近年、カスタマーハラスメント(略して「カスハラ」)が職場環境に深刻な影響を及ぼしています。顧客対応の現場だけでなく、組織全体としての対応力が問われる課題です。この記事では、管理職がカスハラを正しく理解し、適切な対応策を講じるための知識を提供します。
カスハラとは? 基本の意味とわかりやすい解説
まずは、「カスハラ」について、管理職が知っておくべき基礎知識をわかりやすく解説します。
「カスハラ」の定義
カスハラとは、カスタマーハラスメントの略です。辞書での定義を確認します。
カスタマー‐ハラスメント
《和 customer+harassment》消費者・顧客による悪質ないやがらせや迷惑行為。理不尽なクレームや暴言を繰り返す、度を超えた謝罪や対価を要求をする、暴行を加えるなど。カスハラ。
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
カスハラとは、顧客が正当な範囲を超えた要求や威圧的な言動を従業員に押し付ける行為を指します。例えば、商品やサービスへの不満を理由に暴言を繰り返したり、不合理な補償を強要するケースがカスハラに該当します。

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カスハラの具体例
具体的な事例として、以下のような場面が挙げられます。
• 小売業:返品条件を満たさない商品に対し、長時間の抗議や威圧的な態度を取る。
• 医療現場:診察や治療の順番に不満を持ち、医療スタッフに執拗なクレームを繰り返す。
• カスタマーサービス:電話対応中に無理難題を突きつけ、感情的に怒鳴り散らす行為。
これらはいずれも、顧客が持つ正当な要望を超えた行動です。
クレームとの違い
クレームとは、顧客が商品やサービスに対する不満や問題点を指摘し、改善や対応を求める行為です。これは、企業がサービスの質を向上させるための建設的なフィードバックとして捉えられます。例えば、製品の不良が発覚した際に、交換や修理を求める行為は、正当なクレームの一例です。
一方で、カスハラは、正当な範囲を超えた要求や、不合理な言動を伴う行為を指します。クレームが企業にとって改善の契機となるのに対し、カスハラは従業員に精神的・身体的負担を与え、業務に支障をきたします。
例えば、「製品の交換をお願いしたい」というクレームが適切であるのに対し、「交換が遅い」として怒鳴りつける行為は、カスハラとして対応が必要です。
クレームとカスハラの違いを明確に理解することは、管理職として適切な判断を下すために欠かせません。クレームの背景にある顧客の意図を正しく把握し、必要以上に従業員が負担を感じない対応策を講じることが求められます。
カスハラへの対応策とは?
カスハラの対応策として重要なのは「企業としての対応」、「個人の対応」、「上司の対応」です。それぞれの紹介とともに、厚生労働省の指針と企業の責務についても解説していきましょう。

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厚生労働省の指針と企業の責務
厚生労働省は、カスハラ防止のために「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を作成し、企業が取るべき具体的な対策を提示しています。このマニュアルでは、事業主がカスハラに対し、相談体制の整備や被害者への配慮など、適切な対応を行うことが望ましいとされています。
また、労働施策総合推進法の改正により、職場におけるパワーハラスメント防止措置が事業主の義務となりました。これに伴い、顧客からの著しい迷惑行為であるカスハラについても、企業は適切な対応策を講じることが求められています。
企業としての具体的な対応策
以下に具体的な対応策を3つ紹介します。
1.カスハラ対策ポリシーの策定と周知徹底
企業は、カスハラに対する明確な方針を策定し、従業員と顧客の双方に周知することが重要です。これにより、従業員は安心して業務に従事でき、顧客にも企業のスタンスを理解してもらえます。
2.相談窓口の設置と対応マニュアルの整備
従業員がカスハラ被害を受けた際に、速やかに相談できる窓口を設置し、適切な対応が取れるようマニュアルを整備します。これにより、被害の拡大を防ぎ、従業員のメンタルヘルスを守ることができるでしょう。
3.従業員への教育・研修の実施
カスハラに対する理解を深め、適切な対応方法を身につけるため、定期的な研修を実施します。特に管理職は、現場での指導やサポートの役割を果たすため、深い理解が求められます。
個人としての対策
従業員一人ひとりがカスハラに適切に対応するためには、以下の点が重要です。
毅然とした態度で対応する
感情的にならず、冷静かつ丁寧に対応することで、状況の悪化を防ぎます。
危険を感じたら上司や専門部署に報告する
自身で対処が難しい場合や危険を感じた場合は、速やかに上司や専門部署に相談し、適切なサポートを受けることが大切です。
メンタルヘルスのケアを心がける
カスハラによるストレスを溜め込まないよう、適度な休息やリラクゼーションを取り入れ、心身の健康を維持しましょう。

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上司としての対策
上司の対応のポイントは、カスハラを発展させないことです。安易に非を認めることはせず、事実関係を正確に把握したうえで、過失の程度に応じた謝罪をすることが大切。
また、カスハラの被害者へのフォローも忘れてはなりません。事案が解決したあとも記録を保存し、防止策につなげる事が重要です。
最後に
カスハラは、現場の従業員だけでなく、組織全体で取り組むべき課題です。管理職は問題の本質を理解し、適切な対策を講じることで、従業員の働きやすい環境を築くことが求められます。法律やガイドラインを活用しながら、組織としての対応力を高めていきましょう。
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監修
社会保険労務士 小田啓子(おだ・けいこ)さん
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。
ライター所属:京都メディアライン
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