芸人、コメディアン、作家…、どれもしっくりこないと感じることも、僕の原動力
長髪と白いヘアターバンをトレードマークに、「小心者克服講座」でブレイクしたのが、大学在学中の1994年。お笑い芸人としてだけでなく、番組MC、DJ、エッセイストなど、「肩書き」を増やしてきたふかわさんですが、そのどれにも「しっくりこない」と言います。ちょっと面倒くさくて、でも周囲への愛にあふれた、ふかわさん流こじらせ道を語ります。
語り/ふかわりょう
違和感や嫌悪感が
僕の中のタンクに溜まっていく
僕は、こじらせよりも、このコーナーのように「芸人」として“くくられる”ほうが嫌ですね。こじらせていて、すみません。
以前書いたエッセイ『ひとりで生きると決めたんだ』では、「私に見合った肩書きはあるのだろうか」という悩みを書きました。芸人、コメディアン、作家…、どれも間違いではないけど、どれも違和感がある。また、その後のエッセイ『世の中と足並みがそろわない』が文庫になって、ネットでも取り上げられて、それはうれしいことだけれど、記事のあとに又吉(直樹)くんや東野(幸治)さんの本の広告が出てくる。また同じ種類として“くくられてる”。これも、嫌だなー。
でも、このしっくりこないと感じるエネルギーが大事で、僕にとっての原動力になっている気がします。違和感や嫌悪感が僕の中のタンクに溜まっていって、エッセイなのか、小説なのか、なんらかの形になって世に出ていく。しっくりきて納得しちゃったら、それはもう…終極なのかなと思います。
写真をもっと見るこの小説は、
女性の目に触れてはいけないと思います
最近、「いい人」をテーマに小説を書きました。以前から書くことは習慣としてあって、いつも頭の中に無数のフレーズや言葉があるなかで、時代の空気感や風向きが、小さな渦をつくって、その渦に巻き込まれて出てきたワードが、「いい人」でした。背景には、「正しさ」ばかりが求められ、どんどん大きくなっている昨今の風潮への反発があります。そんな世の中は息苦しいのではないか。人は正しいことばかりに感動するわけではないし、演奏でいえば譜面どおりの音楽がいいわけではありませんから。
主人公が、結婚相談所の女性に「どうして婚活がうまくいかないのか」と尋ねたことに対する答えが、「あなたがいい人だからです」。それは真実だと思います。「いい人」にもいろいろあって、文脈や受け手によってポジティブにもネガティブにもとらえられる言葉。そして僕自身はというと、好きな人の前では「いい人」になってしまいます。好きになったら相手ひとすじになって、すべての熱量を注ぐ。その熱量はどんどん増幅して、ヤキモチを焼くし、歪みが生まれたりもする。
でも、こんな一途な男より、恋愛においては多少「悪い男」のほうが、人を惹きつける力があるというのも、残念ながら事実でしょう。ちょっと余裕があるというか、遊んでいるというか、そんな男がモテるけど、結局、女性は痛い目を見るでしょ。だから言ったじゃないかと。そんな思いも込めて小説を書きましたけど、これは女性たちの目に触れてはいけないと思います。
ポジティブに言えば
ピュアで感受性が強いけど…
仕事を始めたころから不器用で、自分が偏った人間だとわかっています。でも、その偏りが表現活動につながっています。そして、年を重ねるほどに拍車がかかって、なんていうんでしょうか、ヤバい人間になっている。その偏ったところや危うさは、原液のままではヤバすぎて表に出せないので、小説にして、素敵な装丁にして、出版社の名前をつけて、なんとか売り物にできるんです。
この前は、インスタライブで本の朗読をしながら、途中から涙が止まらなくなってしまいました。ポジティブに言えばすごくピュアだとか感受性が強いということになるのでしょうが、一歩間違えると…ね。きっと、誰もがみんな似たような危うさをもっていて、それでも、周囲の誰かが支えてくれて、ギリなんとかなっている。自分を見ていて、そう思います。
そして結婚のほうはというと、小説のように結婚相談所に委ねることはないでしょうし、マッチングアプリもDMもやりません。このままひとりでもいいし、もし一緒に過ごせる人が現れたら、それはそれでいいかな、という感じです。でもいま、ギリ49歳。数年後の気分はわからないですね。(おわり)
タレント
ふかわりょう
ふかわりょう/1974年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学在学中の1994年にお笑い芸人としてデビュー。長髪に白いヘアターバンを装着した「小心者克服講座」は、のちの「あるあるネタ」の礎となる。現在のレギュラー出演は、TV「バラいろダンディ」月~木曜日(TOKYO MX)、「ひるおび」第3・5水曜(TBS系)、ラジオ「ロケットマンショー」火曜日(Fmyokohama)。MCのほか、DJや執筆など活動は多岐にわたる。
○ふかわりょうオフィシャルサイト「Happy Note」
エッセイ『世の中と足並みがそろわない』『ひとりで生きると決めたんだ』がヒットして間もないふかわさんが、初の書き下ろし小説に挑戦。四十路の独身男・平田は誰もが認める「いい人」だが、あるきっかけで「とことんサイテーになってやる!」と決意。さまざまな訓練を経て、平田はサイテー男になれるのか!? 『いいひと、辞めました』(新潮社)
撮影/高木亜麗
取材・文/南 ゆかり