面接官の好意的な発言を「内定」と受け取らないよう、注意しましょう。
Summary
- 内々定は、企業が採用予定の意思を伝える段階。労働契約が成立したとはみなされないケースがほとんど。
- 内定承諾書を提出しても、辞退は可能。ただし、損害賠償を求められるリスクもゼロではない。
- 辞退を伝えるときは、メールなど文書を残しておくことがおすすめ。
「内々定」をもらって安心したけれど、「これって正式な内定とは違うの?」と不安に感じたことはありませんか? そこで、この記事では、「内々定」と「内定」の違いや、それぞれの法的な意味、注意したいポイントについて解説します。
内々定と内定はどう違う? 就活でよく聞く2つの用語を整理
就職活動中、「内々定をもらった」と聞くと、もう就職が決まったように感じてしまう人も多いかもしれませんね。でも、その「内々定」と「内定」では、法的な意味や扱いに大きな違いがあるということをご存じでしょうか? そこで、この記事では、内定と内々定の違いや注意したいポイントなどを解説します。
内々定とは? 企業が採用予定の意思を伝える段階
「内々定」とは、企業が「あなたを採用する意向があります」と伝えている状態のこと。一般的には、「内定」とは異なり、この段階ではまだ労働契約が成立したとはみなされないケースがほとんどです。
そのため、企業が内々定を取り消しても「解雇」とは扱われず、選考を受けた側が辞退した場合も、「契約の破棄」とは見なされないことが多いでしょう。
ただし、ケースによっては、企業と本人の間で強い拘束関係があったと判断されて、「内定と同じ扱い」とされることもありますよ。そのため、内々定のやりとりでも、お互いに慎重に対応することが大切です。
参考:厚生労働省「労働条件に関する総合サイト|確かめよう労働条件」
内定とは? 法的拘束力を持つ正式な雇用の約束
一般的に「内定」とは、将来の入社日から働くことを約束している状態です。なお、内定は、「こういう理由があれば内定を取り消せますよ」という条件付きでの契約となっていることが多く、「始期付き解約権留保付き労働契約」と呼ぶことも。少し難しい言い方に感じる方も多いかもしれませんね。
ここでおさえておきたいのは、内定は企業が一方的に取り消すことはかなり難しいという点です。というのも、内定取り消しは、「解雇」とほぼ同じ扱いになるからです。法律では、こうした取り消しの合理性や相当性が厳しくチェックされることになりますよ。

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内々定や内定の誤解が生まれる背景や実態
内定や内々定は、誤解によるトラブルもよく耳にするのではないでしょうか? 意外と起きがちなのが、採用面接の際に面接官が言った発言を誤解してしまうケースです。ここからは、実際にあった事例をもとに、実態や注意点をみていきましょう。
あるIT系スタートアップ企業での採用面接での出来事です。人事担当者が応募者と一次面接をした際、その応募者と共通の趣味の話で盛り上がり、意気投合。そして、「ぜひあなたと一緒に働きたいです!」と応募者に好意的な言葉をかけたそうです。これが誤解のきっかけでした。というのも、応募者はそれを「内定」と受け取ってしまったのです。
しかし、二次選考で社長や役員たちが、「求めていた人物像とは違うし、スキルも経歴もマッチしない…」と判断し、不採用となりました。ところが、応募者はすでに「内定をもらった」と思い込み、他社の選考を辞退していたため、「内定を取り消された!」とトラブルに発展してしまったのです。
このように、面接官の好意的な発言を正式な「内定」と受け取ってしまうのは避けるようにしましょう。また、採用の意思は、正式な書面(内定通知書など)で確認するようにした方が安心ですよ。


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内々定・内定の「承諾」や「辞退」はどう違う?
ここからは、内々定や内定の承諾や辞退についても違いや注意点をみていきましょう。
「とりあえず承諾」は通用する? 内々定の扱い方
企業から内々定をもらった際、「とりあえず承諾しようかな…」と悩んだことがある人も多いかもしれませんね。特に、いろいろな会社の選考が進んでいる段階では、迷う人も多いのではないでしょうか?
まず、前述の通り、内々定の時点では正式な契約ではないとするのが一般的です。そのため、あとから辞退しても契約破棄とはみなされないことが多いですよ。
とはいえ、人事担当者や会社側の時間を割いていることも事実です。最初から辞退前提で内々定承諾を「とりあえず」という軽い感覚ですることはおすすめできません。また、辞退するときのタイミングや伝え方によっても、企業側の印象は変わってくるでしょう。辞退したいというときは、なるべく早めに、丁寧な言葉で伝えるようにしたいですね。

辞退するときは、なるべく早めに!
内定承諾書の重みとは? 署名・返送時の注意点
内定承諾書を提出した場合、労働契約が成立したとみなされる可能性が高くなります。こう聞くと、「じゃあ、絶対辞退してはいけないってこと?」と不安になってしまう人もいるのではないでしょうか?
実は、辞退することは可能です。「働きたくないのに働かなければならない」と強制されるわけではないということもおさえておきたいポイントですね。というのも、労働者の意思に反して強制的に働かせるというのは違法だからです。
とはいえ、一方的な辞退が「契約違反」とみなされ、状況によっては損害賠償を求められるリスクもゼロではありません。また、企業側にも採用にはかなりの時間的、金銭的なコストがかかることも多く、急な辞退は迷惑がかかるケースもあるので、なるべく早めに連絡するのがマナーです。
まだ迷っている段階では、すぐに内定承諾をせず、少し時間をもらえないか相談してみるのもひとつの方法ですよ。じっくり考えて、後悔のない選択をするようにしたいですね。
なお、内定承諾書の署名・返送時に気を付けたいのは、書き間違いや送り先の間違いがないかという点です。ここで間違いがあると、入社前から印象が悪くなってしまうことも。内容をしっかりチェックしてから返送するのが安心ですよ。

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辞退のベストタイミングと印象を悪くしない伝え方
辞退を伝えるときは、誤解がないよう、メールなどで文書を残しておくことをおすすめします。
また、できれば電話で採用担当者に丁寧にお詫びと感謝の気持ちを伝えるようにしたいですね。企業側も採用にかなりの時間、お金、労力をかけている上、研修やオリエンテーション、備品の準備など、入社者を受け入れるためにさまざまな準備していることが多いからです。
そのため、入社直前の辞退はかなりの迷惑になる可能性大。場合によってはトラブルになってしまいかねません。辞退の気持ちが固まった時点で、すぐに連絡を入れるようにしましょう。
最後に
- 「内々定」は、企業が採用予定の意思を伝える段階。「内定」は、将来の入社日から働くことを約束している状態。
- 迷う場合はすぐに内定承諾をせず、猶予をもらえるよう相談してみるのもひとつの方法。
- 辞退を伝えるときは、メールなどで文書を残しておくこと。
この記事では、「内々定」と「内定」の違いや、それぞれの法的な意味、注意したいポイントについて解説しました。自分のキャリア選択はもちろん、採用業務に携わる人にとっても大切なキーワードですので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
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執筆
塚原社会保険労務士事務所代表 塚原美彩(つかはら・みさ)
行政機関にて健康保険や厚生年金、労働基準法に関する業務を経験。2016年社会保険労務士資格を取得後、企業の人事労務コンサル、ポジティブ心理学をベースとした研修講師として活動中。趣味は日本酒酒蔵巡り。
事務所ホームページ:塚原社会保険労務士事務所
ライター所属:京都メディアライン