泥だらけで作業する自分がすごく自分らしいと思えて
イギリス留学を考えたのは、花や植物に関わる仕事を調べているときでした。検索するうちにどうしても見てみたい風景に出合ったのです。それがイギリス西部の緑豊かな湖水地方、コッツウォルズのガーデンでした。
こんな夢みたいにきれいな庭が本当にあるんだ。行ってみたいけど働くのは絶対無理だろうなと思いながら検索をしていたら、ガーデニングのインターン募集をしている古城を見つけたんです。これは!と思ってすぐ申し込みました。
行ってみると、インターンは私ひとりでガーデナーは5人。体育館1個分の庭が8つもあるような中世の古城で、毎日走り回るようにして雑草を抜いたり植物に水やりしたり、芝刈りやバラのメンテナンス法を習ったりと、毎日あわただしく過ごしていました。
そのときにふと、“ああ。私、数か月前とは全然違うことをしているな”と思ったんです。
少し前までは用意されたきれいな服を着て、メークをしてもらって、渡された台本を手にカメラの前で笑っていた自分が今は泥だらけで地面を這いつくばるようにして庭仕事をしている。あまりのギャップに思わず笑ってしまいました。
鏡を見たら髪はボサボサ、化粧もろくにしてない顔には泥までついている。でも、なんだかそんな自分がすごく自分らしいと思えたんです。
それまでずっと、周囲の期待に応えたいと思いながら務めてきました。でも自分自身のために仕事をするってこういうことなのかと、そのときはっきり感じました。これを一生の仕事にしたいと強く思えた瞬間でした。
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フラワーアーティスト、 SUDELEY代表
前田有紀
1981年、神奈川県生まれ。テレビ局勤務を経て32歳で退社、渡英。イギリスでガーデニングのインターンなどを経験する。帰国後に東京・自由が丘の生花店「ブリキのジョーロ」で花の仕事の修業。34歳で結婚。35歳でフラワーアーティストとして独立、長男を出産。現在はオリジナルフラワーブランド『gui』を展開し、イベント出店や空間装飾・装花、ウエディングからディスプレイまで手がけている。
構成・文
谷畑まゆみ
フリーエディター・ライター。『Domani』連載「女の時間割。」、日本財団パラリンピックサポートセンターWEBマガジン連載「パラアスリートを支える女性たち」等、働く女性のライフストーリー・インタビュー企画を担当しています。