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EDUCATION 教育現場より

2024.02.14

留学は経済力や成績がないとムリ?子供が3つの格差を飛び越えて留学に行くべき理由【お受験ママの相談室vol.19】

いつか子供に留学は行かせたいと思うものの「留学なんて、お金がかかるしうちは無理」。「どうせ成績が良い子のためのものでしょう?」「英語がペラペラじゃないと行けない」。そんなイメージをもっているかたも多いのではないでしょうか。今回は、そんな思い込みを払拭させてくれる奨学金システム「トビタテ」についてご紹介します。

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第19回:「留学」って経済力や成績、英語力がないとムリ?

〈お話を伺った方〉
文部科学省トビタテ!留学JAPAN プロジェクトディレクター 荒畦 悟さん
茂垣 諭さん・聖さん親子(「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」派遣留学生)

聞き手・原稿:教育エディター 田口まさ美
Instagram:@masami_taguchi_edu

 

茂垣 聖さんと留学時のスクール

田口:「留学なんて、お金がかかるし、うちは無理」。「奨学金は、どうせ成績が良い子のためのものでしょう?」「英語がペラペラじゃないと行けないよね」そんなイメージをもっているかたもいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、そんな思い込みを払拭させてくれる留学支援奨学金制度「トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム」(以下、「トビタテ!」)についてご紹介します。

「トビタテ」は、文科省と産業界が組んで官民協働の奨学金制度で、昨年度までの第1ステージは大学生が多かったですが、昨年からは高校生の募集人数比率を大幅に増やして注力しています。語学力や成績の条件もありません。また、高校生の過去の採用倍率は約3倍とそれほど高いとは思いませんので、お子さんも夢ではありません。応募資格は高校生以上となりますが、まだお子様が小さいご家庭でも、このような可能性を念頭に入れながら過ごしていただければと思います。

お話を聞いたのは、トビタテ!設立当初からのプロジェクトディレクター荒畦悟さん(※文中「荒畦」と、実際にトビタテ!を利用して2週間のカナダ留学をした茂垣聖さん(高校2年生※文中「聖」)、そのお父様(茂垣諭さん※文中「父))、です。

――聖さんが留学に行ったきっかけはなんだったのでしょう?

茂垣諭さん(以下:父):始まりは鹿島アントラーズ・サポーターが企画したイベントでした。鹿嶋の高校生を集めてトビタテ!卒業生が行う説明会のイベントがあったんです。私は、鹿嶋市役所に務めていて、行政の立場として「何か市にプラスになることはあるかな?」くらいの気持ちで話を聞きに行きました。そしたら、トビタテ卒業生たちが、みんな魅力的で、話もとっても面白かったんです。留学から帰ってきてもこうしたネットワークができるのは、とてもいいなと思いまして。それで、もし身近に留学に行ってみたい子がいたら紹介しようと思い、高校生の娘に「誰かいないか」と聞いたんです。

左から田口さん、荒畝さん(トビタテ)、茂垣さん親子▲左から田口、荒畝さん(トビタテ!)、茂垣さん親子

空港で振り返らない娘、取り残される父と母の家族劇

――聖さんは、最初に留学の話を聞いてどう思いましたか?

茂垣聖さん(以下:聖):父からトビタテ!の話を聞いて、サイトを見てみて、面白いなと思いました。でも、留学って高校生のイメージがなくて、もっと大人になってから行くものだと思っていました。でもトビタテ!のサイトの中に「留学大図鑑」というコンテンツがあるのですが、そこでいろんな人の体験談を読んでみて、留学したい!っていう気持ちに、徐々になっていった感じです。

参考:文部科学省|トビタテ!留学ジャパン「高校生の留学」
参考:文部科学省|トビタテ!留学ジャパン「留学大図鑑」

体験談には、同い年の子たちもいて、体験したこと、発信している姿がキラキラしていて“かっこいいな”と思って。最初は、トビタテ!の理念である「日本にイノベーションを起こす」だなんて、大きなことを考えていたわけではなくて。

ただ海外で視野を広げて、いろんな価値観や考え方に接してみたいなと思いました。私は脳神経医療に興味があるのですが、研究とは、違うバックボーンを持った人のあらゆる考え方に触れることで、思いもよらない進化するものだと思います。ですから、海外に行っていろんな価値観触れることは、絶対に将来役立つんじゃないかなと考えました

――素敵です!その通りですね。「多様性こそ、革新の源」という考え方はアメリカの一流大学ではとても重要視されていて、今の時代に最も重要なキーであるという記事を書いたところです。

父:私は、娘が自分が行きたいと聞いた時は「え〜!? おまえが??」って感じで。紹介して、とは言ったけど、まさかうちの子が?という感じでした。おばあちゃんの家にも一人で泊まったことのない娘を、まさか海外に出すなんて、考えてもいなかったんです!(笑)

聖:こちらは、「お父さんが自分で言ったんじゃん!」って感じでしたけど(笑)。

茂垣さん親子

父:そうなんですけどね…(汗)。妻も、「トビタテ!ってなになに?大丈夫なの?!」なんて感じでした。それで「行きたいなら、手続きは全部自分でやりなさい」と言ったんです。エージェントを見つけるのも、打ち合わせも全部自分で。それくらいできないと海外なんて行けないと思って、ハードルを高く設定したつもりでした。途中で泣き付かれると鷹を括っていたのですが、結果、全部一人でできてしまいまして。

「アレ?やれちゃった〜」って感じでした(笑)。保険の手続きとクレジットカード作成以外は、娘が全てのことをやり、「いついつまでに費用振り込んでね」なんて言われて「あ〜、そっか〜」と(苦笑)。

聖:エージェントとやりとりは、電話とかも得意じゃなかったので、LINEで相談したりして数社に見積もり出してもらって、最終的に一番親身になってくれたところに決めました。 

――トビタテの事前審査のための応募書類はたくさんありますよね。大変ではなかったですか?

聖:私の場合は、苦じゃなかったです。自分の留学に行きたい気持ちを伝えようと思って書いたら、意外と楽しめました。自分のなんとなく思っていた気持ちが、書くことでどんどん明確化されていった感じで。それより、パッキングが、大変でした(笑)。今までは家族旅行の際など、母が最終的なチェックはやってくれていたので、全部自分一人でやってみたら「あと他に何を入れるんだっけ〜?」って(笑)。

荒畦:応募書類は、高校生には大変な量ですよね、すみません(笑)。実際に多すぎると文句を言われたりもします(笑)。ですが、これがなかなか意味のある書類作成だと思っていまして、留学に関係のない生徒でも、書いてみると、留学に興味持つ人もいるし、学校の先生曰く、自分の内面や進路について見つめられるという教育的効果もあるようなんで、ぜひ取り組んでいただきたいと思います。

父:書類審査に合格して、2次審査の面接の時に使う資料を娘が作っているのを見ながら「パワポ、使えるんだー」とか「こんなこと考えてるんだー」と、驚いてしまいました。資料は本人なりに戦略っぽいものを考えていることが伝わってきて、感心しました。でも、きっとすごい子たちが集まるんだし、まさか受からないだろう、と思っていて、「選考に落ちたとしても、十分いい経験だな」と捉えていたんです。それが、まさか本当に受かって行っちゃうとは…!

受かった後も、 “たった一人でカナダまで?” “成田でバイバイ”なんて、本当にできるのかな!?”という思いは、ずっと持っていましたね。

空港には妻と息子とで見送りに行ったのですが、妻から「お父さん空港で号泣しないでね」と念を押されていたので、自分が感極まって泣いてしまった時用に、とハンカチを忘れずに持参したんです。

ところが、空港に着いて、いよいよお別れの時が来て、「じゃあね」と言って、ふと隣を見たら、なんとあんなに私の心配をしていた妻が号泣していたんです(笑)!妻のそんな姿に、私もびっくりしちゃって、急いでバッグに入れたハンカチを探しているうちに、娘は振り返らずに行ってしまって。気づいたら夫婦ふたりで取り残されていました(笑)。

――オモシロすぎます(笑)。家族ドラマですね〜!取り残される親の気持ち、よくわかります。でも子供って、振り返らないんですよね。頼もしいですね。

父:仕方なく飛行機が飛び立つのを、ふたりでフェンスを握りしめて眺めました(笑)。帰宅してからは、パソコンでフライトレコーダーもチェックしていました(笑)。

聖:弟から「お母さんが号泣してる」ってLINEをもらって、ちょっと面白かったですが(笑)。そんなお母さんのために、留学中は毎日1回寝る前に、その日撮った写真を送るようにはしていました。

父:体調と治安のことが一番心配でしたが、妻から「あまりLINEしないように。親から離れたいんだからね!」って言われていて…我慢しましたね。カナダとは時差があるので、いつLINEが来てもいいように、通常はマナーモードにして寝るのですが、娘の留学中だけはマナーモード解除(笑)。でも、実際には何かあっても、駆けつけられる距離にいるわけではないので、冷静に考えると意味ないんですけどね。

――偉いですね!あるエージェントの話では、LINEや電話を我慢できない親が多いそうです。気持ちはわかりますが、せっかく英語圏で一人で頑張っているので、あまり頻繁に親から連絡するのは控えるのも応援のひとつかもしれませんね。

“海外にいる自分”で思い切り行動できた2週間、帰国後は「違う自分」に成長

――聖さんは、どんな2週間を送ったのですか?

聖:基本的に、午前中は語学学校、午後自由時間でした。自由時間にはサイエンスワールドというバンクーバーにある科学博物館に行ったり、私は脳神経の研究に興味があるので、脳神経系のクリニックにインタビューに行ったりもしました。

クリニックの取材は、行く前にメールやインスタグラムで手当たり次第にアポを取ろうとしてみましたが、返事が来たのはたったの1件でした。本当は、脳神経内科のある大病院を取材したかったのですが、カナダはマリファナの使用が合法であるため大病院には中毒患者が搬送されてくることが多いようで、「未成年が一人で大病院に入ることは止めた方がいい」と断られることが多かったです。そんなところも日本との違いを感じました。

返事をいただけたクリニックには日本語を話せる医療通訳者が派遣されていまして、その派遣会社と現地に行ってから、やりとりしていたのですが、取材日の直前にスマホの不調もあり、連絡が取れなくなったりして、約束していたのにどうしよう!とパニックになりました。結果的には、派遣会社を経由してやっと繋げてもらってリスケしてもらいました。

インタビューでは、安楽死について聞きました。カナダでは、日本と違って積極的安楽死が合法です。利用者は結構いて、ちょうど安楽死についての本も読んでいたところだったので、興味深く聞くことができました。そもそも、医療通訳という仕事があるのも、多国籍のバンクーバーらしいですよね。 

――他に、留学だからこそできた経験とは?

聖:トビタテ!の友達と偶然にも語学学校が同じで、一緒に図書館に行って医療系の本を探したり、協力して街頭インタビューをしたりしました

街頭インタビューなんて、日本にいたら多分できなかったけれど、海外だったのでできちゃいました!ただ真夏のビーチに行ったので、あまり真面目な回答は得られなく。完全に場違いでしたね(笑)。でも、そんな失敗も良い経験です。

わからないことがあっても、日本だったら知らない人に聞いたりできませんが、留学中はいろんな人に声をかけていて。バスとか電車で隣になった人にも声をかけられて、仲良くなったりもしました。日本にいるときの自分と、海外にいるときの自分は違う感じがして、出発前と帰国後の自分も確実に変わりました。ハプニングや失敗も含めて、有意義だったと感じます。

今回行ってみて、トビタテ!の仲間がいたからこそ、留学中も経験できたことが豊富になったのでカナダに行ったこと以上に、トビタテ!のコミュニティに入れたことが自分の成長につながった、とさえ感じています

父: 地方にいると特に、繋がれる人的ネットワークが限られてきます。今はオンラインもありますが、リアルでこれだけ幅広い人に出会えることはあまりないですよね。良い経験させてもらっています。

――留学から帰国した後もトビタテ!派遣留学生のコミュニティの強さや豊富さは、トビタテ!に参加する大きなメリットですね。

荒畦: コミュニティ作りにはこだわりがありまして、トビタテ!では、留学前も帰国後にもコミュニティ活動があります。留学前のオリエンでは、自分の人生の振り返りや自己開示をしながら交流する研修機会を通じて、トビタテ生同士の精神的な安心安全の場を通じて、本音と本気で交流できる関係性を作っています。帰国後は留学の振り返りをしたりして、いろんな国に行った子たちとつながります。

高校生・大学生と全部合わせたら年間100回以上イベントがあります。この同窓組織が「とまりぎ」という名前で、全国の地域別に存在しています。それぞれにコミュニティ運営者がいて、各100名くらいの組織になっており、歓迎会、花見会、勉強会、交流会などで、縦横斜めのつながりを作っています。

留学で素晴らしい経験をしたあとは、その経験を社会に還元していくことも大切にしているので、「とまりぎ」でできた仲間たちと手を合わせ、社会に価値を還元していくことも推奨しています。

普通の生活を送っていた私が、ロールモデルになりたいと思うまで

聖:留学前は、普通に受験して、部活してという生活を送ると思っていたのですが、最近はトビタテ!のエバンジェリスト活動として、仲間と「文科省に行って体験談を動画配信しよう」などと様々な企画をしています。こんな活動を自分ができていて、またそういった仲間が県外にもできたことが嬉しいです。最初はただ「海外行きたいな」くらいだったのが、今では後輩たちにもこの良さを伝えたいという気持ちが大きくなっています。どうやったら留学の魅力が伝わるのか?など仲間ともよく話しています。

私の高校では周りに留学に行った人が一人もいなかったんです。学校にトビタテ!のポスターは貼ってあるのに、先生も全然知らなくて、私が先生に「トビタテ!とは」の説明から始めた感じでした。

それが、私が行ってからというもの、部活の後輩も今度応募するみたいですし、先生の反応も良くなって、「すごいね!」って言ってくれるようになり、周りも変わってきたのを感じます。

先月は、担任の先生が引率してくださり、千葉県の教育委員会が主催の〈千葉県国際教育交流推進事業の台湾研修プログラム〉にも参加したんです!台湾はIT業界もVR業界も進んでいて、自動運転の電車のコントロールセンターを見学したり、VRなどの最新テクノロジーを学んだりしてきました。

父:一度“一人でカナダ”を経験してしまったら、“引率付きの台湾”なんて「遠足だね!」っていうくらい心のハードルが下がりましたね(笑)。

聖:台湾研修の帰国後には、報告会があり、それにも参加しました。私の研究レポートは「台湾の理数教育から学ぶ日本の理科離れ」としました。日本は理系の女子は“リケジョ”などと呼ばれてマイノリティですが、台湾では女性のエンジニアが世界一多いんです!私も海外のロールモデルをもっと見て、そしていつか自分も日本のロールモデルになりたいという思いが芽生えました。

荒畦:トビタテ!は、医学部志望者や医学部学生が比較的多いんです。なので研究医療、途上国医療、脳神経医学、など多岐に渡って同じ分野を志す仲間ができることも強みの一つです。これからも、仲間と刺激しあって、さらに飛躍していってください。

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