香りと記憶って、深くつながっていると思うんです。
元・銀座のNo.1ホステスにして、現在35歳、広告代理店勤務、バツイチ、二児の母・勝友(かつとも=名字)。銀座時代、会社経営者に大手商社のエリート、政治家、医者・・・と、かずかずの、こう言ってはなんだが、いわゆる“一流の男たち”を虜にしてきた彼女に、今回は、男性にモテる「香り」についてどう思うか、聞いてみた。
前回お伝えしたように、勝友のふだんのファッションは、一言で表すなら「シンプル」。いや、むしろ、シンプルを通り越して“ちょい地味”ですらある。が、しかし、そんな彼女、自分の身につける「香り」には、意外なことに、並々ならぬこだわりがあるようだ。
「香りは私にとって、とても大切なものです。たとえば、ふとした瞬間に、ただよってきた香りで、懐かしい記憶が、思わずフラッシュバックしてくることってありませんか?子供のころの食卓の風景とか、過去におつきあいしていた男性との思い出とか・・・。たとえばその人の、姿形はぼんやりとしか思い出せなくても、香りの記憶は何年たってもリアルに残っていて、懐かしい気持ちを呼び起こされたり・・・。
香りと記憶って、深くつながっていると思うんです。だから、自分がまとう香りにも、こだわっています。ホステスを始めてすぐのころは、あえて、大人っぽく、セクシーな香りをまとっていたこともありました。“夜の蝶”として生きていくために、その世界にふさわしい香りを選ばなくては、と背伸びしていたのかもしれません。でも、ほんの少しずつ、自分にもお客さんがついてきた・・・そんなある日、ある方にいただいたプレゼントがきっかけで、自分の“香り”に対する価値観が、がらりと変わったんです」。
その彼女の“香り”の価値観を根底から変えたプレゼントというのは、とある、当時の彼女の太客(ふときゃく:太っ腹な客)のひとりだった、N.Y.在住のドクターから贈られたフレグランスだった。
「驚いたのは、それは、私をイメージして調合してもらったという、オリジナルのフレグランスだったんです。そしてそれは、それまで背伸びして身につけていたセクシーな香りとは真逆の、清潔感のある、やわらかな香りだったんです。そうか、自分はこの人から見ると、こういうイメージなのか・・・と、まさに、目からウロコでした。そして実際に、その香りを身にまとうと、その瞬間、肩の力が抜けて、背筋がスッと伸びて、こう、自分の芯が通るというか、気持ちが引き締まるというか、それがとても心地よかった。
オリジナルだから、ほかの誰とも香りがかぶらないというのもうれしかったですね。でも当然、だからこそ、二度と同じ香りは手に入らない。結局、ホステスを辞めてからもずっと、それに似た香りを探し続ける日々でした。そしてある日、ようやく“これだ!”と思える香りと出会えたんです。その香りですか?ごめんなさい、内緒です。」
勝友がどうしても教えてくれない、ふだん彼女から、さりげなくふわっとただようその香りは、たとえていうなら、人気のフレグランスでもある『ランバン エクラ・ドゥ・アルページュ』系の、クリアで嫌みのない、フローラル系の香り。さらに彼女に聞けば、こだわりとして、単品で使うと、誰かと同じ同じ香りになってしまうので、必ず手首に、そして必ず二種類の香りを、重ねづけするらしい。
そんな勝友だが、しかし一度だけ、たまたま筆者と、女同士ふたりで飲んでいるとき、カウンターの隣に座っている彼女から、いつもと違う香りを感じたことがあった。
「手首には常に、二種類の香りをつけていると言いましたが、実は、足首にも、また別のフレグランスをレイヤードしているんです。手首につける香りは、自分自身はもちろん、周囲の誰もが心地よく感じられる、清潔感のあるもの。対して、足首につける香りは、自分と距離が近い人にだけ、たとえば脚を組み替えたときなどにだけわかる、少しセクシーなものを、ほのかに香る程度に、ほんの少量・・・」。
ちなみに足首につけるのは『ゲラン イディール』や『イヴ・サンローラン・ボーテ オピウム』など、やや重めで官能的な香りを数種類、日替わりでつけているとかで、こちらはすんなりと教えてもらえた。
脳のメカニズムによって、五感の中でも、より感情的な反応を引き起こすといわれている嗅覚。人にどういう印象を与えたいのか、どういう女性に見られたいのか・・・、の自己演出に、香りを取り入れるのは、なるほど、理にかなっている。
一見、派手さはないものの、清潔感と透明感のある、凛とした印象。だがしかし、一歩踏み込むと、もはやあらがうことのできない妖しさ、危うさがある・・・。彼女がまとう香りは、まさに、彼女そのものなのだ。
今回の結論。『本当に男性を引きつける女は、手首と足首で、別の香りをまとっている』。
撮影/諸田 梢