プロダクトデザイナーとして、地方の〝ものづくり〟産業の現場の底上げは、デザインの力によるサポートだけでは難しいことを痛感。 営業や販売のためのマーケティング戦略、 円滑なコミュニケーションもおこたらないなど、マルチな視点で考慮し、尽力しています 。
今月の妻:辰野しずかさん
プラスエスティー +st 代表、プロダクトデザイナー、 アートディレクター・34歳 
工芸の魅力を国内外に伝えることで、日本が元気に見えてほしい
今年の初夏、表参道・スパイラルのコミュニケーションスペースを、辰野さんが手がけた6種の工芸品のプロダクトが彩った。琉球ガラスのアクセサリーや、備前焼のウォーターカラフェ、富山の吹きガラスの器、津軽焼の鳩笛など。近年、地場産業で長年ものづくりを営んできた職人や中小企業が、活力を求めてプロダクトデザイナーと組み、地方創成を目ざす気運が高まっている。
辰野さんはデザインの力で伝統工芸に新たな魅力や価値観を加え、日本のものづくりの素晴しさを国内外に伝えていくべく邁進中だ。「初めての仕事は、京くみひものストラップ制作でした。姉の友人が京都でくみひもの会社に勤めていて、その方からのご依頼がきっかけです。基本的に私の仕事は〝自分がデザインしたいものを形にする〟のではなく、〝困った〟というニーズに対して、デザインで課題解決を提案するスタンスをとっています。
たとえば伝統工芸品を〝今とは違う形にしたい〟と希望される職人さんがいらしたら工房にうかがって、制作の現状や悩みについてお聞きするところから始めます」 ただし、新たな作品を生み出すことだけがゴールではない。売り上げに着実に結びつくよう、ヒアリング後はターゲットを見据えてコンセプトや世界観を練り、そこからデザインを発案し描き起こす。工房の職人に依頼して商品を形に仕上げ、必要とあればパッケージやパンフレットなど効果的なパブリシティツールまで自身でつくって提案する。
作品を送り出すことで工芸の世界が元気になること。 そこまで含めて自分の仕事と捉えているのだ。 だが、まだ歴史の浅い試みだけに、想定外の困難も少なくない。たとえばデザイナーの介入を疎ましく感じるメンバーがいるために身動きがとれなくなったり、デザインしたパッケージに違う商品を入れて出荷されてしまうなど、想定外のストレスもつきまとう。
「企画の運び方を一歩間違えると、これまで携わってこられた方の人生を否定してしまい かねませんので、そこにも心をくだいてきました。でも頑張っているのに、なかなかうまくいかない。本当にこのまま続けていていい んだろうかと、葛藤してもいたのです。それだけに昨年賞をいただいたときには〝ああ、 間違っていなかったんだ〟と、思わず号泣(笑)。 海外での仕事も増え、以前とは状況も変わっ てきました。
長年の苦労を知る夫は、半分心配しながら応援してくれています。今はお互い、仕事重視。休日をまる1日休めないこともありますが、たとえばすきま時間ができたらお弁当をつくって一緒に公園で食べるなど、〝時間の共有〟を大切に過ごしています」
たつの・しずか/1983年生まれ。兵庫県出身。 東京・表参道で育ち、デザインが好きで英国のキングストン大学プロダクト&家具科に留学、首席で卒業する。帰国後、デザイン事務所へ就職。27歳で結婚、翌年事務所設立。地方のものづくり産業へのデザイン提供を始める。昨年『エ ル・デコ』日本版の「ヤング ジャパニーズ デザイン タレント賞」を受賞。旅が好き。
Domani9月号 女[独身]、妻[既婚子供なし]、母[子供あり]」Catch!働くいい女の「月曜10時半」より
本誌撮影時スタッフ:撮影/真板由起( NOSTY) ヘア&メーク/今関梨華( P-cott ) 構成/谷畑まゆみ