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EDUCATION 子供の進路・学校

2024.03.07

精神科医が教える、親子で受験に向かう親子のメンタルケア【お受験ママの相談室vol.20前編】

 

昨今、小学校受験や中学校受験など、受験の早期化、加熱化が進んでいます。特にお受験が加熱する都市部では子供だけでなく、むしろ親のメンタルも不安定に。子供も親も、健全なメンタルを保ちながら過ごすにはどうしたらいいのでしょうか。精神科医の益田裕介さんから、脳科学的な視点で、お受験にあたる親子のメンタルコントロールについてお伺いしました。

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第20回[前編]:親は子供の受験になぜこうも加熱してしまうのか?

〈お話を伺った方〉
早稲田メンタルクリニック院長 益田裕介さん

聞き手・原稿:教育エディター 田口まさ美
Instagram:@masami_taguchi_edu

 

小学校受験や中学校受験など、受験の早期化、加熱化により、子供だけでなく、むしろ親のメンタルも不安定になりがちな昨今。良い結果を生むためにも、家庭の平和のためにも、親子の健全なメンタルを保つ術は重要事項です。長丁場の受験生活、精神論では乗り越えられません。そこでYouTubeの登録者数50万人を優に超える精神科医の益田裕介さんに、脳科学的な視点から、お受験にあたる親子のメンタルコントロールについて分かりやすく教えていただきました。

益田裕介さん

子供の受験に加熱してしまう親の心理は脳科学的に?

――昨今受験が早期化して、都心では受験熱が加速しています。わが子の受験には、なぜこうヒートアップしがちなのか?脳科学的に説明するとどうでしょうか?

益田:過度に加熱してしまう理由は、一言で言うと、「いい学校に行けば幸せ」と思っているからでしょうね。

物事の受け取り方には個人差があり、大らかな捉え方をする人もいれば、思い詰める人もいますが、一般的に、〈選択肢のバリエーションが少ない人〉が、感情的になったり思い詰めたりしがちです。「他の可能性がない」と思い込んでいるので、この道しかないと思い詰めてしまうんですね。ですから、理由のひとつには、その人の考え得る選択肢の少なさということが言えます。

また他にも、アジア特有の価値観があります。アジア圏はそもそも子供の教育に親が熱心ですよね。欧米諸国は、個人主義なので、親は親、子供は子供という距離の取り方をします。それに比べるとアジア圏は個人よりも家族と言う単位で考えることが多く、親子の距離感も密接、という理由もあるでしょうね。

欧米諸国でも、上流階級では同じような子供へのプレッシャーは無くはないようですが、特に東アジアは「子供は親の願望を叶えるべき」というような儒教的な文化風土もあるので、教育熱心な親が多く、タイガーマザーなどという呼ばれ方もありますよね。このように欧米とアジアでは、子供という概念、学校教育という概念も、かなり違うんですよね。

韓国では、日本以上に加熱っぷりがすごくて、まさに受験戦争です。韓国の精神科医と話をしたりすると、やはり受験絡みの悩みを持つ患者さんは多いようです。そして、その問題の紐を解いていくと、最終的には、お母さんお父さんの問題に行き着くことが多いといった話も聞きます。子供ではなく、親の側に、思い詰めてしまう要因があるわけですね

ですから、最近子供がちょっと疲れすぎていたり、感情的になっていると思ったら、子供の心配よりも、まずはご自身を振り返る必要があるかもしれません

生き方のバリエーションと精神的な負荷の相関関係

――親の側の問題には、どういったものがよく見られるのでしょうか。

益田:例えば親自身も、自分の親から教育的なプレッシャーを受けていたとか、生き方のバリエーションが少ない環境に育ったなどが多いです。医者家系や教員関係で幼い頃から生き方を決められていたとか、親戚付き合いをほとんどしていない家庭で他の大人の生き方を知らずに育ったとか。背景は様々です。子供の相談で来た親自身が、実は発達障害や精神疾患を患っている、というケースもあります

ご自身が、どういった家庭環境で育ち、どんな心の課題を抱えているのかを知ることで、我が子の問題の解決にも導けたりしますので、冷静になって自分を見つめ直してみることは有効です。

自分の中に生き方のバリエーションをあまり持たないこと、つまり「多様性への理解が足りない」ことは、珍しいことではありません。人間は元来、自分が知らない、自分には理解できないような領域があると思うことへの抵抗や、自分が思っているのとは違う価値があるということへの不信感が、とても強い生き物なんです。自分が知っている世界が全てで、正しい、と思い込みがちなんですね。

知人で、中小企業を5社も経営して立派に成功している社長が、「自分は学歴がないからダメな人間だ」とおっしゃるんです。確かに彼の妹さんは東大卒で高学歴なんだけれど、全く働いてはいなくて、結局その社長が両親の面倒を全面的に見ているのですが、両親からも「お前は東大に行ってないから・・・」と、今でも彼への評価が低いとか。
それって、第三者が客観的に見たら、おかしいですよね? でも当事者は気づかないケースって案外多いんですよ。人は、思い込みをなかなか外せない生き物なんですね。

――多様性、という言葉はよく使われるようになりましたが、本当の意味で多様性を理解するって、難しいことなんですね。

田口まさ美さん

お受験中、最近冷静になれていないと思ったら

――親が自分を見つめ直した上で、どうしたらより日常的に冷静さを保っていられると思いますか。

益田:これは難しいです。臨床していく中で、患者さんが、いくつかの<自分の中の常識>を打破する必要があるんですね。自分の思い込みから抜ける必要がある、ということです。 でも、思い込みを自ら解くのは、なかなか大変な作業です。思い込んでいるわけですから。

「心」って言いますけど、それはつまり「脳」のことですよね。まずその認識が必要だと思います。まずは、心には魂があるわけじゃなくて、脳の問題なのだと理性的に捉え、感情的にならず脳科学的に考えないといけません。

受験でありがちなのは、「子供の努力が足りない!」と思ってしまうこと。実はこれ、脳科学的に考えると間違いと言えます。 子供の成績が親の期待ほどでなかったとして、その理由はただ単に子供の努力が足りないということ以上に、子供には発達段階の差、という原因があるわけです。大人と違い、成長の途中なのですから、成長が早い子もいれば、遅い子もいます

「数字」のような抽象的概念の理解にも、年齢的(脳の成長段階的)なものが関係していて、その子の成長スピードによっても理解の度合いは当然違ってきます。ですから、端的に言ってしまうと、成長が遅い子には受験は不利です。

ただ、成長のスピードが、人生を通してそのままとも限りませんし、その後どのくらい成長するかという「成長率」と「成長スピード」が比例しているとも限りません。その辺りはまだ研究結果も出ていなくて、あまり分かっていないのですが、少なくとも小学生や幼稚園での成績順が大人になっても全く同じということはないですよね。

また、脳の特徴として親の言うことを聞く子もいれば、聞かない子もいます。当然親の言うことを聞かない子は受験には不利ですよね。 別の脳の発達的なこととしては、早めに思春期に差しかかる子と、ゆっくりな子がいます。つまり、いろんな要素の重ね合わせが、今、その子の姿として現れているわけです。

それらを全部無視して、「努力や気合でカバーしろ」と言うのは、冷静に考えて苦しいですよね。ですから、現時点での子供の姿を、冷静に客観的に受け入れるということが大事だと思います。

受験には向いていなくて、高学歴にならなかったとしても、だから地頭が悪いとも限らないですし、その逆もあります。社会に出ると、高学歴でも働くのは苦手な人もいますし、学歴がなくても地頭が良くて社会的に成功している人も、たくさんいます。

脳の成長の速度というのは、兄弟がいるかいないか、などの環境にも左右されますし、同じ環境でも兄より弟の方が早かったりします。また、一人っ子だと遅いか?というと、そうでもなく、親戚がいたり、スポーツクラブでお兄ちゃんをよく見ているなどの環境でも変わります。複雑な要素が絡んでいるので、正直まだ分かっていないことも多いんです。 

ですから残念ながら、脳科学で、人間の脳の発達や能力の開発についての全てを説明できるわけではありません。ただ、さまざまな臨床を見ていると、人の発達には個人差があり、発達の仕方も多様だと言うことは、明確に言えるんですね。寄り道パターンや、早熟パターンなど、本当に人の脳の発達は多種多様なんです。

でも、「学歴」ということだけで言うと、それは「受験システムに適している脳かどうか?」だけで決まりがちなわけです。そのことを、「ただそれだけのことだ」というように、冷静に受け止められるといいのですが。「努力が足りない」だとかの精神論ではないんだ、という捉え方ですね。 受験への取り組みも頑張るのだけれど、半分は斜めから見る目も同時に持っていると、そんなに激高しないと思うんです。

――どれだけ自らを客観視できるか?という理性とか、知性の問題なのですね。

益田裕介さん

受験が向いている子、向いていない子 

――子供が受験に向いていなかった時や、思春期にたまたま早く突入して反抗期の時などは、親はどう考えるのがよいか、もう少し詳しく教えてください。

益田:受験に向いてる子もいれば、向いてない子もいます。それは事実です。

親は勉強が苦手だけれど、子供はすごく得意なケースもあれば、逆に親が勉強が得意で学歴が高いけれど、子供はそうでもないケースもあります。前者の場合は親はラクですが、後者の場合は、「そんなはずはない!」と子供に自分と同じくらいの能力を求めてしいてしまいがちで、そうなると子供も苦しいですね。

でもそれは、遺伝子の性質を考えれば、「そんなこともある」んです。親子は全く同じ遺伝子ではありませんし、似ていることもあれば、そうでないこともあります。そうした自然の摂理を、そういうものだと素直に理解し、納得して、受け入れることは大切ですよね。

また、思春期に入る時期にも個人差がありますから、小学生で、すでに思春期に入ってしまっていれば、それは親に反抗したくもなります。正直それは仕方ないです…。思春期とは、親に反抗するためにあるものだと受け入れてください(笑)。親と子が、その時期に戦わない方がいい。生物の本能には、勝てないんです

東大生に話を聞くと、「大学に入ってから思春期が来た」とか「初恋が大学生」とか言う人も少なくありません。“たまたま思春期が後に来たから、若い頃に恋愛にうつつを抜かさず、親に反抗もせず、勉強に集中できて、現行の受験システムにはフィットしていた”みたいなことですね。受験だけで考えたら、ラッキーなケースと言えるのかもしれませんよね(笑)。

ともかく、どの時期にどのような成長が来るかは、本能なので、本人にも親にも意志的には変えられませんから、冷たいようですが「うちの子はそうなんだな」と思うしかありません。そうじゃない子と比べても、意味がないんです。もし誰かと比べるのなら、自分の子が反抗期だったら、同じような反抗的な子と比べてみる方が、まだいいと言えます。

人間の生物学的な成長と、受験システムはフィットしているわけではありません。この受験システムは、古来から続いていて未来永劫このまま、というものではないわけです。でも、人間の本能的なものは、意外と太古から変わらず、その時代のシステムに合わせて、都合よく変えられません。

ですから、今の時代のシステムに、全てを都合よく合わせようとしても、うまくいかなかったり、歪みが出る場合もあるんですよね。でも、受験システムに適合しなかったとしても、人生が全てがそこで決まるわけではありませんから。

そういうことを頭の片隅に入れながら、ちょっと自分たち親子を俯瞰して見ていくような気持ちの余裕が持てると良いんだろうなと思います。

――受験システムへの適性とは別に、例えば「子供の能力が低い?」と思うことって、親にとって、強い不安を感じることかと思いますが、これについてはどう思いますか。

益田:そうなんですよ。親って、子供の能力が自分と同じかそれ以下だと不安になる生き物なんですよね!でも、先ほども申し上げたように、人間の繁殖のルール上、子供は自分と相手のDNAを掛け合わせて、必ず違った遺伝子の形として生まれてくることだけが決まっている中で、「子供が絶対に自分より優秀に生まれてくるはずだ」と考えたり、または「そうであってほしい」と強く期待することって、それ自体が全く冷静じゃないですよね。

子供に期待をもち、そう思ってしまうこと自体は、「人間の本能」ではがあるが、同時にそれが「冷静な考えではない」、と知っていることが大事です。

学歴への信仰心は、なぜ根強い?

――では、なぜそこまで人は学歴なるものを信じてしまうんでしょうか?

益田:一説には、記憶は「新雪の丘」ということが言われます。新雪に最初のソリの跡ができて、2回目はその1回目の跡を追うようにできる、というように、記憶は1回目の記憶を追いがちな性質があるということです。

例えば、10代の脳は、思春期にも差し掛かり、“他人を気にする脳”だと思うのですが、10代の頃って、外見とか学校の中での成績を重視しがちですよね。ですから、そのときの競争体験が最初の記憶として強烈に残ってしまいがちです。人生の最初の時期に「学校で成績が良いことは大事だ!」「外見が良いことは大事だ!」などと思い込んでしまうと、それ以降に、いくら他の競争に勝ったとしても、最初に覚えた悔しさや劣等感の方が残りやすい、ということは、あるのではないでしょうか。

最初の記憶って、そのくらい大きなものなんですね。ですから、昔欲しいと強く願ったものに大人になっても無意識に引っ張られがちという性質があります。それは一生消えないことが多いです。ただ無理に消すことはできなくても、「これは当時の憧れで、古い記憶。今は支配されないようにコントロールしよう」と思っているとよいです。

最近ガチャガチャが流行っていますが、大人になってもついガチャガチャが欲しくなっちゃう人、いるじゃないですか。そんな感じです。冷静に考えたら必要ない。でも、つい買ってしまうのも仕方のないこと(笑)。

同じように、つい自分の子に学歴を求めてしまうのも、まぁ、仕方のないことです(笑)。そのような自分の一面を知りながら、子供の受験とも付き合えれば、いいのではないかな、と思います。“その感情に病的に支配されていること”と、“つい気になってしまっているだけ”という状態では、全然違うので。感情に支配されないことは大事ですね。

人間への本質的な理解、社会への本質的な理解が進むか

結局は、自分がいろんな情報に流されないようにするには、ここです。自分の経験や知識を総動員して、人間や社会を深く理解していくということだと思います。小手先のテクニックではありません。受験についても幸せについても、全部繋がっていると思います。

「人間の本質は何か?と問うこと」が、遠回りのように見えて、いちばんの近道です。

――この連載の第10回目『改めて連載コンセプトをお伝えします 〜正解がない時代の教育論〜』 でも書いたのですが、この連載の目的も、親が自分なりの「教育観」を持つことにあります。そのためには「自分なりの幸福観」を確立すことが大事だと思っています。人間にとっての幸せとは?自分にとっての幸せとは?というような本質的なことをじっくり考えていくと、子供に対するスタンスも、教育に関するスタンスも自ずと定まってきて、無闇に情報に左右されず、心が落ち着いてくるのではないかと思います。

益田:その時に、自分の生い立ちを語り直す、自分の親を語り直すことは有効です。「なんでお父さんはこの仕事してたのかな?」「その時の社会情勢はどんなだっただろう?」 などと自分に問い、小さな発見を積み重ねることですね。この小さな発見が1万とか重なると、ある時、認知がポンと変わるんです。

小手先の認知行動療法とか、ロジカルシンキングとかは、最初は効果がある気がするのですが、1ヶ月くらいすると、本人もつまんなくなってしまう。あまりためにならないと思います。

結局は、本質的な理解を増やす作業を、コツコツとやっていくことですね。何か分かりやすいことをして、少し年収が増えたとか、他の人より残業が短くなったとか、そいういうことで一喜一憂していても、本当の幸せにはなれないし、本質的な治療にはならないんです。

幸せの青い鳥じゃないですが、「自分は不幸な状態にあり、他の人は幸せ。自分もあっち側の世界にいたら幸せになのに」という考え方をしてしまう人がいますよね。でも実際はそうではなくて、今の延長線上にしか自分の人生は無いわけです。「こうなったら幸せで、今はそうなってないから不幸だ」と思うのはよくないです。

ずっと何が幸せなのか、小さな気づきを重ね続けて、学び続けないといけないんですよね。

――「本質を考える」という思考習慣を、日本ではあまり教育環境の中で大切にされてきておらず、そういった哲学的な問答をすることに慣れていない人が多いかと思います。

益田:だから小手先のことに騙されちゃったり、受験戦争みたいなものに飲み込まれたりしてしまうわけですよね。 

でも、こういう遠回りな話って、僕も最初は誰も興味ないかと思っていたんですが、YouTubeも登録者は思ったよりも増えています(※チャンネル登録者数55.4万人/2024年2月現在)。なので、意外と興味がないわけではないんだなと。男性よりは女性の方が興味がある傾向にありますね。

――女性は悩みながらも、そこに向き合う気持ちがある人が多いということでしょうか。続いて後半では「受験生にとって、一番良い脳の状態」や「働く母親の、お受験&仕事のバランスのとり方」、「受験も人生もうまく行く最適解」などについてお聞きします。

教えてくれたのは…

益田裕介(ますだ・ゆうすけ)さん

〈精神保健指定医、精神科専門医・指導医〉
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、2018年より早稲田メンタルクリニック院長。精神科医YouTuberでもあり、登録者数は54万を超える。オンライン上の患者会、家族会も運営。

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Interview&Writing

田口まさ美

〈教育エディター〉
小学館で教育・ファッション・ビューティ関連の編集に20年以上携わり独立。現在Creative director、Brand producerとして活躍する傍ら教育編集者として本連載を担う。私立高校に通う一人娘の母。Starflower inc.代表。Instagram:@masami_taguchi_edu

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