキャリ未満の女たち」、Oggi誌面では「お金に困らない女になる!」「この人に今、これが聞きたい!」など連載中。