怒らなくても伝わる「声かけ」
私は3人の子どもたちの子育て真っ最中。子育ての傍ら、「楽々かあさん」として発達障害&グレーゾーン子育てのコツやアイデアなどをシェアする活動をしています。
そんな私も以前は怒ってばかりで、毎晩かわいい子どもたちの寝顔を見ては「今日も怒ってしまった」「優しくできなかった」と反省を繰り返す日々を送っていました。
その状況をなんとかしたくて、独学で試行錯誤しながらさまざまな子育て法の実践と軌道修正を繰り返してきました。その中で見えてきた、うちの子のための声かけのコツを一覧表にしてまとめた「声かけ変換表」が2014年にネット上で拡散し、反響を呼びました。
そのとき私が感じたのは、「うちの(ちょっと世話が焼ける)子どもたちに伝わりやすい方法は、どんな子にも伝わりやすいんだな」ということ。怒らなくても、ちゃんと伝わる声かけや工夫はいくらでもあるんです。
以前の「声かけ変換表」をご存じない方も多いと思いますので、ここで今回新たに作った「声かけ変換表」をご紹介します。
(出所)『発達障害&グレーゾーン子育てから生まれた 楽々かあさんの伝わる! 声かけ変換』
この「声かけ変換表」は「毎日の子育てを少しでもラクできれば」という思いから作ったものですが、使い方にはいくつかポイントがあります。
声かけ変換実践のための4つの心得
その1:子どもとの自然な会話を楽しむ
まずは、お子さんといつもどおりの自然な会話を楽しんでください。子どもを「毎日24時間、肯定的な温かい言葉で包んであげなきゃ……」なんて頑張らなくていいんです。
残念ながら、世の中そんなに優しい言葉で満ちあふれているわけでもありませんし、親だけがひたすら我慢して、自分の感情を抑えつけても、結果的に家族のためになりません。
「なんだかうまく伝わらないな」と思ったときだけ、声かけ例をヒントにしていただければ十分です。
その2:変換できなくても頑張っていることは同じ
もしも、BEFOREの声かけが出てしまっても「私はダメな親だ」なんて、自分を責めないようにお願いします(ちなみに、BEFOREの声かけもすべて、私自身経験済みです)。
AFTERの声かけは、決して「いい親」の例ではありません。声かけ変換できてもできなくても、あなたが毎日子育てを頑張っていることに、なんの変わりもありません。
でも、一日中怒ったり、親子で気持ちがすれ違ったりしてばかりだとお互いにしんどいので、もうちょっとラクして効率よく子育てする「省エネ術」だと思っていただければ幸いです。
子育ての正解は1つではない
その3:お子さんに最適な声かけは自分で見つけること
突き放すような言い方ですみませんが、私はあなたのお子さんのことは、まったくわかりません。「声かけ変換表」に載っているのは、あくまで「うちの子用」の声かけと私の経験則を基に、より多くのお子さんに応用しやすいようにまとめたものです。
でも、子育ての正解は1つではありません。「その親子にとっての正解」は、子どもの個性×親子のカタチの数だけ無限にあるはずなのです。ですから、お子さんに最適な声かけは、試行錯誤しながらご自身で見つける必要があります。
でも、お子さんの専門家のあなたなら、きっと大丈夫です。お子さんのことはあなたがいちばんよくわかっているでしょうし、お子さんもまた、ほかの人のどんな言葉よりも、あなたからの言葉を待っているでしょうから。
その4:お子さんと同じくらい、自分のことも大切に
実践にあたって、決して無理はしないこと。ただでさえ毎日大変なお母さん・お父さん。「しんどいな」というときは、遠慮なく、いったん休んでください。そして、一人ですべてを頑張らずに、パートナーはもちろん、誰でもいいので頼れる人には頼ってほしいと思います。
でも、誰かに子守りは頼めても、「親」だけは誰にも代わってもらえないのが、本当に大変ですよね。
だけどそれは、お子さんにとって「お母さん」「お父さん」は世界でたった一人、あなただけだからです。それだけあなたは、かけがえのない大切な存在なのです。
ですから、どうか、お子さんと同じくらい、自分のことも大事に、大切にしてください。
子育てのための「声かけ」ですから、ついお子さんのことばかり考えてしまいがちですが、その前に大事なのが「声かけ」をする親自身の心の準備とケアなのです。
自分の心をラクにする「声かけ変換」
次は、自分の心をラクにする「声かけ変換」をいくつか紹介しましょう。自分に優しくできなければ、お子さんに優しくなんてできませんから……。
完璧な親は目指さない
まず大事なのは「完璧な親を目指さない」こと。「絶対に怒らない育児」は生身の人間には無理なので、さっさとあきらめるべし!
ただし、(以前の私と同じように)毎日怒りっぱなし、怒られっぱなしの状態だとお互いにしんどいので、そこさえ脱出すればOK。
(出所)『発達障害&グレーゾーン子育てから生まれた 楽々かあさんの伝わる! 声かけ変換』
「また怒っちゃった」は以前の自分比で10~30%程度カットを努力目標にして、それ以上は「しゃあない、しゃあない、あるある」とあきらめてしまうのが現実的です。
親だって人間だし、人間には感情があります。当たり前のことなのに、みんな忘れてますよね。身体に悪いので、「ひたすら我慢する」は親も子もナシで!
だって、子どものことを思えば思うほど、思い通りになんかならないんですから、そりゃあ、イライラもするし、腹も立つでしょう。「親のイライラ」は責任を持って一生懸命子育てしている証拠。家族みんなが元気なら、それだけですでに満点です。
理想の親から離れる
「完璧な親を目指さない」と同様に大事なのが、「理想の親から離れる」です。
(出所)『発達障害&グレーゾーン子育てから生まれた 楽々かあさんの伝わる! 声かけ変換』
親の時間・体力・気力・財力などにも限界がありますし、その人それぞれの個性によっても、「どうしてもできない」「頑張っても無理」なことはあります。親から子への愛情が無限に永遠に湧き続けることなんて、私には素敵なファンタジーのように思えてなりません。
残念ながら、どんな人でも、どんなに頑張ってもできないことはあります。親にも子にも他人にも、「努力では乗り越えられないこと」はあるものなんです。
だから、もしも今、精いっぱい子育てを頑張っているつもりなのに、「ちっともうまくいかない」「結局怒ってしまう」「子どもを可愛いと思えないときがある」なんてことで、自分を「ダメな親だ」と責めている方がいたら、どうか「自分は頑張りすぎている親だ」と思い直してほしいです。
そんな方が今本当に必要なのは、これ以上の努力ではなくて、休息・息抜き・手抜きなのかもしれません。
イライラと付き合う
最後は、イライラへの自分なりの対処法を持っておくことです。
(出所)『発達障害&グレーゾーン子育てから生まれた 楽々かあさんの伝わる! 声かけ変換』
それでも、こちらがどれだけ疲れていようが「ママ、これして、あれして」と、子どもは容赦してくれませんよね。そんな時親ができることは、反省ではなく「昼寝」です。
人間誰でも、疲れるとイライラします(私もです)。ましてや、親の思いどおりになんかならない子育て中。さらには、仕事やきょうだい育児、障害のある子の子育てなどをワンオペで担うしかない状況なら、なおさらでしょう。
「イライラしてはダメ」ではなくて、「そんなときはどうすればいいか」に目を向けるのが現実的でしょう。まずは「今、私、イラッときているな」と自覚し、「かあちゃん、疲れてるから寝てくるね」と、子どもに一言声かけして、その場をさらっと離れ、少々休むのがいいでしょう。
子どもが追いかけてくるかもしれませんが、それでも、休むと言ったら休むべし。これが習慣になると、子どもも次第に「そういうもの」と理解してくれます。
クールダウンするためのポイント
昼寝以外にも、イラッときた時にクールダウンできる、ちょっとした小技はいろいろあります。
・ フーッと長めに息を吐いて、一呼吸(ため息とも言う)
・ トイレ休憩(子どものかわいい写真を置いておく)
・ 軽くストレッチ(首や肩を回す、伸びをする)
・ 顔を洗う、ハミガキをする
・ 窓を開けて換気する
・ 単純で単調な動きの家事(皿洗い、洗濯たたみ、コゲ落とし、草むしり、空き缶つぶしなど)を、無心で淡々とこなす
・ 水・お茶を1杯飲む
ポイントは、一時的に少しだけ、子どもと心理的・物理的に距離を取ることと、感覚的な刺激を自分に与えること。
いよいよ思い詰めてしまうと、「子育てしていると、一日中まったく気が休まらない」「片時も休めない」なんて気がしてきますよね。
でも、深呼吸くらいのことなら、いつでも、自分の意志とタイミングでできる気がしませんか。冷静に見渡してみたら、お茶を1杯飲む時間くらい、見つかるはずです。
コロナ禍でいつも以上にお子さんと接する時間が長くなる夏休み。「声かけ変換」が毎日の親子コミュニケーションを少しでもラクにするヒントになれば、うれしいです。
『発達障害&グレーゾーン子育てから生まれた 楽々かあさんの伝わる! 声かけ変換』
楽々かあさん
大場 美鈴(おおば みすず)
1975年生まれ。うちの子専門家(専業主婦)。美術系の大学を卒業後、出版社で医療雑誌の編集デザイナーとして勤務し退社。実父の介護とうつを経験後、結婚。3人の子宝に恵まれる。長男(小4)はASD+LD+ADHDで、通常学級在籍。次男(小2)、長女(年中)はいくつか凸凹特徴のあるグレーゾーン。2013年より、Facebookなどで管理人「楽々かあさん」として、育児の傍ら、発達障害育児に役立つ支援ツールの制作と、日々の子育てのアイデアをシェア・情報発信する個人活動を開始。「声かけ変換表」がネット上で約14万シェアを獲得するなど拡散し話題となり、雑誌「kodomoe」や「grape」「Spotlight」などのネットメディアに掲載多数。
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