「所定労働時間」の意味をご存じでしょうか? 職場で聞いたことがあるという方もいらっしゃることでしょう。ですが、詳しい意味を聞かれると、実はよく分からないという方も多いのではないでしょうか? また、「法定労働時間とは違うの?」とか、「パートやアルバイトの場合はどうなるの?」などの疑問の声も聞えてきそうですね。
そこで、この記事では、所定労働時間の意味や法定労働時間との違い、パートやアルバイトで押さえておきたいポイントなどを解説します。
所定労働時間とは? 基本的な定義をわかりやすく解説
所定労働時間とは簡単に言うと、「企業が定めている労働時間」のこと。例えば、1日8時間勤務などのようなイメージですね。なお、所定労働時間は、会社や契約形態によって異なることがあります。ただ、何時間でも良いわけではなく、「法定労働時間を超えない範囲」ということが条件になりますよ。

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では、「所定労働時間」と「法定労働時間」の違いは何でしょうか? ここからは、所定労働時間と法定労働時間の関係や違いもみていきましょう。
所定労働時間と法定労働時間の違い
所定労働時間と法定労働時間には、どのような違いがあるのでしょうか? 「同じ意味だと思っていたけれど、違うの?」という疑問をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。ですが、厳密には、所定労働時間と法定労働時間は異なるものです。
まず、所定労働時間とは、「あらかじめ就業規則等で定められた労働時間」のこと。例えば、「1日7時間勤務」などのイメージですね。一方、法定労働時間とは、その名の通り法律で定められている労働時間の上限のこと。法定労働時間は、業種や職種により例外もありますが、基本的に1日8時間、1週間40時間が上限となっています。
なお、所定労働時間は、法定労働時間を守った上であれば、企業が自由に決めることができますよ。また、パートやアルバイトなど、さまざまな働き方の人がいる職場の場合、契約に応じて所定労働時間が違うことも。例えば、「Aさんの所定労働時間は5時間、Bさんの所定労働時間は4時間」など、さまざまなパターンで契約を結んでいる会社もあります。
契約書で確認すべきポイント
雇用契約書の内容を確認する際、特に気を付けたいのが、所定労働時間や始業・終業時刻が合っているかという点。近年、働き方がどんどん多様になっており、さまざまな契約のパターンがあるという会社もあるからです。
特に、最近聞くのは、「採用面接では1日7時間と聞いていたのに、契約書では8時間になっていた…」というようなケース。実際に、筆者の知人は、契約書に書かれている所定労働時間をよく確認せずにサインをしてしまい、冷や汗をかいたという経験を語ってくれました。
後から大慌てで会社に確認したところ、「すみません。間違えて記載してしまっていました」と人事から連絡があったといいます。所定労働時間は、ライフスタイルや働き方に大きく影響しますので、しっかり確認するようにしたいですね。

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パート・アルバイトの所定労働時間と特徴
パートやアルバイトの所定労働時間は、契約やシフトの組み方によって、かなりバリエーションがあります。例えば、1日4時間勤務などもありますよ。
なお、パートやアルバイトの話題と関連してよく耳にするのが、「週20時間」や、「週30時間」の基準です。中には、「これは一体何の基準なの?」という疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか? ここからは、週20時間や30時間の基準についても、簡単に見ていきましょう。
週20時間や30時間の基準について
週20時間や30時間の基準とは、基本的には次の通りです。
・週20時間:雇用保険加入の目安となる労働時間
・週30時間:健康保険や厚生年金(いわゆる社会保険)加入の目安となる労働時間
ただ、この時間数はあくまで目安ですので、実際は所定労働時間だけでは判断できません。また、会社規模によっては、週20時間以上勤務で、雇用保険だけでなく健康保険や厚生年金にも入る必要があるケースがありますよ。
ちなみに、「パートやアルバイトは、週20時間、もしくは週30時間以上働いてはいけない」というわけではなく、あくまで雇用保険や社会保険の加入の目安となる時間であるというのもおさえておきたいポイントです。
所定労働時間と休憩、残業、有給休暇の関係
所定労働時間と休憩や残業、有給休暇との関係が気になるという方も多いのではないでしょうか? ここからは、基本的な扱いをそれぞれ見ていきましょう。
休憩時間は所定労働時間に含まれる?
まず、休憩時間は、所定労働時間には含まれません。所定労働時間は、休憩を除いた働くべき時間とおさえておくといいでしょう。なお、休憩時間は、労働基準法第34条で定められた次のような基準がありますよ。
・働く時間が6時間超、8時間以下の場合:少なくとも45分
・働く時間が8時間超の場合:少なくとも1時間
少なくともということは、これより多い休憩時間の可能性もあるということですね。実際に、ある企業では、「お昼休憩1時間とは別に、夕方16時から15分小休憩」という制度にしているといいます。誤解がないよう、雇用契約時に休憩のルールも確認しておくようにすると安心ですね。
残業時間と所定労働時間の扱い
残業時間とは、「働くべき時間を超えた時間」のことをいうのが原則です。ただ、実は「残業」は厳密にいうと、「所定外労働(所定労働時間を超えた労働時間)」と「法定外労働(法定労働時間を超えた労働時間)」がありますよ。
なお、会社によっては、所定外労働と法定外労働の割増賃金率が異なることも。この違いがあいまいな場合、「思っていた残業代と違う!」というトラブルになることもありますので、この点は特に気をつけたいポイントです。疑問がある場合はまず、就業規則、雇用契約書で、割増賃金の欄や計算方法を確認してみてくださいね。

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有給休暇取得時の計算方法
有給休暇の日数は、週の所定労働時間や所定労働日数によって、いろいろなパターンがあることをご存じでしょうか? ちなみに、これを「比例付与」と呼びますよ。
週の所定労働時間が30時間未満で、かつ週の所定労働日数が4日以下の場合、原則この比例付与の対象になります。つまり、週1勤務だったとしても、有給休暇はあり得るということですね。時折、「パートやアルバイトは、有給休暇が取れないのでは?」と誤解されているケースもあるので、おさえておくと安心です。
参考:厚生労働省「しっかりマスター労働基準法 有給休暇編」
最後に
この記事では、所定労働時間の基本的な意味や、法定労働時間との違い、パートやアルバイトなどの場合や、注意しておくべきポイントを解説しました。所定労働時間は、「ややこしい」や、「誤解しがち」という声もよく耳にするキーワードですので、基本をおさえておくと安心ですね。
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執筆
塚原社会保険労務士事務所代表 塚原美彩(つかはら・みさ)
行政機関にて健康保険や厚生年金、労働基準法に関する業務を経験。2016年社会保険労務士資格を取得後、企業の人事労務コンサル、ポジティブ心理学をベースとした研修講師として活動中。趣味は日本酒酒蔵巡り。
事務所ホームページ:塚原社会保険労務士事務所
ライター所属:京都メディアライン